2007年5月24日 外郭積層作業開始
監督が出張にひっかけて上洛。巻線作業中のモーターコアを持参。ホテルに持ち込んで作業しているのである。
7割ほど巻上がったコア
1極あたり81ターン。ホントに全部揃っているかは、自信が無さげである。
カウルの曲面部の仕上がりを、薄ベニヤ板を沿わせて確認する。
「こうすれば風の気持ちが読める。」
確かに凹凸や無理なカーブがあると板が沿わないため不自然な箇所が一目瞭然である。曲率が変わって行く所や、凹から凸に変曲するする部分など、複雑な所もよく解る。なかなか良い方法であるのは認めよう。
「ねえ、でも、それって『風の気持ち』じゃあ無くって『ベニヤ板の気持ち』なんじゃないの?」
「ン・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
訊いてはいけない質問だったようだ。
外郭積層前に最後に仕上げ削りを行いシャーシとのフィッティングを確認
サンレイクでは、従来は車体を横に輪切りにする要領で補強クロスを貼り付けてきた。今回の車体では、車体側面の曲面が最大のチャームポイントであるため、できればこの部分に継ぎ目が来ないようにクロスを貼りたい。型を使わずにクロスを貼り付けていく上での最も難しい課題は、
(1)面圧のかけ方今回の積層では、これら2点の課題を避けるため、積極的には面圧をかけずに貼り付けることを試みた。車体自体の曲率が大きく、かつ凸面が主体になっていること、貼り付けるクロスが大きく、ある程度クロス自体の自重を利用できることから、凸面が上になるように基体を置き、クロスが自重で自然に沿ってくれる部分のみに樹脂を含浸させて貼り付けて行こう、という作戦である。
平面であれば板材を押しつければ良い、二次曲面であれば薄い板を曲げて押しつけることが出来ればフィットさせることができる。しかし、3次曲面になると途端に難易度が高くなる。離型シートの扱いも難しい。うまく伸ばして変形させ、フィットさせることが出来ればよいのだが、どうしてもどこかに皺が入ってしまうのである。
(2)外郭クロス補強する前の基体の剛性が乏しい。
補強前の基体は発泡スチロールの積層体に過ぎず、クロスに面圧をかけようとして重しを乗せすぎると、基体が変形してしまい、変形したまま固定化されてしまう恐れがある。こうなってしまうと修正するのは極めて困難となる。
重りを乗せないため基体の歪みを最低限に抑えることが期待できる。反面、一度に貼り付けることができる面積が限定されるため、上下左右前後、と最低でも6工程が必要になる(現実にはもっと作業工程を分割しなければならない)。クロス表面は樹脂が硬化するまでの間ベタベタのままであるため触れることはできないし、ゴミなどの付着も避けられない。離型シートも省いたためつやつやした表面を期待することも出来ない。万一、基体に沿わない部分に樹脂が付着してしまった場合には、最悪、その部分を刳り抜いて新しいクロスを充てなければならなくなる。
カウルを斜め仰向けに置いて、仮布を被せ、
樹脂を塗る場所/塗らない場所を確認する。
カーボンクロスを貼り付け、硬化待ちの状態
全長5mの側面を幅1mのクロス一枚でカバーしている。
画像では解らないが、前輪のタイヤハウスになる部分(後で刳り抜く)の外側は、ザイロンクロス(内)とカーボンクロス(外)の二重構造にしてある。万一、衝突などで破損した場合、カーボンクロス補強だけだと砕け散ってしまうのだが、ザイロンクロスは少々のことでは千切れないため原型を保ってくれるのである。疑っている貴方、フォーミュラ1のレギュレーションを事細かに読んでご覧なさい。
簡単そうだが、相手は1m×5mの大布、
エポキシ樹脂に硬化剤を配合して十分に混ぜ合わせ、
ペンキ塗り用のロール刷毛で基体の所定部分に樹脂を塗り、
所定の場所に布を置き
(一度置いてしまうと樹脂が付着してしまうので大きな修正は不可能)
布の上からさらにロール刷毛で樹脂を塗り、
樹脂を含浸させるためにヘラで布表面をしごき、
皺を伸ばし、
余分な樹脂を拭き取る
これを、樹脂の効果反応が始まるまでに慎重かつ迅速にやらねばならない。硬化剤を配合した後は時間との勝負。予め十分にイメージトレーニングを重ねるのだが、いざ始めると想定外の出来事や準備し忘れが発覚、怒号と悲鳴が飛び交う体育会系の修羅場作業となる。これがソーラーカー製作の醍醐味(?)なのだ。
