2010年8月1日(日)
FIA Alternative Energies Cup ドリームカップ・ソーラーカーレース鈴鹿2010 二日目
午前中:EnjoyIクラス(Enjoy学生部門)4時間耐久レース
午後 :Dream,Challenge,Olympiaクラス8時間耐久レース 第2ヒート
07:30 ホテルのロビー集合
部屋の水回りが壊れ、ユニットバスが水浸し。そのドタバタで朝食も食べ損ね、朝から不機嫌である。途中でソーラーパネル冷却用の氷等などを買い込み・・・・・・
08:00頃 ピット到着 EnjoyIクラス接戦の真っ最中
国際レーシングコースでは7時20分に開始されたエンジョイIクラスの4時間耐久レースが行われている。同ピットになった平塚工科高等学校、意表をつく弾丸型デザインの車両で初出場2位という衝撃のデビューは一昨年。昨年、Enjoyクラスが社会人/学生の2部門に分割され、学生部門のEnjoyIクラスにて2位。今年こそはクラス優勝を、強く意気込んでいる。
08:10 水まき対策
太陽電池の表面温度は炎天下では60℃以上になってしまう。結晶シリコン系の太陽電池の発電効率は温度が低い方が良いため、各チームとも冷却に工夫を凝らすが、共通しているのは、ジャンジャン水をぶっかけるという点である。コワイのは漏電。コネクタ部分はもちろん、カウル内部に水が溜まったりすると後々トラブルの原因になりかねないのでカウル開口部にもポリエチレンフィルムを貼ってしっかりとカバーする。
08:20 3FからEnjoyIクラスの4時間耐久レースをしばし観戦
バッテリ保管が解除され、充電が始まってしまうとエンジョイクラスのレースをゆっくり見ている余裕はない。
08:35 下界では 充電準備
各チームの陣取り合戦
例年より太陽角度が低い時刻から始まるため、太陽の軌跡を十分に考えて場所を決めないと、途中で大移動しなければならなくなる。
昨夕の理不尽な裁定により、一時間早められたバッテリー解除時刻が迫ると、バッテリー保管場所に人だかりが出来はじめる。
バッテリー保管解除 1分前
09:00 一時間早められたバッテリ保管解除
例年同様、10秒前からカウントダウン。
バッテリー保管解除直後
各チームの健脚がバッテリーを搭載した台車を押して、自チームが待ちかまえている場所へと急ぐ。鈴鹿のピットとパドックはバッテリー保管場所があるコントロールタワーが最も高い位置にあり、第1コーナー側に向かって下り坂になっている。その下り坂を80kgのバッテリーを乗せた何台もの台車が重戦車の如くゴロゴロと音を立てて下っていく風景は迫力と同時に危険満載である。サンレイク選抜メンバーは高橋と瀬川。現役高校生チームや大学生チームの邁進に巻き込まれないよう、とにかく安全第一で、なるべく早くバッテリーを持ってくるというのが彼等に与えられたミッションである。
大急ぎで車体の充電系統にバッテリーを接続して、太陽光発電電力の充電開始。
レース期間中を通じ、充電回路系統に最も大きな電流が流れる期間になり、
MPPTのパワートランジスタがかなり熱くなるのでウチワで扇いで冷やす。
MPPTは Maximum Power Point Trucker 直訳すると最大電力点追尾装置という名の、太陽電池とバッテリーの間に挿入される充電制御回路。太陽電池側からは、太陽電池の発電効率が最も高くなる電圧・電流を取り出し、バッテリー側には、バッテリ充電がうまく行える電圧を出力する一種のDC-DCコンバータである。
サンレイクEVOの太陽電池パネルは20枚のパネルを、3枚+3枚+5枚+5枚+4枚と5つのブロックに分割しており、各ブロック内はパネルは直列接続し、それぞれのブロック毎にMPPTを接続して昇圧し、バッテリーを充電している。各ブロックの枚数がバラバラなのは、日照条件の揃ったパネルを組み合わせた方が効率的だからだ。
江端が合流。勤務が交代番なのでなかなかスケジュールが合わない。早速、
氷割係に抜擢。本当は自動車整備士の腕前を発揮して頂きたいところなのだが。
10:00 ひえひえグランプリたけなわ。
この光景は、来年からは見られなくなるので、もっとシッカリ各チームの様子を撮影しておけば良かったな、と後悔中。昨夜の後遺症を引きずっていたんだろう。そこまで気を回す余裕が無かった。
NUONチームは半人間スタンド
