The Place in the Sun

三文楽士の休日

FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP
DREAM CUP SOLAR CAR RACE SUZUKA 2008

2008鈴鹿 風の化身編

SUNLAKE EVOLUTION

セクション 2 「ドラマを呼ぶ男たち」




2008年8月2日(土) 

FIA Alternative Energies cup DREAM CUP SOLAR CAR RACE SUZUKA 2008
フリー走行、予選、8時間耐久レース第1ヒート


06:59 鈴鹿サーキット着



早速、昨日調整しきれなかった前輪ブレーキの再調整を開始




各チームとも、慌ただしく車両整備中

これはこれは、ご近所サイトの管理人さんではありませんか。

 

「どーして、バッテリーボックスがベニア板製なの?」
「まあまあ、そういう些細なことは気にせずに。」


07:20 ドリーム、チャレンジ、オリンピアクラスのフリー走行開始



ドライバーは某平澤監督


 試走会では積算電流計が動作しなかったので、これが初めてのまとも走行実験になる。ピットからスタートした一周目からなかなか良いデータがとれた。



調子よく走っている。



 7周程度、毎周、すこしずつラップと走行パターンを変えてデータ取り。今回はモーターの制御モードを変えるスイッチを搭載したのでその調子見とスイッチ切り替え練習も兼ねている。

 この手の操作系は、ほとんど全てステアリングハンドルに無理矢理納めてある。ハンドルが重く、スイッチ操作のために走行中にハンドルから片手を離すなど、ほとんど不可能に近かった時代の後遺症。現在、ハンドルは比較的軽く操作できるように改良されたのだが、スピードが速くなってドライバーのゆとりが減り、さらに計器類がハンドルに搭載されていることを前提にコクピットのデザインがフィックスされてしまったために、そのままになっているのである。



フリー走行から鍔競りあいするドリームクラスの
OSU:大阪産業大学と、台湾から参加の高雄応用科学技術大学




ドリーム、チャレンジ、オリンピアクラスのフリー走行は続く




アスカ号 ブレーキ調整中。



こちらも同じピットの近畿大学高専チームさん
エンジョイクラスの各チームも準備真っ最中。



取材陣に囲まれているのはOSUが抜擢した女性ドライバー

 ねえねえ、ところでキョンシーさんたちは、どうしちゃったの?
 さあ? 今朝は誰とも会ってないねえ。 黒幕さんも心配して電話していたらしい。



大遅刻して、大あわてでコースに出るキョンシー号

ゆうべ、オジサンチームどうしでの飲み会が盛り上がりすぎたらしい。
レース前日のお酒は控えめに・・・・実は我がチームも少し・・・


08:00 ドリーム、チャレンジ、オリンピアクラスのフリー走行終了

 フリー走行を終えた監督は走行時の消費エネルギーデータを見てニヤニヤしている。


08:15〜55 エンジョイクラスのフリー走行

 アスカチームは柴田さんとエントラントがが軽く練習。



いつになく緊張気味のアスカさん


08:20 涼しさ対策

 エンジョイクラスのフリー走行中、こちらは予選の準備に大わらわ。実際にスピードを出して走ってみると小さな不具合があちこちに見えてくる。

 フリー走行を行った監督の不満は「運転中に涼しい」こと。 この暑い中で涼しいのは結構な事だとお思いだろうが、ソーラーカーのコクピット内事情としては、そうとは云えない。涼しいのはどこからか風が入ってくるから=無駄な気流が発生している=空気抵抗が増している という理屈である。

 サンレイクEVOの開口部は三つしかない。左右の前輪と後輪である。車内の空気は前輪開口部から入り、コクピットとバッテリースペースを抜けて後輪開口部から抜けて行く。この気流を完全に遮ったら、ドライバーは窒息してしまうことになる。流石にそこまで機密性の高い車両を作るのは難しいが、涼しいと感じるほど風が流れるのは、あまり好ましいことではない。

