The Place in the Sun

三文楽士の休日

FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP MYNAVI SOLAR CAR RACE SUZUKA 2014

2014鈴鹿編 「継承される夢」

2014 SUZUKA / THE GENOME OF THE DREAM CUP


§2 「不規則な心拍ハートビート

Section 2 "Arrhythmia (Irregular heartbeat)"



FIA Alternative Energies Cup "Solar Car Race SUZUKA 2014" Test Drive Day

2014年06月02日 06:58   鈴鹿サーキット

 鈴鹿サーキット9番ゲートに到着。本日はソーラーカー試走会である。

試走会参加車両ギャラリー


 僕たちのような弱小チームには、レース本番以外にソーラーカーを走らせることが出来る貴重な機会だ。昨年、一昨年とメンバーの都合が合わなかったり、直前にシャーシの内層破壊が発覚したりして参加できなかったため実に3年ぶりである。もう既に主なチームは到着していたのでぐるりと回って御挨拶。

08:07 鈴鹿サーキット パドックエリア



SUNLAKE 本体到着

08:25 鈴鹿サーキット28番ピット

 「これ、絶対おかしいよ。」と、31日にモーターをチェックした平澤監督。無負荷だと、さほど気にならないが、負荷をかけると=実際に走ると明らかに回転がギクシャクした不整脈状態だ。
 会場には日本のソーラーカー用駆動モーターのデファクト・スタンダードのサプライヤになったミツバさんも当然のように視察にこられているので、早速モーター不整脈の様子をチェックいただいた。症状は御理解いただけたが、ここでは治療できないので、後日改めて入院ということになった。

 

08:37 RitsV 到着

 タイヤを取り付け、最低限「電気自動車」として走行可能な状態に仕上げてきたようだ。本日の鈴鹿入りメンバーは政井、中川、星野のドライバー三人衆。

08:40 - 09:10 鈴鹿サーキット・コントロールタワーにて受付

09:30 - 10:00 ドライバーブリーフィング

 お決まりのアライメント調整作業を行い・・・・・

10:25 - 11:55 ソーラーカー試走 午前の部スタート

 最初は、不整脈をかかえているとはいえ、明らかに転がり感が軽い新しいモーターで走ることにした。センター軸付きロックリングを用いたマウントの実用試験でもある。逆回転仕様の最大の難点は、モータートルクが加わる方向が、ロックリングが緩む方向であるという点である。緩み止めのイモネジを仕込んではいるのだが、過去、何度か痛い目にあっているのでここは入念にチェックする。



試走開始



メカを変更した直後なので、こまめにピットインさせて各部をチェック



ISF日本の岩田支部長、本日は同事務局長でもある奥様と視察中。

 主目的は大学チームを回ってのAbu Dhabi Solar Challenge : アブダビ・ソーラー・チャレンジのプロモーション。もうお一方は元 Solar Japan のドライバー氏。

11:44 Rits V チームのピットを訪問

 モーターの片持ち構造の確認を兼ねてピットに様子見に行くと、ちょうどドライバー交代のタイミング。ちょっと体重差ありすぎるんでないかい? それに 10:55 までに急いでコースに出ないと。チェッカーが出ちゃうとコースに出て行けなくなるよ。


 と、いうことで慌ててコースへ飛び出していった彼女、おそらく、三浦愛さんより軽い、業界最軽量ドライバーって事になるだろう。細川さんチームより体重差が大きいので、固定バラストで無ければ対応不可能な領域だ。ところで車両が走った後には前輪の航跡がくっきりと黒い筋になって残っているじゃないか。

 「アライメント、調整したの?」
 「だいたいしましたよ。」
 「?『だいたい』じゃダメだよ。この黒い筋の分だけタイヤが削れているんだぜ。」

 大丈夫かなあ? 一抹の不安。

11:55 チェッカーが出てソーラーカー試走、午前の部終了 

 新しいマウント構造は問題無さそう。不整脈はあいかわらず。さてエネルギー効率は?  フムフム。

 最低限のデータは取れたので、次に優先すべきは不整脈の治療である。後輪回りを解体し、従来のモーター:M1596改に取り替える。これが、そう簡単ではないところが辛いところ。M2096は音楽機材用のフライトケースを流用した特製格納ボックスに収められてミツバさんに再入院することとなった。



モーター換装は大仕事

14:00 - 16:00 ソーラーカー試走、午後の部開始

 モーターだけを交換した状態で午前中との比較データを収集。



少しだけ、ゆとりも出来たので「帽載カメラ」でコース撮りしてみた。

 天気はあまり良くないので太陽光入力は少ない。一年越しのバッテリーは、ろくに手入れしていないのでヘロヘロだが、少なくても、もう一回=本番の予選には使わねばならない。

