高速道路を突っ走るトランポは、先にスタートしたチームの編隊を抜きながら走る。良いか悪いか、ともかくその日のラリーゴールであるパトラ大に到着したのは我々が一番だった。
モーターの回転子そのものの修理は、まったく同じ形で同じ磁力に磁化された磁石が手に入らなければ無理であることが良く解った。オフィシャルはパトラ大学の関係者を紹介し、修理に協力してくれるとのことであったが、現状で剥がれた磁石と同種の物が入手できる手立てはなく、行き詰まりを見せていた。
次第に、各チームもゴールし始める。
スタート前に予備のモータについて話をしていた、FH-BOCHUMチームとエール大学チームに再度接触を開始。FH-BOCHUMチームは、以前のレースでベアリングを壊してしまったNGMモーターを持っていた。「回転子は使えるかもしれない、しかし、それはグリファダ(最初の宿営地、パトラから約200km)にある」との事。
急遽、その部品を取りに帰るべく監督、竹原、森口氏が、FH-BOCHUMチームのラルフ氏を案内役として今日来た道を戻る旅に出た。
同時に、FH-BOCHUMチームの持つ回転子は使えないことも想定されたので、予備モーターを持つエール大学チームにも、並行してモーターの借用をお願いした。
彼らが予備に持ってきているのはNGMの旧モデル、形状はずいぶん違うが借用をお願いした。エール大のリーダー、デヴィドは「代用としてではなく、このモーターを使って走りたい、というのであれば貸しても良い」という提案。FH-BOCHUMには申し訳ないが、確実に動くモーターで対応することとした。
モーターが旧モデルのため、そのままではモーターを取り付けることはできず、取り付けるための新しいシャフトを作らなければならない。周囲はまだ明るいが、夏時間の時刻はすでに20時を回っており、これからシャフトを製作しなければならない。
オフィシャルに大学の機械を借りることができないかと、頼むと、「すでに遅すぎる」とのこと。
更に悪い事に、今回この大会向けに増設したバッテリーの1系列が過充電で液漏れを起こしている事も発見した。3並列あるうちの1系列のみを新品のバッテリーにて構成したために、その部分のみが過充電となったと思われる。
幸いにも古い2系列のバッテリーには問題がなさそうなので、液漏れを起こしたバッテリー系列を取り外して使用することとした。
失意にくれるチームサンレイクの前に、ギリシャの青年が二人現れた。地元ギリシャ代表パトラ大学ソーラーカーチームの学生メンバー、ニックとジョンである。
彼らは調子の良くないステアリング関係のパーツの改造に、これから実習工場に向かうという。すがる思いで工場についていった僕らを迎えてくれたのは、体重100kgを軽く超えるであろう巨漢のマスター・テクニシャン(機械実習工場の親方)のゲルギオス氏であった。
旋盤を貸して欲しいと頼む僕たちに、巨漢に似合わぬ可愛い笑顔のマスターは、僕たちを自分の部屋に連れて行き、「どんな部品が必要なのだ?」と問う。太田氏と高橋がラフスケッチを見せると、方眼紙を取り出し、自ら寸法を再確認しながら図面を引き出した。英語が全く通じないマスターにニックとジョンが通訳してくれる。
図面を引き終えたマスターは、自ら旋盤を操り、細かい部分は持ち込んだエール大のモーターに現物あわせしながら見事なシャフトを作ってくれた。
すでに日付は代わり、1時を回っていた。
グリファダにFH-BOCHUMのモーターを取りに戻ったグループも帰ってきた。疲労困憊の中での往復8時間のドライブは、アテネ周辺では迷子になり、また帰路では睡魔との戦いで、最後は竹原と監督が10分交代で運転していても眠気を抑えられない状態であった。
FH-BOCHUMのモーターのダメージは回転軸のベアリング部分であり、回転子を小磁石にて磁極を確認すると問題ないようであった。
しかし、ここは動くことが確実な、エール大から借用したモーターをマスター謹製のシャフトを使ってサンレイク号に取り付けるという方針が採用された。
スポットライトで照らし深夜の作業
作業完了は午前2:30、バッテリーがオフィシャルによって保管されているため、動作確認は出来ず、ホテルに帰る。すでに3:00時を回っていた。
2時間足らずの睡眠をとり、バッテリー保管が解除される日の出には、モーターのテストを行う。
早朝にドライバー高橋でテスト走行を行う。エール大学から借りたモーターは聞き慣れた心地よいモーター音を響かせながら動作。少しトルクは弱いものの走行できることを確認し、2日目のラリーの準備にかかった。 |