The Place in the Sun

三文楽士の休日

FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP
DREAM CUP SOLAR CAR RACE SUZUKA 2008

2008鈴鹿 風の化身編

SUNLAKE EVOLUTION


セクション 3 「白昼の悪夢」



2008年8月1日(土) 午後

14:33 サンレイク、ドライバー交代を行いピットアウト



僕たちは、いくつものシグナルを見落としていた。


14:36 堺市立工業高等学校科学部 ピットイン 

 通常のドライバー交代かと思ったが、様子がおかしい。

 

ジャッキアップして後輪をチェックしている。

同じ頃、サンレイクの司令デスクではドライバー交代後の最初の定時連絡が交わされていた。

 「どう? 調子は」  「うんうん」

 毎度、監督の電話はデータ読み上げが始まるまでが長い。その時、突然

 「え!? 何! パンク!?」

ピット内が凍り付いた。 鈴鹿参戦15年目にして初めてのパンクである。

 1回目は、ドライバー交代直後の1周目。ヘアピン曲がった時に、シュッシュッシュという変な音が聞こえたが、この時点では車体の挙動に異常は無し。そのまま200Rを上っていって、2輪シケインの横を過ぎた あたりでピットから電話が入る。一言二言話しながら、スプーンカーブに入った途端!!!

・・・クルマが曲がらない。

そのままスプーン1個目の外側へコースアウト。何とか路面の硬いところで踏みとどまり、グラベルには出ずに済んだ。症状からして右前輪のパンクと確信。新品ホイールを傷めないように気遣いながら、時速20kmでコース半周。積算電流計が物凄い勢いで回っていたのを覚えている。

高橋回想録
 スプーンカーブからピットまでは約3km。常時は2−3分の距離、実際には6ー7分ほどでピットまで戻ってきた訳だが、それが気が遠くなるほど長い時間に感じられた。


14:42:15  ピットイン



右前輪のパンク


 前輪を両輪とも外し、パンクした右前に、左前に入っていたタイヤを入れ、左前に新しいタイヤを入れた。

14:45:27  ピットアウト  所要時間3分12秒
  
 ピットに返ってくるまでに余分に要した時間とタイヤ交換所要時間を足すと1周強のロス。エネルギー的には日照条件が良かっためかそれほど大きなロスにはなっていない。

  
 僕たちのチームは、ヒート中にタイヤを交換しないことを前提に作戦をたてている。「甘い」と云われればそれまでだが、実績として、サンレイクがレース中にパンクしたのは、2000年に湖東で行われた12時間連続耐久レースの終盤、その時一度だけである。 鈴鹿サーキットパンクしたことは無い。
 今年は例年にましてハイペース、終盤までタイヤが保つかどうかが、今年の最大の懸念事項であったのは事実だ。であるから、なおのことドライバーは慎重なドライビングを行っている。2時間も経過していないうちにパンクするなど、外因以外考えられない。

 トレッド面は荒れてはいるが、摩耗しきっている訳ではない。タイヤトレッドの中央帯には尖った物を踏んだと思わしき深いピンスポットが点在しており、その内の一個は裏側まで貫通していた。

 タイヤ交換後2周ほどは様子見のため5分台後半にタイムを落としたが、ここからビハインドを取り戻すべく強気の指示に転じ、気を取り直した高橋も5分10秒台のハイペースを取り戻した。

 サンレイクを襲ったトラブル症候群には伝染性があったようだ。



アステカチームもタイヤトラブル



長野工業高等学校は、クラッシュ(デグナーで他車と接触したらしい)
カウル前部にパネルに及ぶ大きな損傷、車体自体もダメージを負った様子



OSUも前輪トラブル

 

タイヤ関係かと思ったら・・・F田先生の手にはディスクサンダー!?


