The Place in the Sun

三文楽士の休日

FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP
DREAM CUP SOLAR CAR RACE SUZUKA 2010

2010鈴鹿編 「夢の翼よ永遠なれ」

セクション3 太陽は誰の物か?

2010年07月31日19:30  鈴鹿サーキット39番ピット

 太陽は既に沈み、照明が付けられたピットに怒りの大声が響いた。

「ふざけるな!
 レースがメチャクチャじゃないか!
 最初に決めた通りやれよ!」

 激高した平澤が帽子を床に叩きつけた。向かいにはモビリティランドの山野氏が怯えた表情で立ちすくんでいる。平澤がここまで感情を顕わに表に出すのを見たのは始めてだ。

 取りなすつもりで間に入ったのだが、話している間に今度は僕自身が感情を抑えることが出来なくなってしまった。何を話したのかも、あまり覚えていない。確かに覚えているのは、明朝のバッテリー保管解除を1時間前倒しし、充電可能時間を1時間増やすという裁定結果が書かれた書面の受け取り署名をしたことだけである。



山野氏が持ってきたのは 審査委員会の決定事項 No.6.


 ドリームカップ・ソーラーカーレースの枠組みが今年限りで消えるのは、リーマンショックに端を発する世界不況の影響では無く、特別協賛の本田技研の興味がEVや燃料電池車に向いているせいでもなく、読売新聞の読者離れでもYTVの深夜番組の視聴率が低迷しているせいでも何でも無い。参加者に対する競技の公平性が何であるかを理解しない主催者側内部からの自壊である。

 この時、僕の気持ちの中でドリームカップが完全に崩れ落ちた。

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 時計を2時間20分戻す。

2010年07月31日17:10 


 チェッカーを受けた車両は東コースをショートカットしてピットロードに導かれ、各クラス上位3台は車検場の手前でドライバーが乗ったまま車体重量のチェックを受け、コントロールタワーの前に並べられる。4位以下の車両は割り当てピット前でコースに先頭を向けて駐車し、ドライバーが降車した後は車両保管タイム、オフィシャルの許可がないと触れることは出来ない。この間、審判部による第1ヒートの判定が行われるのである。


 バッテリー保管が開始される18:30までは太陽光からの充電が出来る。車両保管中も、明確に禁じられているのは「許可無く車両に触れる」ことだけなので太陽光からの充電は可能。車両保管場所であるピットレーンはピットビルの東側なので、直射日光は当たらない。バッテリーはどのチームも相当に消耗している。太陽電池の出力は僅か、充電電流はほとんど流れないが、消耗したバッテリーには電圧が印可されているだけでもありがたいので、各チームとも充電スイッチはONにしたままにしているはずだ。ピットビル西側には、カウルを太陽に向かって傾けて保持するための充電台を準備して、車両保管が解除されたら全チームが一斉に移動して沈み行く太陽からのエネルギーを精一杯集めるのである。

17:30頃から  エンジョイIIクラスの仮表彰式

 1位は自ら「タナボタ」と語ったパンダサン、2位に若葉会、3位にはラスト24分で無念のストップ神奈川工科大学。オリンパスRSは必死の復旧作業でレースに復帰したが届かず4位。

 車両保管解除までの時間は、相当にじれったく待ち遠しいのであるが、それを少し和らげてくれるのが、この表彰式である。皆が惜しみなく拍手を送りたいところであるが、そのころ下界には怒りのざわめきが満ち始めていた。


 「ねえ、ちょっとおかしいと思わないか?」

 気がつけば、コントロールタワー前のピットレーンに並べられていた上位車両の姿が見えない。いつのまにか上位車両がピットビルのパドック側、すなわち直射日光が差す場所に移動しているのである。

 「(上の表彰台で行われるシャパンファイトの)
  シャンパンがかかると不味いから退けたんじゃないの?」

 「だったら、車検場に入れれば済む話じゃないか。」

  # 17:25 車両はまだ東側に
  # 17:30頃〜42 表彰式
  # その間、17:40には 上位車両はプラットホーム側に移動


 ピットレーンは不満の嵐になっていた。僕たちと同様、バッテリー温存策を採り、明日の巻き返しを狙っていた紀北工業高等学校の藪内先生、カンカンである。もちろん怒っているのは藪内先生だけではないチャレンジクラスのチームは皆、怒っている。