今回は「押さえ」が無いのでここで終わりだが、通常はこの後に、
離型フィルム重ね(皺を何処に集めるか?が腕のみせどころ)
重し乗せと固定
が続く。
後輪スパッツの外形削り出しに着手
ニクロム線を使って、おおまかな外形を出したい所であるが、壊れてしまったので、やむなくカッターナイフ。手前に置いてある黒いのが昨年の車体の後輪スパッツ。後輪サスペンションに変更はないので大凡の形は同じだが、見ての通り全長を長くし、さらに曲面をなだらかにすることにより空力性能の改善を期している。
勢いで、キャノピー後部の仕上げにも着手
(結果的には企画倒れだった)
このキャノピーは1998年モデルから使っている10年選手である。市販のキャノピー(既にそのメーカーは無し)色違い二個の前部分を切り取って、クリアを前に色つきを後に配して接続してある。後ろ側はロールバーが義務化されたときに、ロールバーに合わせて無理やり変形させたため、形が歪み左右対称では無くなっているという代物である。後部の処理も間に合わせ的で空力的な弱点となっている。
このキャノピーの後ろ側を流線型のカバーで覆い、整流効果を得ようということである。まずは型を取りたいのであるが、(元の形は三次曲面の楕円体であったと思われるが)既に強引に変形させてあるため、算術的に形を出すことは諦め、現物合わせで行くほか無し。先の画像のように段ボールで覆いを作り、その中に東急ハンズで仕入れたスプレー式の発泡ウレタンを吹き込んで型取りしようと考えたのだが・・・・・・・
これが、スプレー一本分。全然足りない。
足りないだけならまだしも、含まれている溶剤分が強烈で、飛び散った飛沫がアクリル製のキャノピーを溶かしだしたではないか! 後半部分は離型材のつもりでポリエチレンシートでカバーしていたのだが、キャノピー前半部はノーガード。慌てて拭き取り致命傷には至らずに済んだが、痘痕が残ってしまった。
何とか「型」にならないか?と大あわてで下に垂れた
「泡」を掻き集め、発泡スチロール材で覆ってみた
流石に素手では作業しなかったが、露出した腕に泡が付着したところはヒリヒリ。日曜大工センターで、この商品をあまり見かけない理由が理解できた。
前輪サス下カバーに側面部を接続中
2007年5月25日 外郭積層作業は続く
本日は昨日は逆の側面を貼り付ける。
昨日積層したところが下側になるため、未貼付部が垂れ
ないように、ラッピングフィルムとクランプで仮固定する。
昨日と同じ要領で貼り付け終了
後方から。樹脂を含浸する前のクロスとびきり美しいのだが・・・・
後輪スパッツ、荒削り終了。
2007年5月26日 後輪スパッツ仕上げ削り
後輪スパッツの仕上げ削りと細部調整。この作業は車体後部裏の積層作業前にすませておく必要があった。
2007年5月27日 外郭積層作業 車体後部裏側
昨日仕上げた積層前の後輪スパッツ部を押さえ部材に用いて車体後部を積層。
2007年5月28日 外郭積層作業 前輪カバー部分右側
まずは車体後部裏の確認 この時はマアマアきれいだったのだが・・・・
右前輪カバー部にクロスを積層
角度を変えて。レジンペレット袋、板と重り、
クランプ・・・・あらゆる手段を使って押さえ込む。
平面に近い形で押さえることが出来る場所は薄いベニヤ板を沿わせてクランプで。曲率が大きい所はレジンペレットを詰めたポリエチレン袋(砂袋あるいは水袋でも可)で荷重をかける。ポリエチレン袋にしておくと、万一、樹脂と接触してしまっても剥離可能。できれば左右貼ってしまいたかったのだが、押さえに必要な大きめのクランプの絶対数が足りなかった。
少し覗いている茶色い部分はザイロンクロス。タイヤハウス側面と同様、タイヤが出る周囲とスパッツの稜線に相当する部分にはザイロンクロスを重ねてある。
2007年5月29日 外郭積層作業はまだまだ続く
昨日の貼り込み結果を確認。
結果はギリギリ及第点押さえ樹脂が重すぎて、新たに接着した部分がズレ、先に接着されている側面部分との境界に、少し弛みが出来てしまった。
ここだけ見ると「黒いマッハ号」に見えませんか?