  「電圧がかなり落ちてきた、そろそろやばいな。」

 完全放電してトドメを刺してしまうと不味いな、ということで20分ほど時間は余っていたが、バッテリー余力を残して試走終了。気休めの補充電をして撤収することにした。

15:57  撤収開始


2014年06月09日 滋賀県某所 サンレイク秘密基地

 M2096は週末を待たずに戻ってきた。内山さんの診断によれば、センサーマグネットの接着不良(芯ずれ)とのこと。原因が解った上での対策なので心配はないだろう。



M2096 センサーマグネット

2014年06月14日 滋賀県某所 サンレイク秘密基地

 さて、昨年からの懸案、車検用第一ロールバーを製作しなければならない。反感を買うのを承知の上で宣言しておこう。僕たちは、大事な友人でもあるドライバーの安全を競技用の薄っぺらな規則書に託そうなんて思ってはいない。安全を確保するのは自らの車両設計と、それを具現化する自らの製作技術である

 基本設計であるワイドなトレッド幅と短いホイールベースは潜在的に横転のリスクを下げている。水平方向に見れば、ドライバーはCFRP製のバスタブシャーシの中に収まっており、その周囲をクラシャッブル構造のカウルが取り囲んでいる。仮に正面衝突したとしても、カウルが潰れてショックを吸収するので、パネルがスライドしてドライバーをアタックすることはない。この効果はピット作業中に追突された際に、タイヤ位置が全く動かなかった(カウルはぐしゃぐしゃに潰れたが)という事実により実証済みだ。
 万が一、車両が反転した際には、シャーシの前輪取り付け部分(=最も構造的に強い部分)の「肩」と「第二ロールバー」で囲まれた空間がドライバーを保護する。この、前輪サスペンション付け根になるシャーシの肩が、規則書の第一ロールバーが本来担うべき機能を満足しているのである。

 しかしながら、意味があろうが無かろうが、本質からずれていようがいまいが、規則書が求めている文言を満足させるためにはドライバーを守るためには何の役にも立たない部品を取り付けなければならない場合がある。役にもたたず、邪魔にもならなければ、車重が少しばかり重くなるだけで済むのだが、たいていの場合、視界を妨害し、かえって安全性を下げてしまうのである。



「文言満足のための第一ロールバー」と「第二ロールバー」との空間をチェック

 ぶつぶつ云いながら作業している僕たちの所に客人が現れた。試走会出走をはたした Rits V の面々である。

 「今年は試走会だけ、ソーラーカーにするのは来年以降、なんて考えない方がいいよ。そもそも来年も鈴鹿でレースが開催される保証なんて無いんだから。レギュレーションの太陽電池パネルの項を良く読んでみろ。エンジョイクラスはパネルを480W目一杯貼る必要は無いんだ。小さいのが一枚あれば必要条件は満たされるし、極論すればパネルがバッテリーに繋がっていなくても構わないんだ。実際、そういうコンセプトで本戦に出走して立派に走りきったチームがある。君たちもよく知っている浜松常連のチームだ。同じ事が出来ないはずが無い。」

 試走会でのSUNLAKEメンバーによる、このお節介な説得が、彼らをその気にさせたようだ。

 「予備用に保管していたシャープ製太陽電池パネルがある。これを使ってくれ。」



「優勝したら返さなくても良いから。」ということになっている。

 彼らからの猛烈な電子メールによる質問攻めが始まった。現役時代、こちらかの質問に梨の礫だった頃とは様変わりだ。もちろん、そうでなかったら貴重な太陽電池パネルを託したりはしない。

 このパネルは1999〜2002年、チャレンジクラス4連覇時代の SUNLAKE の車体に使われていたパネルである。その車両は鈴鹿はもちろん、初の海外遠征となった2001年のMalaysiaのレースにも参加した。パネルはその後、2003〜2004年の SUNLAKE DREAM に貼り替えられ、ギリシャ遠征も経験している。当時のNGMモーターも、Liポリマーイオン電池も失われてしまった現在、つまりそのパネルはSUNLAKE黄金時代の残された最後の遺産なのである。

 4基のドリームカップを僕たちにもたらした1999-2002年の楕円形カウルは立命館大学チームに寄贈され、ヴィマーナ号として生まれ変わった。そのヴィマーナ号のシャーシこそが、今現在の RitsV "Amel Clown" の車体である。彼らはその、夢の遺伝子が込められたパネルから、どのような芽を育ててくれるのだろうか。


2014年06月21日 滋賀県某所 サンレイク秘密基地

 規則書の文言を満足させるため、とはいえ、ヘニャヘニャの部品を取り付けるのは材料メーカーのプライドが許さない。ということで、車検用第一ロールバーは内層にZFRP、外装にCFRPを用いた多層Z-CFRPである。内層のZFRPは「天使の翼号」の翼部分の再利用である。