 「どうだい、みんなで一口1万円ずつ出して抗議しないか?」
 (抗議は \101900 を添えて行わなければならない)

 半ば本気でそういう会話が為されていた輪の中に「充電スイッチ切れという指示が出ているらしい。」という情報が伝えられ、恐らくはドリームカップ鈴鹿の最初で最後になるはずだった抗議書は提出されることなく終わった。


 しかし、である。日陰とはいえ、充電が許可されている車両に対し、日向に置かれるという理由だけで充電することが許されないとなると、それはそれで逆に不公平である。

 すなわちこの時、ソーラーカーレースの根元的な思想的基盤である「太陽光は平等」という、あまりに当たり前すぎて規則書に書かれてもいない不文律が破られたのだ。ドリームカップ・ソーラーカーレース鈴鹿は、翌日の終幕を待つことなく、この時点で脳死状態に陥っていた。  しかも、この怒りの減圧弁の役割を果たした「日向に置かれたソーラーカーは充電スイッチを切っている」という情報は、かなり怪しかったことが後に明らかになるのである。



追突されて横転(前転)したオリンパスRSの車体を
チェックするFIA派遣の技術審判官 Georg Brasseur氏。



アルミパイプ製のロールバーがドライバーを救ったという
事実をシッカリと記録に留めておいて頂きたい。素人手作りの
カーボンロールバーであったとしたら、こうはいかない。

   「そんな大アクシデントに見舞われたのに、あの笑顔!?
    信じられん。俺なら怒りまくっている。」

 第1ヒート終了後に事故の顛末を聞いた高橋の一言である。最後のドリームカップを台無しにされてしまったオリンパスRSの面々。口惜しくってたまらない心境であろうが、山本監督は笑顔を絶やさず、メンバーは皆、最後まで紳士的だった。



トップガン野村 「こんなクソみたいな走りをしたのは初めてだ。」

 NUNA5に大差、OSUに優勝とは僅差ながらも第1ヒート首位。それにもかかわらず、ドライビングにはご不満の様子。ワイルドな走りが本領の野村氏にしてみれば、電力消費を抑え気味にして、僅差をキープして初日トップで終わるという作戦には内心不満なのだろう。

    「でも、良かったー」

 それを受け入れるのは昨年の鈴鹿で、レース最終盤にチカラ尽きてOSUに優勝を奪われた轍は通らないという決意だ。


 幾人かとの立ち話の中で、上位車両を陽の当たる場所に移動させたのはメディアからの要望によるものらしい、ということが解ってきた。来年度の大会のスポンサー獲得のために、ソーラーカーレースがこんなにも盛り上がって多くの観客を集めているということをアピールしたい、日陰では絵にならない、ということらしい。スポンサー未定の状態で、縮小しながらも来年度の大会を維持する意志を示しているモビリティランド(鈴鹿サーキット)の決定には敬意を表している。スポンサー獲得に繋がることであれば微力だが最大限の協力を惜しまない。


 しかし、それと、これ(競技の公平性)とは別だ。ならば事前に全チーム車両保管解除まで充電禁止にするか、車両保管自体を短時間で切り上げて、全チームに17:30頃から充電させるか(その方が絵になると思うが)、百歩譲ってレース開始前にその旨(上位3位以内の車両は有利な位置で車両保管が行われること)をアナウンスするべきである。仮に3位と4位が接戦であった場合、走行中のエネルギー消費を覚悟で無理して有利な保管場所になる3位を取りに行くかどうか、というレース戦略上の判断に影響する事項なのだ。

 しかも、先に触れたように「充電スイッチを切れ」という指示は徹底されていなかった。まず「充電するなではなく」ではなく「外部サーキットブレイカー(俗称:キルスイッチ)をOFFに」という指示だったようだ。このブレイカーは車体外部から駆動回路を遮断できるように設置することが義務づけされているものであって、必ずしも充電回路を遮断するものではない。それどころか、そもそも、この「スイッチを切れ」という指示さえ徹底されてはいなかった。某チーム関係者は「ウチはそんなこと聞いていませんよ」と明確に言い切ったし、車体に影を落としていたプレス関係者に注意していたチームもあったらしい。