 風が入ってくるのは前輪部分以外にはあり得ない。この部分は今回の車体構造上、外形が最も複雑にツギハギされる部分になる。



前輪サスペンション下のカバー
ザイロン撚糸とスプリングで引っ張り上げている。



タイヤ下カバー(青いプラダン部分)
マジックテープでボディカウル側に装着


 確かに前輪の接地面側のカバーの調子が良くない。マジックテープが機能していないのかと疑ったが、そうではなく、プラダン製のカバーに貼り付けたマジックテープとプラダンが剥離しているのである。 プラダンはポリ塩化ビニル製、一方のマジックテープはポリアミド(ナイロン)製。 異種素材の接着は、仕事の上でも常時悩みの種だが、この組み合わせは特にやっかいな部類に入ると云ってよい。こういう場合は接着より粘着に頼る方が得策なので使用した接着剤はボンドG17、所謂「ゴム糊」である。このボンドG17が剥がれてしまったら、接着は諦めよう。

  「これは、もう縫いつけるしかないな。」
  「??? 「縫う」ってどうやって?」と新人北村が問い返す。
  「針と糸に決まってるじゃないか。」



工具箱には木綿糸と縫い針が常備されている。
裁縫は、マジックテープを多用するようになって以来、
ソーラーカー製作に必要なスキルの一つとなっているのである。


09:15 ドリーム・チャレンジ・オリンピアクラスの予選開始

 8時間耐久の全出場台数は36台。長丁場のソーラーカーレースでは予選順位はさほど重要ではない。参加台数には余裕があるのでタイムを出しさえすれば予選落ちも無し。ただし、あまり後ろだと、最も接触リスクが高いスタート直後の混戦(団子状態)から抜け出すのが大変なので、やはり、そこそこのタイムは出しておきたい。



ドライバーはエース高橋。メン親子の見送りを受けて気合い十分




ホームストレートを疾走するサンレイクEVO。
予選タイム4分35秒で、全36台中の12番グリッドを確保。
タイムアタックの後は、高橋ドライバーの練習とデータ取りに充当。

 

ピットの二階はサブイベント準備に忙しい。

09:40 ドリーム、チャレンジ、オリンピア 予選終盤



この時点で、予選トップはオーロラチームの
女性ドライバーが叩きだした3分44.612秒。


 芦屋大より高速回転のモーターを搭載していると噂される OSU や 高雄応用科技大(台湾)を8秒突き放している。ポールポジションはオーロラで決まりだと大勢が思っていたそのころ、密かにメラメラと闘志を燃やしている人達がここにいた。

 

気合いが入るH・A・Tレーシングチーム

 「これを、やりに来てますからね(まあ見ていてください)」

コース上に他の車両が少なくなった頃合いを見計らってコースイン。
走り出したら、あとはドライバーに任せ、腰を据えてピットで見守る村山監督



スピードが落ちるシケインからホームストレートまでのカーブした
加速ラインでは前を走るOSUのスリップストリームにピタリと付け



十分にスピードを乗せてから



ひらりと横に出て



OSU Model S' を抜き去る エバラ・エコ・テック

低重心の四輪車であるからこそ、このスピードで第一コーナーに
突っ込むことが出来る。(もちろん"誰でも"という訳にはいかない。)

09:58 エバラエコテック タイムアタック



ピットメンバーが見上げるモニターには



3分44秒667!  0.9秒差でポールポジション獲得。

10:05 ドリーム、チャレンジ、オリンピアクラス 予選終了のチェッカーが振られた


 

ドライバーを出迎えるH・A・Tレーシングチームのピット。
あれれ、よく見れば、トップガン野村氏も混ざってるよ。

10:09 サンレイクEVO ピットイン



タイムアタック後はペースを落とし。予選時間いっぱいまで使ってデータ取りを行っていた。


10:20 エンジョイクラスの予選開始  台数も多いため、11:55までの長丁場である。

 