離型性の高いポリエチレンフィルムを敷
いた基板に木型をクランプで取り付け、



ZFRPの板材4枚を重ねて芯材とし、常温硬化の液状
エポキシ樹脂を含浸させたカーボンクロスで包み込んで、



さらにポリエチレンフィルムで包み込んだ上で
四方から木型を当て、クランプで押さえ込む。

 さて、仕上げは来週のお楽しみ。

2014年06月28日 滋賀県某所 サンレイク秘密基地

 ハンドレイアップによるコンポジット成形は離型するときが一番楽しい。これ、きっと陶芸の釜を開ける時に似ているんだろうな。



クッション材が効き過ぎ、芯材が負けて凹んでしまった。



シャーシ、カウルとフィットするようにトリミングして、



今度はシャーシに固定するためにザイロン+カーボンクロスを貼り込む。



こちらは、今年用バッテリーの補充電

2014年06月28日 太田鉄工所

 作業の帰り、久々に太田鉄工所にお邪魔させていただいた。お父上の龍男氏とは年に一回程度鈴鹿でお会いしていたが、2代目の有彦氏とはほんとうに久しぶりだ。



試走会で拝見したシャーシ発見



実は、ここです 2階? コンテナボックスの屋根の上

 2階への階段はおろか、ハシゴすら無いので、コンテナボックスの横にある棚をよじ登らなければならない。



見下ろすと、定盤の上でアルミ角材が組まれていた。
どうやら、これが太陽電池パネルの車載架台になるらしい。



ソーラーフォークリフト?



バッテリーケースのカバーを製作中

 太田鉄工所は数年前に引っ越しており、作業上は少しこぢんまりした感じである。見渡してみたが、シバタファミリー・ソーラーカーチームの333号も Otus SEVen号も見あたらない。怖々と尋ねてみると

  「2&4がソーラーイベントを開催しなくなったので、もう出番がない。なのでチーム解散。」

 と、いうことで、車体も分解してしまったとのこと。Otus SEVen も同様の運命を辿りそうになったところ、分解直前に近所の車好きが「待った」をかけ、引き取られていったとのこと。浜松に出場した二台のバイクも遠くに嫁いでいったらしい。

  「今、ウチで電気で動くのはこれ(電動フォークリフト)だけ。」

 物事に始まりがあれば終わりあり。解ってはいるが、それを目の当たりにすると、やはり寂しい。



二階に置かれた飾り棚のトロフィーが、静かに歴史を語っていた。


2014年07月05日  滋賀県某所 サンレイク秘密基地



規則書対応第一ロールバーの離型。仕上がりはまずまず。



フラップ部補修



バラストセット

 これまでは、シートの下にバラスト固定していたが、20cmほど後ろのMPPTボックスと同じ区画内に移すことにした。こちらの方が前後輪の重量バランスが良くなるのと、バッテリー封印時に車検官が車両の下に潜り込む必要が無くなる。


2014年07月17日  推定静岡県内 新幹線移動中

 東京に向かう車中、鈴鹿サーキットから電話である。FIAから技術規則の安全装備規定に関して改善要求が出されており、それに対する各チームの意見を集約中とのこと。

 Q.「鉄製ロールバーが義務づけされたとしたら、貴チームは、どのように対応されますか?」
 A.「おそらく出場を取りやめるでしょう。」
 Q.「FIA公認シートが義務づけられたら如何します?」
 A.「間違いなく出場取りやめます。あのシートを使え、ということになったら、
    全く新しく車両を作り直す必要が生じます。その余力はありません。」

 この後は従来の当チーム主張をお話しさせて頂いた。内燃機関レースカーの安全装備を、そのままソーラーカーに適用するのはおかしい。少なくても今現在の規則書が要求する安全装備は、FIA公認ソーラーカーレースでの事故事例を反映すべき内容からずれている。レーシング・ソーラーカーの安全装備は、ソーラーカーレースで実際に生じた事故事例を反映させた内容にすべきだ。

 事故は机上ではなくレース場で起きている。事実を元に原因を究明し対策を打つ。それが工業立国日本を支えた「工学」であり「改善活動」だ。


2014年07月19日  滋賀県某所 サンレイク秘密基地

 新モーターは6月早々に退院し、既に車体に換装され、無負荷試験は済んでいるのだが、負荷試験=実際に走らせる、は未実施だった。ドライバーの勤務地が東京と大阪に分散し、しかも大阪勤務の高橋は、週替わりのペースで中国出張、スケジュールがまるで合わない。



ようやくレース2週間前になって試走試験を行うことができた。異常は無さそう。



補修したフラップ、角度が狂ってしまったので再度微調整

 

地味にタイヤの準備、あれこれ入れ替えてていると、どれがどれやら・・・


2014年07月26日  滋賀県某所 サンレイク秘密基地

 鈴鹿入りのための荷物の準備。例年「これを使うようになったらオシマイだよな。」と云いながら積層型枠用の合板、即硬化のエポキシ樹脂、補強用ザイロンクロス、木工工具やクランプ類を荷造りしている。でもそれらはオシマイになりそうな場面を物語に変えてくれる魔法の杖だ。

後一週間で、「一年間で最も非日常的な日々」がやってくる。




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2014鈴鹿編 「継承される夢」

公開  2014.08.18.

Copyright Satoshi Maeda@Team Sunlake
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