18:20 車両保管解除


 例年18時前には終わる車両保管がようやく解除された。

 18:30までにバッテリーを保管場所に届けなければならないので、実質充電出来るのは5分ほどである。太陽は既にサーキットS字カーブ上の大看板に遮られようとしている。それでも、皆少しでも電力を取り込もうと必死なのである。

 雀の涙ほど、0.2Aで5分ほど、せいぜい2whほどの充電を終え、台車に重いバッテリー乗せてバッテリー保管場所に届けると、そこは既に長蛇の列。


 バッテリーを一度預けて、再び持ち出すチームがあるので受付が混乱しているのだが、一体、何故一度預けた物を持ち出せるのか? ペナルティの対象ではないのか?

   「充電時間延長されてますよ。」
   「え?」
   「19時まで」
   「何時そんな通知が出た?」
   「放送で、」
   「そんなの聞こえてないよ。」

 そう、周知出来ていなかったから、正に今、バッテリー保管窓口が混雑しているのではないのか? 思い返せば、車両保管解除の直後、何やらモゴモゴとした放送が入った。聞き取れなかったのでピット・オフィシャルに内容確認したのだが「さあ?私も何云っているのか解らなかった。」。たぶん「18時半までにバッテリーを預けろ」という注意のアナウンスだろうと決めてかかっていた。

 レースでの重要な情報伝達は公式通知(ブリテン)という書面ベースで行われる。鈴鹿も例外ではない。幸い、今回は公式通知配布場所に近いピットであったことも幸いして、公式通知は頻繁に確認している。少なくともタイムテーブルの変更に関する公式通知など発行されていない。そもそも、締め切りの5分前になってから急に「もう30分延長します」など、場当たり的な対応としか思えない。恐らく車両保管場所に関する不満に配慮したつもりなのだろうが、逆効果になっていることに気づきさえしていないだろう。


 太陽は既に看板の向こうに隠れてしまっている。これから取って返して、19時(ほぼ完全日没)まで充電したところで、充電出来る電力量は数WHに過ぎない。先ほどの車両保管場所騒ぎで、半ば嫌気が差してきていた僕に、一度預けたバッテリーを取り返すだけの気力は無かった。

 充電時間変更という重大なルール変更であれば公式通知で伝えるのが筋だ。規則書には「緊急の場合は場内放送で」ともあるが、緊急性がある内容とは考えられない。後に、「18:30からがバッテリー保管所での受付開始であって、18:30までに持ち込めと云うことではない」とも説明されたが、保管所では例年通り18:30前から保管を受け付けていたので、納得出来る説明とは云えない。



18:25頃の太陽の位置

18:40  鈴鹿サーキット39番ピット

 日没後の拡散光では光量の絶対量が足らず、単結晶シリコンセルでは光量低下以上に変換効率が落ちるため、残り30分粘ったところで充電出来る電力は、走行距離にすれば数百m分程度に過ぎない。腹は立つが、明日の第2ヒートに備えての準備に気力を使おう。

 シャーシとボディカウルとの固定はM5のトラスネジ4本である。第1ヒートのパンク処理時に4本中2本のネジが効かなくなってしまっていた。原因は簡単、ボディカウル側の2mmtのアルミ板に切ってあった雌ねじの山が無くなってしまっていたのである。アルミ板を取り替える時間も部品もないので、ネジをM6にサイズアップし、雌ねじを切り直す事にした。大急ぎで「F1マート」まで、M6のタップとトラスネジを仕入れに走った。

 雌ねじがダメになっていたのは2カ所だが、よく見ると他の場所も怪しい。結局4カ所ともM6にサイズアップ。

19:20

 

タイヤ交換、パンク防止剤注入と、外れ防止対策(針金で縛る)

19:25

 明日の充電開始(バッテリー保管解除)が午前10時から9時に、1時間前倒しになった、という情報が他チームから寄せられた。

 なんだって?