海外チームは、あまり資材を持ち込めない点が不利。一応、御輿台のようなスタンドにカウルを乗せているのだが、その御輿台が倒れないように、前後一人ずつが仰向けになってアシストしている。GaAsタンデム組は、特に冷やす必要もないので水も撒かず。充電的には問題無さそうだが、人間の方がバテてしまいそう。Si組だと、少しでも日照をと角度には相当気を遣うものだが、発電量に余裕があるのでかなりアバウト。
こいつは、ちょいと頂けない。
水を撒いた太陽電池パネルに送風して、気化熱で冷やそうという事だが、商用電源を用いた電動扇風機の使用はソーラーカーレースの主旨に反する。MPPT冷却に扇風機を使っていた他のチームと同様、オフィシャルに注意を受けて片づけていた。 ソーラーパネルとMPPTの冷却には、各チーム工夫を凝らしてきた。過去には液体窒素を使ったチームも合ったらしいスポットクーラーを持ち込んでMPPTを直接冷却した社会人チームもあった。しかし、競技の趣旨に反するとして、2002年から(競技規則に明記はされていないが)運用上、直接的な人力による送風と、氷と水の使用以外は禁止されることになった。
なお、液体窒素の使用は太陽電池パネルを急冷しすぎて、封止樹脂の劣化や電気的接続部の断線等のトラブルを招きかねない。液体窒素は−196℃。SiのCTE:線膨張係数は3ppm/K程度だが、銅は17ppm/K、ハンダはさらに大きく25ppm/K前後であり20ppm/K以上のCTE差がある。これは温度差250℃で、0.5%の寸法差に相当する)。
AURORAチームの水まきは控えめ。GaAsタンデムを搭載していた当時、
何度かショートさせてソーラーパネルを焦がした経験があるからか?
柏会、女性陣を導入して噴霧器3台フル稼働
芦屋大学ABチーム 右側のQUADには噴霧器2台使用、
左のTIGAは無理に冷やす必要がないので角度チェックのみ。
OSU、こちらも無理に冷やさず。車体下に4−5人隠れて、何をしているのだろう?
大阪工業大学 NUONチーム同様、人間スタンドである。
蛇口から離れた場所に陣取り、人海戦術で水をリレー
金沢工業大学夢工房 こちらも人海戦術
サンレイクは噴霧器一台で氷水。某監督は車両周囲の地面に
精力的にバケツで水を撒きまくっている。アスファルトからの
輻射熱を下げるのにかなり効果発揮。しかし、全てがビショビショ
10:33 芦屋大学チームのピット裏
「ねえ、トップガンでも おむつ替えたりするの?」
「してますよぉ」
「ホント?」
「 ・・・・・・・・ たまにやけど。」
11:02 ひえひえグランプリ=大人の水遊び 継続中
David Fewchuk meets again "Japanese famous solar-car builder" Mr. Dragon-Man.
デヴィド・フューチャク 太田龍男氏と再会
ついでに記念撮影
11:20 エンジョイIクラス4時間耐久レースのチェッカー
エンジョイIクラスの熱戦は平塚工科高校の初優勝、周回数45はエンジョイクラスの歴代1位、で幕を閉じた。
これまでの記録は以下の4チームが記録した44周が最高
2007年 ORS、パンダサン、長野県工科短大 1〜3位が何れも44周。
2005年 紀北工業高校 44周
11:22 トルコのソーラーカー視察団
当初、参加が伝えられたトルコのアンカラ大チーム関係者(らしい)。某監督が「俺たちゃ、クラス・チャンピオンに4回なっているんだ。」と云ったら、興味津々で写真を撮りまくって行きました。チームの歴史と Sunlake EVO 車両スペックをまとめた資料を進呈した。
トルコでは、2005年にイスタンブール・パーク・サーキットを用いた Formula G Solar Car Race が開催され、トルコ国内の大学、高校、あわせて16チームが出場した。Formula G Solar Car Raceは、その後も毎年開催されている。トルコ国内ではWikipediaに紹介されているだけでも17チームが活動しており。ソーラーカー熱はかなり高い。
11:34 バカボンズチーム
「もう飽きたぁーーー」と今年から東京勤務になったバカボンズ黒幕氏。
流し台に散水用ホースを取り付けて一般開放。社会人チームの鏡である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
って褒めたら1周分回してくれないだろうか?