 前輪メカニックに大きな問題が発生したようで、この後、車体をピット内に戻しての作業が始まった。


 約1時間経過。定常状態に戻ったかと思われたその矢先、再び様子がおかしいとの連絡。28周め、本日二度目のタイヤ交換である。


15:40:01  ピットイン


 後輪のスローパンクチャー、右前も空気圧が下がっており怪しい、ということで交換。

 2回目は、ピットインする2,3周前から、異変を感じていた。症状は直線で車体が異常にフラつくことで、ちょうど2005年鈴鹿で発生した後輪センターロックが緩んでいた時と似た挙動。ただ、コーナリングに入るとフラつきがピタリと治まり、また次の直線でフラつくという繰り返し。

 皆必死でタイヤ交換してくれた後だったので、簡単にはピットインを決断することが出来なかったが、監督に状況を報告しながら、やはりこれはあまりにもおかしいということで2度目のピットイン。後輪と右前輪のスローパンクチャー。判断がもう1周遅れていたら、最悪の場合、後輪用のカーボンホイールが逝っていたかも知れない。
高橋回想録
  
15:45:35  ピットアウト   


 所要時間 5分34秒 ほぼ一週分のロスとなった。


一度ならず二度までも。

 先にも述べたとおり、ソーラーカーレースのパンクはレース終盤に集中するのが常である。今はまだレース中盤、しかもパンクしているのは僕たちのチームだけではない。

 「これはおかしい」

 「他のチームの様子を見てくる。」

 情報収集に他のピットを訪れようと、パドック側からピットを覗きながら歩いていた僕の視界を、つい数分前にピットアウトしていったサンレイクEVOが横切った。

「何!?」

にわかに信じがたい光景に一瞬脳回路がフリーズした。正気に返り、猛ダッシュでピットに戻る。

15:57:00頃 ピットイン


 なんと、たった二周回しただけで、またまた前輪右タイヤのパンク。今日3回目の非定常ピット作業である。

3回目は、多分130Rあたりで何かを踏んだのか。シケイン1個目を難なくクリアした後、2個目でそのまま真っ直ぐ外へ。1回目のパンクでスプーンの外に飛び出たのと全く同じ感じ。そのまま迷わずピットイン。右前輪パンク。左右ともエキセルホイール(チューブ入りタイヤ)に交換。
高橋回想録
 

 まさか、ここまで使うことになろうとは。予備の、さらに予備にと準備してあった前輪セット(昨年まで使用していたエキセルホイールに、これまた昨年までと同様にチューブ入りのタイヤ)に入れ替え。


16:03:00頃 ピットアウト   約6分のロス

 3回のタイヤ交換でトータルで3−4周分の時間とエネルギーをロスしてしまったことになる。


16:08 江口倫郎さん御来場 


 超濃いオーラの持ち主がもう一人近くに居られたってこと。無念さを晴らすように新車のデザインコンセプトを力説する監督。カースタイリング誌に載せて頂けるならEVOの方が良かったな。

16:15頃


 マックススピードチーム、またまたピット作業。カウル外してタイヤ交換を行っている。鈴鹿高専〜太陽虫チームで経験を積んできた彼等が同じミスを繰り返すとは考えられない。やはり何かが「いる」。

 

 ところで、何故、想定外のタイヤ交換作業風景の画像がこんなにあるのか? というと、実は客員ピットのこの人が撮ってくれていたのである(2回目の画像は、たまたまピット二階から観戦しておられたレースキング氏が撮影した画像を頂戴した。)。もちろん写真を撮ってくれていただけでは無い。いったい何本タイヤを入れ替えてくれたのだろうか?(左の写真はタイヤ交換作業中の背中)

 しかし自分たちの作業風景は撮ってもらいながら、彼が作業している画像はこれだけしかないのだ(ご免なさい)。 学生時代にソーラーカー、現在は現役カートレーサー、今回への鈴鹿へは単身赴任していた東京から某西域本拠地への転勤引っ越しの最中に寄っていただいたという多忙な中での客員であった。感謝



 夕刻に向かう時の流れがソーラーカーから活力を奪って行く。チェッカーに備えてコース脇での充電モードに入る車両が増えてきた。チューブ入りタイヤはロスが少し多くなる上に、日照もかなり落ちている。目標周回数を41周に設定してペースダウン調整するが当初の予定よりかなりエネルギーを消費してしまっている。