 昨年の、雨天を理由に第一ヒート終了後に突然、翌朝の充電時間開始時刻を早めるという、(二日目の天候を予想して、初日にペースを抑え、エネルギーを温存する作戦を採ったチームの逆鱗に触れた)愚かな運営を行った主催者が、再び同じ事を繰り返すというのか!?。

 きっかけは、NUONチームが充電を行っていたのを知ったAURORAチームが「不公平だ」と訴えたことによるらしい。NUONチームが、こっそり充電するような狡猾な事をするわけがない。高効率の太陽電池を備えるスーパードリームクラスは、明朝の充電だけでバッテリー一杯まで充電して、なお余るのである。詰まるところ「充電を禁ずる」と云う主旨の指示が徹底されていなかったのである。

 バッテリー容量は定格で3000Wh程度。太陽光発電能力は定格2000W超なので10時から13時までの3時間の充電で、単純計算で6000Wh、気象条件などで定格の半分しか発電できなかったとしても3000Whの電力量が得られるので、仮に第1ヒートでバッテリーを使い切っていたとしても、十分に満充電まで回復する。
 指示が的確に出されていたとすれば、その指示を守らなかったチームにペナルティを課せば良いだけの話しだ。しかし、オランダ領事館のバックアップを受けて鈴鹿に参加、日本チームがこれまで、どれだけ苦労しても得られなかったソーラーカーの公道走行許可さえ取得したNUONチームに「罰点(ペナルティ)」は付けたくないし、付けるだけの自信も審判部には無かったのだろう。車両保管中の充電に関する公式通知は発行されておらず、証拠文書は無い。ペナルティに発展すれば「云った」「聞いていない」の押し問答が続くだけだ。かたやAURORAチームの言い分はもっともである。彼等は指示を守り充電をしていなかった。一方で、指示が伝わらず、規則通り堂々と充電していたチームは存在するのである。これは不公平以外の何者でもない。



充電台を午前中モードに組み直し。

19:30

 その直後に、山野氏がピットに現れ、本セクション冒頭のシーンになる。彼が持ってきた書類には以下のように書かれていた。


Stewards of the Meeting
審査委員会
Desision No.6
決定事項No.6
Date: 21.July 2010
日付: 2010年 7月31日
From: Stewards of the Meeeting
 大会審査委員会
To: All competitors
 全競技者   cc: The Clerk of the Course
    競技長
    The Chief Scrutineer
    技術委員長

Due to an unequal repartition of the cars after the end of Heat 1, The Stewards of the Meeting decide to let the competitors release the batteries at scrutineering as from 9:00 a.m. before Heat 2 on Sunday 1st August.
第1ヒート後の同一でない車両取り扱い場所のため、審査委員会は、8月1日(日)の第2ヒート前の9時にバッテリー保管解除を行うことを決定した。

Set down at 18:45 hrs
18時45分に決定
The Stewards of the Meeting
審査委員会

C. Tornatore     M.Ono    K.Mitani
審査委員会は3人の審査委員にて構成されている。
 C.Tornatore :Christian Tornatore(FIA)
 M.Ono :   小野昌朗(東京R&D 代表取締役)
 K.Mitani:  神谷和潤(JAF、AASC:Auto Sports Club Atsuta)
こちらのメンバーである。

「ふざけるな!
 レースがメチャクチャじゃないか!
 最初に決めた通りやレよ!」

 平澤の叫びは僕の叫びでもあった。山野氏が決めたわけではない。冷静に考えれば彼に怒りをぶつけてもしょうがないのは解っている。大変、申し訳無い。が、人間は感情の動物だ。この時は感情を抑えることが出来なかった。

 一度崩れた「日照条件の公平性」は二度と取り返すことは出来ない。充電時間の変更は、何の解決にもならない。それどころか、競技の公平性をさらに崩してしまうことになる。しかし審査委員会は、その事実に全く気がついていない。

 この裁定が出された背景を知ったZDP池上氏(大会アドバイザー)は一言

     「レベルが低すぎる」

と吐き捨てた。最も適切な解決策は、運営の拙さを素直に参加者に詫びることだろう。それ以外には無い。

 「第1ヒート後の同一でない車両取り扱い場所のため、」は、大会運営側が日照条件の公平性を確保出来なかった、という点に気付いた事を示してはいるが、不公平を訴えたAURORAチーム自体も(海外チームということでであろう)第1ヒート4位であるにもかかわらず、1〜3位と同様に陽の当たるピットビル西側で車両保管を行っていたので、Auroraチームが訴えた「不公平」は「車両取り扱い場所」では無い。充電禁止指示を徹底出来なかったという運営上の拙さについては触れられていない。充電禁止指示自体が公式記録として残っていないのだ。

 蛇足ながら、AURORAチームが、充電開始前倒しを知ったのは翌日(8月1日)の朝である。当の AUROROチームには当日(7月31日)中に書類も情報も伝達出来ていなかったのだ。彼等が10時からだと思ってゆっくりしていたら、いったいどうなっただろうか?