11:50 さらに、ひえひえグランプリは続く
昨日は、かなり、お怒りだった藪内先生。
腹は立つけど まあしゃーない。今は兎に角充電
11:56 赤いポルシェの御一行様
大阪からサンレイク応援団
イマイチ、浮かない顔なのは、この遠乗りを最後に免停が待っているかららしい。
「いったい何km/hrオーバーしたんですか?」 「ここじゃあ云えない・・・・・。」
12:00
ソーラーカーレース鈴鹿二日目の正午前後がこのイベントで最も混雑する時間になる。
エンジョイIクラスのレース自体はチェッカーが振られてから10分間継続されている。この間にコントロールラインを通過しないと、その周回が無効になるため、出場車両は最後の電力を振り絞り、正午近くの日照を精一杯集めてゴールを目指すのである。チェッカーを受けれずにコース上で力尽きてしまう車両も少なくない。台数によるが、コース上で止まってしまった車両を回収するのに相当の時間がかかるので、全ての車両がピットレーンに並べられて車両保管になるのは正午前である。
12:20 サンレイクピット、パドック側
車両保管は12:10過ぎまで続くが、正午からはドリーム、チャレンジ、オリンピアの各クラスの8時間耐久レース後半:第2ヒートの出走前チェックが始まっている。ピットレーンが車両保管で占有されている上に、皆少しでも充電したいので日当たりの良いパドック側で粘っている。当チームはカウルを日なたに出し、シャーシと延長コードで結んで補記類のチェックを受けている。
12:42 スタート進行
エンジョイIクラスの仮表彰式は12:30からだが、同時刻に始まるスタート進行と重なるため毎回見逃している。車両保管が終わり、撤収するエンジョイIクラス車両と、グリッドに向かうドリーム、エンジョイ、オリンピア車両が交差するためピットは大混乱。混乱が収まるのを見計らってパドック側からピットレーン側に移動する。日陰に入っている時間はなるべく短くしておきたい。
12:44 スターティング・グリッド
スタート前の緊張する時間帯だが、大混乱の中をくぐり抜ける煩わしさで意外に気が紛れ、初日のスタートほどに気は高ぶらない。が、その煩わしさの中で、大切なものを見逃してしまっていたことに後で気付く。
12:48 AURORAチームのグリッディング
ピット前でパフォーマンスの予定だったが、ギリギリまで充電していたので、その余裕が無かった。上位の化合物半導体組3チームの一角をなんとか崩したいAURORAもチカラを振り絞っている。
12:50 スタート10分前
スタート10分前 拡大
すぐ前には、第1ヒートで北村の教習指導車的役割を担って下さった紀北工業高等学校チーム。ドライバーは昨日と同じ山本雅孝氏である。
今日もついて行きますから「模範的ドライブ」を、よろしく、と御挨拶
12:55 スタート5分前
ピットレーンとコースの間の扉が閉め切られる。2分後にはドライバー一人を残して、チームメンバーはピットに戻らなければならない。北村に声をかけるが、反応が鈍い。第1ヒートのスタート前に比べ、明らかに固くなっている。
スタート進行で大混雑するグリッド内を移動してくる際にも(ホームストレートは下り坂なので、駆動しなくても自然に加速して行く)全く制動を効かせる気配がなかった。極度の緊張で周囲に気を配る余裕が無くなり、目の前しか見えなくなっている。
・第1ヒート後の車両保管場所を巡る揉め事、
・夜半のピットでの主催者の理不尽な裁定への怒り、
・テラスで語り合った北村加入前のエピソード、
・まだ巻き返しが出来なくもない現在のポジションからくる期待、
僕たちは、北村に思っている以上のプレシャーを課してしまっていた。周りは百戦錬磨の強者達ばかり、ソーラーカーのドライブ経験だって10年なんてのはざらで、鈴鹿の第一回大会からドライバーなんて猛者も少なく無い。僕たちは、そんな中にいきなり鈴鹿初心者を放り込んでしまったのだ。