気を取り直して、後輪スパッツ内型の最終仕上げ。
軽量紙粘土を開口部に詰め、角部のカーブを滑らかに。
使った紙粘土は、中空ビーズが配合された軽量級グレード。キョンシーチームさんに教えて頂いた素材である。乾くと非常に軽い。弱点は水。雨にぬれるとヌルヌルに戻ってしまうのである。今回は原則として後で刳り抜いてしまう部分に使用。
2007年5月31日 後輪スパッツへの外郭積層作業
後輪スパッツにカーボンクロスを積層
前輪部と同様、要所はザイロン/カーボンの二重構造
左の前輪カバーとボディ前部の裏側を同時に積層
同、後方から撮影
ボディサイドのシャーシとの勘合部分を積層。シャーシのフラップを雄雌型になるように受け止める。隙間を無くす効果だけでなく、カウル自体の強度も上がる。
2007年6月01日 外郭積層作業 天面へのザイロンクロス積層
またまた月が変わった。月末には試走会。今月中に走れるようにしなければならない。ホントに間に合うのか?
後輪スパッツを日干し
気温が低かったため樹脂の硬化が甘く、ベタベタしている。後尾の形が崩れかけていたため、木型で挟んで成形し、直射日光に当てて硬化促進させ作戦に出た。
カウル側の硬化も甘かったため、裏返しのまま、同様に直射日光に当てた。
この日は初夏の日差し。
日差しはきつく、真っ黒なカーボンボディは素手で触れない熱くなった。内心、ホクサンの Phoebus III に倣ってカーボン打ちっ放しのデザインにしようと思っていたのだが、あまりの熱さに断念。これじゃあドライバーのソーラークッキングだ。温度上昇による発電効率低下は勿論、下手するとパネル自体にダメージを与えかねない。
樹脂の硬化が不十分だった所は、さらに熱くなっている。日照により温度が上がり、硬化反応が促進され、反応熱でさらに温度上昇が加速されているのである。
・・・・・・・この時に気づくべきだった。・・・・・・・
温度上昇により樹脂層が熱膨張。ハンドレイアップ=手塗りの宿命により樹脂の厚さムラは大きい。膨張度合いが樹脂の多少により異なるため表層がベコベコになってしまったのである。なあに、冷えれば元に戻るさ、と、この時は楽観的にとらえていたのだが、後に見通しの甘さを思い知ることになる。ベコベコ状態の時に硬化反応が完結してしまったため、ベコベコのまま固まってしまったのであった。・・・・・・・大ショック。
ボディを日陰に移し、天板面を上にして
天板面にザイロンクロスを積層。カーボンとクロスと重なる部分に離型ポリエチレンフィルムを被せ、さらに薄いベニヤ板を轢いて重り代わりにバッテリーを乗せる。けっこう渋くて落ち着いた配色ではないか。(後に某メン氏により「ブリの照り焼き」と命名された)
よくぞ、ここまで。と感慨に耽るロケットスタート氏。
勢いで前輪サス下カバーの側板部分にもカーボンクロス積層
同じく裏側から。左側のは、メモ代わりに使われたスチレンボードの再利用・・・・・裏側はきれいだったので、実は気が付いていなかった。
2007年6月03日 外郭積層作業 先端部分
柏会さんに特別に作って頂いた特性ホイールが到着した。
アルミ無垢材からの削り出しである。見事な仕上げ! 拡大
ボディ前端部を積層。