======  チャレンジクラスのエネルギーマネジメント  ======

 チャレンジクラスでは、第1ヒート終了時にバッテリー残量を定格の3割前後残しているはずだ。定格(実力)3000whとして、900wh前後である。第2ヒート前の約3時間弱の充電時間で蓄えられるエネルギー量は、平均的な天候(実効比率0.5)であれば、

 太陽電池定格800w×3時間×実効比率0.5=1200wh

程度である。
 両者を加えた2100wh程度:バッテリー定格(実力)の約7割が第2ヒートスタート時のバッテリー容量となる。ここで満充電まで戻らないのがソーラーカーレース鈴鹿を面白くしている最大のポイントである。チャレンジクラス上位は1周あたり100wh以下で周回している。仮にバッテリー残量に100whの差があれば、1周以上の差になるのである。だからこそ、第1ヒート終了時のバッテリー残量の探り合い、僅かでも粘る車両保管後の充電、第2ヒート前の充電合戦(ヒエヒエグランプリ)が白熱するのである。

 これが4時間充電可能となり、さらに快晴であったとすれば、

  太陽電池定格800w×4時間×実効比率0.7=2240wh

となり、残した900whを加えると、3140whと、ほぼバッテリーの定格(実力)一杯まで充電出来ることになる。第1ヒート後のバッテリー残量に関わりなく皆、満タンになってしまうのである。つまり、逃げ切りを狙って第1ヒートに無理して周回数を稼いだチームも、第2ヒートの逆転を狙ってバッテリーを温存したチームも、みな同じになってしまい、第1ヒートの作戦が御破算になってしまうのである。

 競技の途中で、充電時間を変更するということが、如何に愚かな決定であるかが解って頂けるだろう。ソーラーカーレースでは停車中の太陽光からの充電も競争の内なのである。競技途中の充電時間変更は、陸上競技の持久走に例えれば、マラソン競技で20kmまで走った途中で、急に「皆疲れているようだから1時間休憩を入れ、その間に栄養ドリンクでも飲んでスタミナを回復してくれ」というのに等しい。
20:00  抑えきれない怒りを飲み込んで、作業は続く。



シャーシ・ボディカウル固定用雌ねじの切り直し



仕掛け人 「ミツバ」SCRプロジェクト御一行様

20:30



最後に、一度フルセットアップを行い不具合無いことを確認する。

20:40  作業終了

 例年、車検日(金曜)の夜は大宴会だが、予選から第1ヒート(土曜)の夜は、翌日のハードワークに備えて各々が十分に休息を取れるように作業終了後は早めに解散することにしている。しかし、この日はどうにもそういう気持ちになれず、誰からともなしに足が別の方向に向かっていった。

 

 落ち着いたのは、通りに面したテラスのある「たこの助」。トロピカルな演出でマレーシアで夜な夜な通った屋台に少しだけ雰囲気が似ている。ソーラーカーレースで苦しい目に遭うのはしょっちゅうだ。トラブルを楽しめなければソーラーカーレースなんぞ、やってはいられない。鈴鹿で何が起こっても3日間で全てが終わる。作業は屋根の下で行えるし、飯も食えればベッドで眠ることも出来る。海外遠征で遭遇してきたトラブルに比べれば、物の数には入らない。しかし、僕たちがこれまで相手にしてきたトラブルは、すべて「物」に纏わるトラブルだった。

 昔話を語り合う内に少しは気分も晴れてきた。明日は気を取り直してレースに臨むことが出来るだろう。

この時は、そう信じていた。


2010鈴鹿本編 セクション4 魔物の罠へのスパイラル

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2010鈴鹿本編   セクション3「太陽は誰の物か?」

第一稿  2010.08.16.

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