ひとたび回り出した渦は、僕たちの意志など容易く飲み込んでしまう。すでに僕たちは鈴鹿の魔物の罠に向かうスパイラルに取り込まれてしまっていた。
13:00 ドリームカップ・ソーラーカーレース8時間耐久第2ヒート
ドリームカップ最後のスタートが切られた。
スタート直後、すぐ後ろのグリッドにいた夢創心(呉武田学園呉港高等学校)がSUNLAKE EVOと芦屋大QUADの間に割ってはいる。
一見巻き返したように見えるが、夢創心は既に先に進んでおり、さらに同じ車型(というか、こちらが本家だが)再輝チームのU−1がEVOとQUADの間をすり抜けようとしている。紀北ソーラーは出足鋭く、既にSUNLAKEとの間隔は開いている。
拡大
第1コーナーに向かうソーラーカーの群。PPのTIGAと第2グリッドのOSU、第3グリッドのNUNA5は既に画面の外、第2コーナーを回りおえているくらいだろう。第4グリッドのAURORAがスーパードリーム群では出遅れ、チャレンジトップ第5グリッドのMaxspeedがリードしている。
続くグリッドは 武蔵(柏会)、SCIENCE(堺市立)、SCARABAEUS(バカボンズ)、紀北ソーラー、芦屋大QUAD、SUNLAKE EVOの順だった。この時点でEVOがSCARABAEUSより前に出ており、一度開いた紀北ソーラーとの間隔が詰まっている。このまま紀北ソーラーの後ろについていれば良いのだが、バカボンズ伊澤ドライバー氏によれば、この時点でSUNLAKEはフラフラと挙動不審、第2コーナーでは師匠役の紀北のアウト側に突っ込みサイドバイサイド、そのまま抜いてしまったようだ。
13:05 最初の定期連絡
ラップタイムは5分45秒。シケインで縁石に乗り上げたとのこと。「コーナーで無理しすぎるな、と云ったのに」と平澤が呟いた直後、モニターにEVOがドアップになった。
「なにぃ!??」
第2コーナー脇のグラベルゾーンにコースアウトしている。
SUNLAKE EVO は第1周回途中で抜かれたSCARABAEUS(バカボンズ)の後ろについてメインストレートを通過した。バカボンズの伊澤ドライバーによれば、第2コーナーでSCARABAEUSに接近してきた途端スピンして視界から消えたとのこと。車体は順方向を向いているので360度スピンである。当人によれば、前の車両(バカボンズか?)を抜こうとしていて速度差を読み違えた結果の急ハンドルがスピンを誘発したとのこと。
昨日、ほぼ同じ場所で、オリンパスRSにコントロールを失ったサレジオが追突した事故を思い出し、背筋が凍り付いた。他の車両に迷惑をかけなかったのを神の救い、魔物の慈悲だと思わなければならない。
ドライバーと電話は繋がっている。車体ダメージが心配だが、それ以前にモーターが動かなくなっているらしい。北村はパニック状態、こちらもパニック寸前である。平澤が太陽光からの充電スイッチを切るように指示し、ようやくモーターが安定して回り出した。入力電圧が高すぎてモーターコントローラーの安全回路が働いていたようだ。
携帯電話のヘッドセットを装着する高橋。スタート前の北村がガチガチだったのは皆が気付いており、高橋はいつでも交代出来るようにレーシングスーツでスタンバイしていた。
動き出したEVO、走る上で足回りに深刻なトラブルは無さそうとのこと。東コース、ショートカットして戻ろうとする北村を諫めて、とにかく一周回って帰ってくるように指示を出す。北村のピットインを待つ、この1周は、今レース中、体感的に最も長い1周であったが、実際にもグラベル脱出から8分10秒を要した。
13:08 柏会 ピットイン ??
サンレイクがパニックに陥っている、その最中に柏会の武蔵が緊急ピットイン。何事か!?
