鈴鹿のレースへ向けて、これほど気が抜けていた事は過去に無かったのでないだろうか? 例年、車検は1番で通すことにしていたが、今年もそれは叶わなかった。 台風10号の影響を受け天候が悪化していた。車検時も今にも雨が降り出しそうな雲行きであったため、多くのチームが車検を早く通そうと、例年よりも早く車検場へ車を進めてきた。そのような状況下で、我々は、やっとトラックからソーラーカーを降ろそうとしているような状態であり、到底1番に車検などできるはずは無い。 直ぐにソーラーカーを下ろし車検の列に並ぶが、既に10台くらいが先行して並んでしまっていた。 まずは、ドライバーの体重測定。 ここ数年は、ドライバーである平澤、高橋が体重をそろえ共通のバラストにしていたが、二人の体重差が広がり2kg近くなってしまっていた。何とか共通バラストで対応するため、高橋は体重測定前に多量のスポーツドリンクを飲む羽目となった。しかし、その甲斐あって何とか共通バラストでOKとなった。 次に車検が始まるが、今年は例年になく厳しいものであった。 これまではピット責任者の竹原が何とかごまかしてきた?ウインカーも見にくいといわれ、また、ウインカーの幅が僅かに足りないのではないかなどと指摘されてしまった。 しかし、ここまではまだ何とかクリアできた。そして最後の脱出テスト時にサイドブレーキが甘いと指摘され、これは修正をせざるを得なかった。 早速ピットに戻りサイドブレーキの調整を行った。 サイドブレーキはカンチレバー式でブレーキシューが後輪タイヤを直接押さえる構成となっているが、このブレーキシューとタイヤの摩擦力だけでは、オフィシャルの要求を満たさなかったようである。 そこで、急遽ブレーキシューに結束バンドを巻き、この結束バンドが爪の役割を果たして、ブレーキの効きを強くさせた。結果、サイドブレーキもOKとなり、1番ではないが何とか午前中に車検を終えることができた。
翌、土曜日になると台風の影響はさらに大きくなり、フリー走行が始まる前にオフィシャルから全エントラントへ臨時のブリーフィングがあるとの連絡が入った。 ブリーフィングではオフィシャルから台風の影響があるため、午前中のフリー走行と予選を中止し、午後に予選を行い、15時から本戦を2時間に短縮して開催したいとの話であった。 各参加者から意見が出され、結局、午前中に予定を少し遅らせてフリー走行を行い、午後に予選を行い、15時から19時まで本戦第1ヒートを行うこととなった。 我々にとっては、今回のソーラーカーはギリシャから戻ってきてモーターを取り替えてからほとんど走行テストを行っていなかった。ゆえに、ぜひともフリー走行をしたかった為、中止されなくて良かった。 フリー走行は高橋が乗り込み、初めてのミツバモーターの感触を掴む事となった。 フリー走行は10時から始まったが、この頃には風がさらに強くなり、フリー走行を行っていた車両の中には強風に煽られ横転した車もあるほどであった。そんな中、サンレイク号は非常に安定して走りができたが、キャノピーが風で飛ばされそうであることと、雨も降り始めてきた為十分なデータを取れないまま、ピットに戻ることになった。 僅かに得られたデータでは、効率が悪そうな結果であったが、その頃は、風の影響を受けたのであろうと判断していた。
予選はいつものように平澤が担当した。 天候が非常に悪いので、最小限の周回だけをこなし、直ぐにピットに戻った。平澤は初めてのモーターでも、昨年よりも僅かに早い4分31秒で走り、予選を8位で通過した。 今年もLiバッテリーの予備無しでの参加のため、予選を終えると直ぐにバッテリーの充電を行い本戦に備える。
本戦前に再度、ブリーフィングがあり、本戦の説明がなされた。 天候は強風と時折雨が混じるという状態である。そのため、オフィシャルは15時から本戦がスタートして2時間経過した17時の時点で赤旗を掲示し、レースを中断させるであろうとの説明がなされた。 通常4時間行われるところが2時間に短縮される、そのうえ、天気は全く読めない。さらにこれまで体験したことの無い強風の中でのレースとなり、作戦が非常に難しくなった。 今年はギリシャで使ったカブ用タイヤとソーラーカー専用タイヤを持ってきており、スタート直前までタイヤの選択に悩んだ。 雨であればカブ用タイヤは滑らず有利であるが電力的にはかなり損である。スタート直前の時点では曇りであったが、天気予報によると16時ごろから雨が降り出すとの予想から、結局、前輪はソーラーカー専用タイヤ、後輪はカブ用タイヤを使うことにした。 第1ヒートのスターティングドライバーは高橋である。 今年の鈴鹿のスタートシグナルは見にくかったようで、スタートシグナルとなっても先頭車両はスタート出遅れるという状態の中、高橋はいち早くスタートし、1番で1コーナーへと吸い込まれていった。 