10:46 アスカ ST-07 タイムアタック



試走会で柴田さんが記録した10分を更新する自己新記録8分52秒

アスカ・エントラントが大汗かいているころ、ピットでは



ノンビリ忙しい家内制手工業:毎度お馴染みの団扇作りが開始されていた。




こちらは、本戦用バッテリーの最後の駄目押し充電中。

エコランの影響で、お風呂に入れながら充電するのが大流行だが

     「そんなことしなくても十分暑いじゃん。」

鍋番に回すほど人手が豊富ではないってのが本当の理由かな。
WEMに比較するとバッテリー価格が桁違いなので、おいそれと
実験も出来ない。キョンシーさん、今年の湯加減はいかがでしたか?

11:00 約30分間 ドライバー・ブリーフィング

 この時間帯が最も人手不足になる。


11:15 なにやらニュースの臭いがしたのでコントロールタワーに行ってみると



事前情報どおり、ソラえもん号がスタンバイしていた。
「デモ走行する」って聞いていたが、いったい何時だろう?


11:43 ピット探検隊アワー



これ、サブイベントの中ではイチオシです。


12:00 最後のダメ押し アライメント調整

  

これ、何回やっても狂うんだよなあ。(シャーシの剛性がイマイチ足りない)


12:17 バッテリー封印



明日の第二ヒート終了時まで、しっかりと封印される。


12:30  オーロラピットにむかう

 今回最大の特別私的共催イベントである(オーロラサイトで国際予告?されていたのは後で気が付いた)。しかし、なにやら様子がおかしい。予選で熱くなりすぎたか、というわけでも無いだろうが、バッテリー電圧の上限エラーが出ているとのこと。



過充電対策に慌ただしいオーロラピット

 とてもグリッドに付けそうな状態ではないので、この日の特別私的共催イベント決行は断念した。


12:43  グリッド押し出し。



12:50 10分前


 まもなくコースへのゲートが閉鎖されるのだが、オーロラピットに目立った動きはない。ピットスタートを選択したようだ。

12:55 5分前


 実況DJのアナウンスで気が付き、一番前を眺めれば、ソラえもん号がコース下見にスタートした所だった。ソーラーカーレース鈴鹿やWSCにも競技車として正式参加したことがあるソラえもん号だが、流石に今日の高速ソーラーカーの先導としては走れないので十分余裕を見ての先行発車である。

 シモンと小学館のコラボレーションによって製作された世界一有名なソーラーカー「ソラえもん号」の、16年ぶりの鈴鹿サーキットコースへの復活は、大歓迎すべき出来事であるのは間違いない。

 ソラえもん号が登場するらしいという噂は、おそらくは意図的なリークによりある程度は知れわたったレベルの情報だった。田宮本社に展示してあったソラえもん号のレストアには、旧シモン関係者も参加し、レストアに直接関与した人物によると推定される動画もYouTubeにアップされていた。 ところが、(信頼すべき情報筋によれば)ソラえもん号は鈴鹿サーキット(モビリティランド)が独自に招聘したということで、同じ大会主催三者の一角であるJAFはソラえもん号が登場する事自体を把握していなかったらしい。

 2008年2月に開設されたソーラーカーレース鈴鹿2008の公式サイトには「今年は問い合わせ窓口を3つ設けた、と記載されていたことが思い返された。参加者へのレスポンスをスムースにするための措置だと説明されていたのであるが、どうやら真相は、主催三者
  ・読売新聞
  ・鈴鹿サーキット
  ・JAF
の連携が取れておらず、各々がバラバラに動いていただけだったという事のようである。サブイベントもJAFと読売が各々が独自に準備している始末で、各々のサイトで予告されたサブイベント内容は一致していなかったのである。参加者からの問い合わせやコメント内容が三者で共有されていた様子もない。