後輪の締め付けが甘かったようで、あわや後輪脱落という切迫状態。2007年、フリー走行時に後輪が外れ、あわやリタイヤかというどん底修羅場から復活し、チャレンジクラス2位入賞(1位の紀北工業高校とは同一ラップの17秒差、チェッカーを受けた後で逆転された)した記憶はまだ生々しい。同じミスを繰り返すようなチームではない。彼等もまたスパイラルに飲み込まれかけている。
13:16 紀北ソーラーがピットイン
さらに、北村のピットインを首を長くして待っている最中に紀北ソーラーがピットに入ってきた。カウルを外して前輪をチェックしていたが、なんとそのままピット内に車両を収納してしまった。余程のトラブルであろう。
チャレンジクラス総崩れである。上位で無傷なのはマックススピード、堺市立、バカボンズの3チームだけだ。後に知ったことだが、バカボンズもレース直前にコントローラーを壊し、MITSUBAさんから特別に借用したコントローラーを使っての参戦である。何か途方もない大渦が鈴鹿サーキットを取り巻いているに違いない。
13:17’50 サンレイクピットイン
停車させると、即、ボディカウルを外して、タイヤとサスペンションを入念にチェック。ボディカウルの固定はネジ4本。ジャッキは無いので人力で持ち上げてウレタン台に乗せる。
ドライで派手にスピンしたにもかかわらず特に問題はない。試走会の時から、パニックブレーキの度に曲がっている右前の上側Aアームをアルミパイプ製からステンレスパイプ製に交換したのが功を奏しているようだ。
コースアウト 推定 13:06:30前後 グラベル脱出 13:09:20 ピットイン 13:17:50 ピットアウト 13:22:30頃
たっぷり2周分のビハインドで総合16位にまで順位は下がってしまった。チャレンジクラス内でも金沢工業大学夢工房と宮崎工業高校に抜かれ8位まで落ちた。
ドライバーはアラフォーの高橋。3時間40分を超える連続ドライブは、サンレイク史上初めてになる。監督の指示は「体調が不味いと思ったら遠慮無くピットに戻れ」
挽回は絶望的で順位は度外視だが、何があっても最後まで走りきる。1994年の第3回ソーラーカーレース鈴鹿に参加以来、すべてのヒートで一度も欠かさずチェッカーを受けてきた記録だけは止めるわけにはいかない。
13:40 ミツバVIP様 御来場
14:03 紀北工業高等学校チームのピットを訪問
左前輪、アップライト上部の金属パーツとカーボン積層板との接合部にクラックが入っている。一度このように割れだすと、ひたすら剛直で応力吸収機能のないカーボンFRPは脆い。よく、この異変に気がついたものだ。仮にもう一周気付くのが遅れていたら、完全に破断し、サスペンションはもとより、車体の基本構造部分にもに致命的なダメージを与えていただろう。
「残念です。」
「まあ、こういうこともあるわね。」
中岡先生は、静かにモニターでレース状況を追っておられた。
14:27頃 高橋から緊急連絡
5分30秒前後でラップを刻んでいた高橋から緊急電話が入った。
「後輪 パンク!」
まだ来るか!? ピットは悲鳴とも溜息ともつかない声で満たされた。交代して1時間少々、そんな短時間でタイヤが摩耗するわけはない。ドライバー交代時にカウルまで外して入念にチェックしたつもりだが、ジオメトリーの狂いを見逃してしまったのか!? 様々な思いが頭の中を駆けめぐる。
14:30 緊急ピットイン
サンレイク 本日2度目のピットイン
まずドライバー高橋を降ろし、水分補給+圧搾エアで体温を冷ます。カウルと後輪スパッツを外し、平澤がタイヤの状況を素早く診断して回る。「後輪取り替え。右前輪もやられているので、左前を外して右前にセット、左に新タイヤ」
予備ホイールが足りないので前輪左右入れ替えをせざるを得ないが、実質に3輪とも交換である。タイヤ交換は、カウルを外さざるを得ず、さらにジャッキなどよいう洒落た物は無いので、車体を人力で持ち上げてウレタンブロックに乗せての作業になる。普段はバッテリーを搭載した状態で車体を持ち上げたりなどしないのだが、こういうときは火事場の馬鹿力。
14:37 ピットアウト
14:22’47 パンク直前のコントロールライン通過 14:27’00頃? パンク連絡 14:30’17 ピットイン 実質ラップタイム 7分30秒 14:37’00頃 ピットアウト ピット作業時間 7分17秒
第2ヒート序盤のスピンによる2周分のビハインドにさらに実質2周分のビハインドが加わり、トータル4周分をロスしている勘定になる。もう、後は意地で最後まで走り通すしか無い。