17:00 41周でチェッカー



第1ヒートの結果は以下の通り

周回数
ペナルティ
ドリームクラス
チャレンジクラス
オリンピアクラス
確定周回数
TotalTime
52
 
芦屋大学A
 
 
52
4:03:35
50
 
高雄応用科技大
 
 
50
4:05:47
45
 
 
柏会
 
45
4:04:58
44
 
呉港高等学校
 
 
44
4:00:18
44
 
 
紀北工業高校
 
44
4:04:42
43
 
Aurora
 
 
43
3:40:19
43
 
 
キョンシー
 
43
4:00:22
43
 
 
堺市立工業
 
43
4:00:56
43
 
 
バカボンズ
 
43
4:04:25
41
 
 
マックススピード
 
41
4:03:39
41
 
ポリテクカレッジ滋賀
 
 
41
4:05:46
41
 
 
サンレイク
 
41
4:06:19
39
 
 
H・A・Tレーシング
 
39
3:54:44
39
 
再輝
 
 
39
4:00:35
39
 
 
鈴鹿高専
 
39
4:03:25
39
 
 
名古屋工業大学
 
39
4:06:03
39
 
JTEKT
 
 
39
4:06:49
38
 
サレジオ高専
 
 
38
4:00:26
34
 
OSU
 
 
34
2:35:28
34
 
 
上野工業高校
 
34
3:57:22
33
 
 
長野工業高校
 
33
4:03:47
31
 
 
 
長野県工科短大
31
3:48:33
31
 
 
エネマックス
 
31
4:02:15
31
 
 
飛龍高等学校
 
31
4:02:49
30
 
 
日向工業高校
 
30
3:17:17
30
 
 
芦屋大学B
 
30
4:05:48
28
 
 
立命館大学
 
28
3:30:21
27
 
大森学園
 
 
27
2:43:58
26
 
 
津工業高校
 
26
4:03:31
22
 
 
大阪工大B
 
22
3:48:32
22
1
アステカ
 
 
21
1:53:46
21
 
 
 
神奈川工大
21
2:28:40
17
 
尼崎工業高校
 
 
17
4:04:04
4
 
 
 
岡崎高等技術専門校
4
2:46:12
25
21
 
 
静岡SC
4
4:04:52
2
 
 
 
静岡工科自動車大
2
4:02:22


 チャレンジクラス上位の結果をまとめてみる。
45周  柏会  パンク無し、総合でも3位に入っている。
44周  紀北工業高校  右前輪のパンクが一回あった模様
43周  キョンシー  パンク無し
43周  堺市立  4本パンクしたらしいが
43周  バカボンズ  パンク無し
41周  マックススピード  2回パンク?
41周  サンレイク  3回、4輪パンク
39周  H・A・Tレーシング  39周  H・A・Tレーシング
39周  鈴鹿高専  39周  鈴鹿高専
39周  名古屋工業大学  39周  名古屋工業大学
 4時間の折り返し時点で、チャレンジクラスの10台が39周を超えていることに注目いただきたい。「たられば」だがパンクがなかったら、45周に5台が並んでいただろう。

 半端な「39周」という数字の意味合いは、1992年の第一回鈴鹿では無制限クラス優勝したホンダ初代ドリームが10時間で96周:単純換算で38.4周/4時間だった、という所にある。

 初代ドリーム号はホクサン製単結晶シリコン推定1.2kw以上、軽量な銀亜鉛蓄電池搭載
 一方の現チャレンジクラスは 0.8kwの太陽電池に80kgもの鉛バッテリーを積みんでいるのだ。今年のチャレンジクラスのレベルが如何に高いかがお解りいただけるだろう。



17:10 チェッカー終了。

 ここから車両保管タイム。コース上で電欠になったり、トラブルで自力走行出来なくなった車両が搬入されてくる。



 エナックス型の大森学園チーム、車体に対して垂直に立つ後輪が付け根から外れた様子。バランスが崩れ、前輪もハの字型に開いてしまっている。


  