車両の顔になる部分なので、特に慎重に。ノーズ部分は、なるべく均一に荷重が加わるように大きなスポンジで包み込んでから板を敷き、さらに鉛のブロックを乗せる。左右の端だけは、本当は型を作ってきれいに押さえたかったのだが、時間が無いので諦めた。
2007年6月04日 外郭積層作業 完了!! ・・・・と同時に修正開始(涙)
と、いうことで、右側面→左側面→裏後→裏右前→裏左前→表→先端 と実に7工程も費やしたボディ本体の基本積層が終了した。(実は、まだまだ細かい作業がたくさん残っており、ここからが長いのだが、ひとまず大きな山を越えたことになる。)
記念撮影 その1 「ブリの照り焼き」
記念撮影 その2
真横から見ると、前輪カバー部が分厚いが、この角度からだと、結構スリム。真正面から見ると前輪カバー(スパッツ)をギリギリまで細く追い込んでいるため、さらに薄く見える。
感慨に浸っていたいが、あまり時間はない。先日の直射日光作戦でベコベコになってしまった所を何とかしなければならない。継ぎ目を最低限にしたかったのだが、残念ながらこのコンセプトは挫折。不幸中の幸いは車体裏側なので普通の角度からは見えないこと。外観は諦め、機能本位の対症療法を施そう。
ブリスター状態になっている部分を十文字に大きく切り裂き、めくり上げて再度エポキシ樹脂を塗布。さらに切り口を跨ぐように内側にカーボンクロスの端切れを入れる。 2007年6月07日 キャノピー後尾の整形
切開箇所を元通りにふたして離型ポリエチレンシートを敷き、板を当てて重りを置く。切開手術箇所は20カ所近くになった。
切開手術跡の確認。遠目には目立たない。
クローズアップするとご覧の通り。
継ぎ目無しのコンセプトは崩れてしまった。
気を取り直して、キャノピー後尾部の成形に着手。
発泡ウレタンスプレーで作った型は、結局ボツ。(5月24日 参照)
結局、古典的な方法でキャノピー曲面のロールバーの
影になる部分の横断面と縦断面を採寸(6月1日作業)
空力特性上、サイドミラーをキャノピーの中に入れたい。
採寸図を元に、既存曲面の三次曲面(歪んだ楕円球面)に二次曲面(円錐)を
継ぎ足し、さらにサンレイク伝統のS字曲面に持って行って収束させる。
本体と同じくリブを基準に発泡スチロールブロックを貼り付け、
「風の気持ち」になって削り出す。
仕上げ削り後に、補強クロスを積層し、離型フィルムを
沿わせ、レジンペレット入りポリ袋で荷重をかける。
車庫の奥から前輪サスパーツを掘り出して、柏会製特性ホイールと
の勘合をチェック。ハブ径が非標準なのだがバッチリとフィット。
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この日の帰路、愛車スターレット 300000km 達成。
光りの速度を少しだけ感じることができた。
光が1秒間で進む距離を、スターレットは15年かけて走った。平均燃費は16km/litter、これまでに 18750 litter のガソリンを消費したことになる。ドラム缶にして約94本。重さにして18ton。これだけの炭素を光合成で固定化するのに、どれだけの植物と時間が必要になるのだろうか?