パンクした後輪。鋭利な刃物を突き刺してえぐった様な深い穴。砂利などではなく金属片だろう。右前輪はこれほど大きくはなく、パンク防止剤が効いていたレベルだが、同様に深い突き刺したような孔が開いていた。
14:40頃 江口倫郎さん御来場
日本ソーラーカーのパイオニア、ソーラージャパン代表の江口さん御来場。(不覚にも写真を取り損ねた)
「僕が来るといつもトラブってるねえ。来ない方がいいのかな?」
「いえいえ、そんなことはございません。」
と、云うか、いいところお見せ出来なくて済みません。埋め合わせに、しばしプラットホームに御案内。
「静かですねえ。やっぱ、空力がいいのかな。」
ホームストレートを通り過ぎる SUNLAKE EVO を見送りながらの、平澤に聞かせたら泣いて喜ぶ一言。流石、見るところ聞くところが違います。しばし二人で耳をそばだてて、ホームストレートを走る音で各ソーラーカーの空力評価。
14:45 QUAD ドライバー交代
芦屋大学QUAD、この時点で昨日の42周と合わせて59周。TIGAとOSUのトップ争いの影に隠れて全く目立っていないが、オリンピアクラスの最高周回記録更新が目前である(過去の過去の周回数記録:2008年大会での長野県工科短期大学校「Fizzer20J」が記録した61周)。
年 No. チーム名 車両名 周回数 Year Team Vehicle 1H P(1H) 2H P(2H) Total 2008 001 長野県工科短期大学校 Fizzer20J 31 30 61 002 神奈川工科大学 Horus 21 5 1 25 003 静岡工科自動車大学校 NEXT ZONE 2 2 4 004 静岡ソーラーカークラブ FAL 25 21 31 35 005 岡崎高等技術専門校 SORA 4 3 7 2009 001 長野県工科短期大学校 Fizzer20J 17 19 36 002 工学院大学 KGU S09 6 14 20 003 ENEMAX-x ENEMAX-x 16 27 43 004 職業能力開発総合大学校 職業大8号 8 12 20 005 静岡ソーラーカークラブ ELA 23 23 46 006 岡崎高等技術専門校 SORA D.N.S 007 愛知工業大学 Solar Power AIT2 18 18 36 008 芦屋大学 B Sky Ace QUAD 0 36 36 009 静岡工科自動車大学校 NEXT ZONE 11 16 27 2010 002 松坂工業高校 SEM-PP 13 003 芦屋大学 B Sky Ace QUAD 42 004 静岡工科自動車大学校 NEXT ZONE 21 005 ENEMAX-x ENEMAX-x 38 006 名古屋工業大学 NEXT 12 007 岡崎高等技術専門校 SORA 18
14:49 バカボンズ ドライバー交代
悪運は全てサンレイクが引き受けた。
15:01 OSU ドライバー交代
昨日に引き続き、トップ争いはTIGAとOSU。
サンレイクは度重なるアクシデントにより電力余り気味。挽回は絶望的だが、意地を見せたい平澤は上位との差を少しでも詰めるべく高橋にペースアップを指示、目標タイムは5分10秒。これは46周/4時間狙いに相当するペースになる。チャレンジクラス内では怒濤の走りであるが、電力消費も想定以上。パンク連発によりコーナリングが慎重になりすぎて、EVOの持ち味を生かし切れていないようだ。ドライバー歴15年を超える高橋でさえ、僅かな感覚の狂いが消費電力悪化に直結してしまう。僕たちは、ソーラーカードライビングの難しさを改めて噛みしめていた。
2010鈴鹿本編 セクション5 走る迷宮に折れた赤い爪
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三文楽士の休日
FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP DREAM CUP SOLAR CAR RACE SUZUKA 2010
2010鈴鹿本編 セクション4「魔物の罠へのスパイラル」
第一稿 2010.08.16.
追記・微改訂 2010.09.08.
誤字訂正 2014.08.31.
Copyright Satoshi Maeda@Team Sunlake
The Place in the Sun