 サブイベントどうしが干渉し合わなければ別段かまわない話ではある。しかし気になるのは大会全体を通じての安全保障である。主催三者の連携が取れていないという状況は、一つ間違うと、全体統括不在、安全確保に対する責任主体が実体として存在しない無責任状態を招きかねないのである。(レース自体は経験豊富な鈴鹿サーキットにより主管されているので信頼しているが)。 大きな人的災害は、こういうときに起こる可能性が高い。
 
少し脱線した

12:57 3分前



付き添いメンバーがコースから待避する。



ピット二階からスタートを見守る各チームのピットメンバー達。

13:00 8時間耐久レース 本戦第1ヒート 開始



 フリー走行と予選中に取得したデータから弾き出した今日の目標周回数は45周、二日トータルで90+α周。 すなわち、少なくても、一昨年に柏会が記録したチャレンジ最高周回数タイ記録、天候次第ではその更新を目指す。

13:07 オーロラ ピットスタート



過去最速のピットスタートだったろう。
カメラを構えたときには既に視界から消えかけていた。


13:25 ピットに突然現れたこの日本人離れした風貌の人物は!?



ソーラーカーレース取材のプロフェッショナル集団「ダッシュ」を率いる
浦田代表である。WSCのポロシャツにPhaethonキャップ、濃すぎます。

13:40 ピット内に、突如場違いに華やかな空気が流れた。



ピット探検隊ツアー協力チームへのレースキングさんからのサービスであった。


 この華やぎの影に、劇的オーラの不穏な揺らぎが隠れていたのを、迂闊にもこの時は見逃してしまった。勿論、誰が悪いと云うわけではない。ただ一つ云えることは、非常に濃いオーラの持ち主が、ここサンレイクピット内に一同に会してしまった、ということである。 すべては結果論だが臨界は目前だった。

13:48頃  マックススピードがピットイン  何だ?



車体の下に何人かが潜り込んだと思ったら、すかさず
カウルを外しての作業が始まった。足回りか、タイヤか?

後輪ジャッキアップを伴う作業によるロスタイムは約8分

 昨年来マックス・スピード公式サイトに埋め込まれていた鈴鹿走行データは、彼等の車両がすでにスーパーチャレンジクラスの域に達していることを示していた。冬に行われた製作講習会でも、紀北工業高等学校の藪内教諭、中岡教諭によるマックススピードチームの詳細な走行データの解析結果が披露されていた。「若気の至りでデータが暴れている」と比喩されたが、実のところはトラブルに起因する異常データが混ざっていたために表面上、データのばらつきが大きく見えた、というのが真相だろう。トラブルが無ければ間違いなく表彰台の一角に食い込んでいたに違いない。今年は勿論、万全のトラブル対策で臨んでいるはずだ。その彼等が(ドラマを呼ぶ体質なのかなあ?)開始早々・・・・・

 と、いうところで気づくべきだったのだ。 全ては結果論だが、この時もまた僕たちは劇的オーラの臨界が迫っていることを見逃してしまっていた。 それほどにサンレイクEVOは順調に走っていた。


 4時間で45周するには、チェッカーが振られる4時間経過の直前に45周目に入れればよい。ドライバー交代に要する時間を1分間として単純計算すると

   (4時間×60分−1分)÷44周 = 5分26秒/周

 3年ぶりにコクピットに座った平澤は、ブランクを物ともせず5分20〜30秒で正確にラップを刻んでいる。

14:32:38 17周した時点でドライバー交代のための ピットイン


14:33:23 ピットアウト  所要時間45秒

 ステアリングを握るのはエース高橋、エネルギーマネージメントは平澤監督。ドライバー交代が終われば、ピットメンバーは一安心。この後はモニターを眺め、ラップタイムに一喜一憂していれば、やがてはチェッカーが振られる時刻がやってくる。




そのはずだった。




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2008鈴鹿 風の化身編

SUNLAKE EVOLUTION SECTION TWO

着稿  2008.08.14.
第1稿 2008.08.30.
微改訂 2008.11.16.

Copyright Satoshi Maeda@Team Sunlake
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