 アステカチームは、御自慢の特製アルミ合金鋳造ホイールが砕けてしまっている・・・・。硬い物に高速で触れるような強い衝撃力が加わったのだろうか?。破壊部には鋳物が割れたときに見られる典型的な破断面が現れていた。


17:46  車両保管解除



ここからは黄昏の充電タイム、地球の自転との競争になる。


 新作充電台のコンセプトは昨年と同じだが、解体時に、完全にバラバラに出来るよう総継手閂構成を採用した。ボディ塗装に使ったペイントが余ったので、サンレイクカラーに塗装したが監督からは「ジャマイカ風だ」と評されてしまった。


隣はオーロラチーム

 スペインーフランス間のラリーレースで前車両を焼失してしまった後に、WSC2007用に新作したWSCチャレンジクラスのコンパクトな車両である。流石にGaAsを搭載し続けるのは無理だったようでサンパワー社の単結晶シリコンセルを使用。

 ピットスタートで出遅れた分を取り戻すべく、猛然と走っていたが、44周目にパンクして初日の記録は43周となった。前一輪、後ろ二輪の構成で前輪駆動という個性的なコンセプトを1990年から堅持している。前輪は(おそらくCSIRO開発の)ホイール一体型モーター。ホイールインモーターを超越している。それだけにトラブル時のダメージは大きい。

モーターを車座になって取り囲み、ドヨーーーンとしているこの情景。

いつか、どこかで見たことがある。

いや「見たことがある」ではなく、自分自身がその情景の一部だった。
時が繰り返されている。何かが「いる」。・・・・・・・・間違いない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

18:25 バッテリー保管へ


 遅刻(18:30)すると受け付けて頂けない=その時点でペナルティなので早めに切り上げた。

 
 ところで、問題は明日のタイヤである。予想外のパンク連発で明日の分まで使い切ってしまった。このままでは走れない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

救いの神となってくださった、

  パンダサンチーム
  芦屋大学チーム
  近畿大学高専チーム

の皆様、本当に、ありがとうございました。
19:20 タイヤ交換

 御厚意でタイヤを分けて頂いき、タイヤ困窮チームから一転してタイヤ持ちチームになってしまったのだが、当然ながら銘柄はバラバラ。長年ダンロップ社のSOLARMAXのみを使い続けてきたので、他の会社のタイヤの特性はよく解らない。どこに、どのタイヤを使うか、今の僕たちにとっては罰当たりなほどに贅沢この上ない悩みである。


 結局、後輪だけは絶対にパンクしたくないということで、後輪には一番パンクしにくそうな分厚いIRC社のタイヤ、前輪には使い慣れたダンロップ社のSOLARMAXを選択し、芦屋大学さんからお分け頂いたスローパンク防止剤、通称「緑のスライム」を注入した。

20:14 アライメント調整 操舵系調整 等々

 

パンクした際にボディのあちこちに生じた細かなダメージも修復しなければならない。
明日に備えた作業は続く・・・・・・。

 メンパパ氏から差し入れて頂いたタウリン3000mg配合の栄養ドリンクが無ければ、全員ピットでへたり込んでいたかもしれない。

若いときには効かなかった栄養ドリンク、最近よく効きます。


21:15 明朝の充電に備え場所確保



充電台は 午前中モードに変身




僕たちと同様、パンク連発を食らった堺市立工業。
二周の差はタイヤ交換のスピード差か




突貫作業が続くOSUピット



後輪付け根の骨折という重症を負った大森学園。必死の修復作業が続く


21:40



ピットを出たのはこの時刻

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



今夜もピットは眠らない




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

セクション 4 「太陽の恵み」 へ

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SUNLAKE EVOLUTION SECTION THREE

着稿  2008.08.14.
第一稿 2008.09.01.
公開  2008.09.27.
微改訂 2008.10.15.

Copyright Satoshi Maeda@Team Sunlake
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