天候も読めず、モーターを交換した車の特性も良くわからないまま、最初は早いペースで走行した。が、次第に電力データが比較できるようになってくると、予想以上に悪いことが分かりラップを落とす。そんな中、有力チームはラップを上げる。われわれは当初4〜5位であったものが次第に順位を落とし、7〜8位となる。 ピットでは今年のサンレイクの気の抜け具合を示すかのように、混乱していた。 役割分担が上手く行かず、ドライバーから送られてきたデータを処理して、次の周回目標ラップタイムを直ぐに指示が出せず、ドライバー高橋を心配させていた。 また、2時間で赤旗が出るかもしれないということから、本当に2時間で赤旗になるのであれば、2時間直前にピットに予めソーラーカーを入れてしまおうという案が、平澤から出された。 これが本当に許されるかどうかを確認するようにと監督に言われた平澤が直ちにオフィシャルに確認に行く。オフィシャル内でも、問題がある、無しの両論が出たようで、平澤はなかなか戻ってこなかった。ようやく戻ってきた平澤は、ルール上は問題ないが、オフィシャルとしてはあまりしてほしくないな〜 といった感じであると報告。 これで、2時間でピットに強制的に戻して、ピットで赤旗を待つ作戦を選んだ。 2時間よりもほんの少し前にピットに入れるためにラップタイムをコントロールする。 そして、2時間10分ほど前になった時点で、ラップタイムの計算をしていた平澤が、計算ミスをしていたことに気づく。慌てて計算をし直し、急遽ドライバー高橋にピットに入る指示を出す羽目になった。 急にピットに入るように指示された高橋は理由が分からず、ドライバー交代なのか? との質問をしたが、それに対して監督からは、とにかく黙ってピットに入れととの冷たい指令が飛ぶしまつ。高橋にとってはピット前に戻ってからもしばらく、理由も判らぬままの待機状態となった。 2時間経過しトップ車両が通過した時点で赤旗が振られレース中断。第1ヒートは終了した。結局2時間で21周回を走り9位と後退した。
充電が殆ど出来ないまま、第2ヒートに突入。 第2ヒートもタイヤの選択に迷ったが、昨日、結果として雨が降らなかったので、天候は回復してくると読み、ソーラーカー用タイヤを全輪に装着して第2ヒートに望んだ。 第2ヒートは、第1ヒートとは一転し、7分程度の極めて遅いラップタイムから周回を重ねた。 ドライバー高橋は、第2ヒート最初の周でのピットへの連絡で、「ミツバのモーターの特性を掴んだ!」と連絡。その言葉どおり昨日よりは電力消費が少ない傾向にあるが、天候が回復せず電力に余裕が無いため、4時間車を安定して走行させるためにゆっくりとしたペースで周回を重ねる。 2時間を過ぎると、悪天候のため、電力不足で止まる車が増え、9位でスタートするも次第に順位を上げ、6位までに食い込む。 高橋の走行が非常に安定していたため、例年であれば2時間以前にドライバーを平澤に交代するのであるが、今年は2時間をやや過ぎるあたりまで高橋が運転し、平澤とバトンタッチした。 平澤に替わる頃には天候がさらに悪化し、雨が降り出した。太陽電池からの入力電力はさらに減り、どんどん厳しい状況になる。 次第にペースを落とし、それに従い順位も落ちてくる。3時間になろうかというときに平澤から「バッテリー電圧がおかしい、電池残量が少ないのではないか?」との連絡が入り、ピットに入ってくる。 車載電圧計の表示がおかしいかもしれないということで、ピットにある電圧計にて電圧を測定するが、車載と同じ表示を示した。 積算電流計による表示ではバッテリー残量はまだ400W以上あるのに実際には殆ど無いような電圧である。このまま、ピットで停車するかどうかが迷われた。 こうして止まっている間にも、かつて我々が所属した下位クラス(チャレンジクラス)の車が迫ってきている。ドリームクラスに参戦している以上チャレンジクラスには負けたくない。無理をしないレベルでゆっくりとソーラーカーをコースに戻すことにした。 しかし、殆ど残量の無い電池では走ることもままならず、1周を20分程度かけて走るのがやっとであった。その間にチャレンジクラスの車2台にも抜かれ、結果、8位でレースを終えることとなった。 ギリシャでモーターを壊し、その時にバッテリーにもダメージを与えていたようで、今回のレースではバッテリーの容量が85%程度になってしまっていたようである。 さらに、最後に無理に走らせたためそのバッテリーすら損傷を受けてしまった。 思えば、今年は、監督が本厄、エースドライバー平澤は後厄と、この二人の影響を受けてしまったのか???
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