The Place in the Sun

三文楽士の休日 2007鈴鹿編

FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP
DREAM CUP ソーラーカーレース鈴鹿2007


結尾(コーダ)が欠けた夏の奏鳴曲(ソナタ)
"A Summer Sonata without Coda"

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§4.再現部 「踊る大天気予報」


2007年8月5日 日曜日

FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP DREAM CUP ソーラーカーレース鈴鹿2007
エンジョイクラス4時間耐久レース
ドリーム&チャレンジクラス 甲羅干し〜8時間耐久第二ヒート


06:30 カーテン越しに差し込む朝日で目が覚めた。「?」

06:45 TVとインターネットにて気象情報をチェック。

  昨日午前中の予報では、今日は曇り後雨、それが
  昨日15時には終日曇りという予報に変わっていたが、
  今朝のチェックでは6〜12時が晴れマークになっている。
  午前中は雨雲の発生も無さそうだ。

充電できる。

08:00 ロビー集合 朝の挨拶は

     「晴れましたねえ」

 太陽電池パネルの痛みが激しい我がチームでは、あまり天候が良くならない方が発電性能差が小さくなって有利なのだが、かといって、昨日のままでは、最後まで走り続けるかどうかさえ怪しい。事情は他チームもそんなに変わらないだろう。みんなでピットやコース脇に止まり、僅かな光で充電しながらチェッカータイムを待つレースは、あまりに寂しい。



 先発隊、冷却用氷買出隊と駐車場からの徒歩組に分かれ、出発する。
今日は、監督の勧めに従って、いつも停めている秘密の駐車場ではなく、遊園地の正規の駐車場に停めることにした。「意外に近いですよ。近道知ってるから大丈夫」

 反省はするけど後悔はしない、という監督の言を信じた僕は、11時間後に目一杯後悔することになるのだが、それはまた別の機会に書くことにしよう。



08:24 ピット着



 早速、充電準備と、昨日濡れていたために出来なかった部分の補修にかかる。即席で考えたダイニーマ短繊維補強アラルダイトは良い感じに硬化している。スパッツは概ね乾燥している。昨日、十分に洗い落とせなかった細かい砂や砂利、乾いた草の葉がパラパラと落ちてくる。

 スパッツ周りの細かい整形にはキョンシーチームに教えて頂いた軽量紙粘土を使い、ペイントによる防水塗装で仕上げてあったのだが、防水塗装がダートに突っ込んだ際にグラベルでサンディングされ見事に剥げてしまっている。当然紙粘土は水を吸い、ヌルヌルの状態、この部分はまだ完全には乾いてはいない。ここはガムテープで押さえるしかない。 

 コースはエンジョイクラスの4時間耐久レースの真っ最中。


(時刻は前後するが)9時30分現在のモニター画面 トップ争いは激烈

08:50 「ウチだけ満タンにする方法はないかなあ?」高橋
    数秒の沈黙を置いて監督が応えた。「祈りでしょう」

マレーシアではアラーに祈り、ギリシャではヘルメスに祈った。日本では誰に祈ろうか?

09:15 足回りをチェックしていた監督が「何!?」と声を上げた。

 シャーシ横の補強用リブが剥がれているではないか!!。このリブは剛性の足りないシャーシを補強するためにギリシャ遠征前に後付で入れたものだ。継ぎ接ぎだと、どうしても接合強度が弱くなってしまう。

 昨日、見逃していたか、あるいは残留応力で夜の間に外れたか? 元々無くてもなんとかなっていたリブではあるが、今はさらにそのリブを跨ぐように他の部品が取り付けてあるので元通りにしなければならない。

 こういう時の判断と行動は我々ながら実に速い。
 「即硬化のアラルダイトを剥離面に流し込んで押さえ込もう」
 
毎回、これを使うようになったらオシマイだよね、と軽口を交わしながら積み込んだ補強クロス、押さえの台木、C型クランプを、今年もまた全部使うことになってしまった。

 作業時間15分で終了。



あり合わせの手近な材料を組み合わせ、アラルダイトが硬化するまでの間の仮固定を行う。


09:30 スパッツ取り付け
09:45 充電場所に移動
09:50 レースキング先生、浜の女神様(K女史)と岡田親子登場



10:00 バッテリー保管解除

 バッテリー運搬係はサンレイクでは伝統的にドライバーが務めることになっている。


バッテリー保管庫の出口に設けられたスタートラインにバッテリーを
積んだ台車とともに並び、10時ジャストを目指してカウントダウン。そして、


怒濤の猛ダッシュ。サンレイクのおじさん二人は完全に出遅れてます。


 ここから、朝の充電開始。昨日は雨ないし曇りという予想だったため大番狂わせなのだが、ソーラーパネルがかなりダメージを受けている我がチームの充電量はかなりショボショボ。




10:35 伝導師 細川さん 登場 


「レース真っ最中に監督がこんなところにいていいの?」
「うん、いいの。 後はトミチャン(冨高氏)に好きに走ってぇ って交代してきたから。」

 とことん細川流である。要するに2ndドライバーである冨高さんが自由にファイトするだけの十分なエネルギーは残しておいたよ、ということである。TVでは何台ものコンピュータを駆使して電脳ピット合戦を繰り広げる重装備の芦屋大学やOSU:大阪産業大学のピットと比較して「勘ピュータ」などと揶揄して紹介されることが多いが、細川さんの判断はいつも緻密な計算に裏付けられている。単にパソコンなんぞという老体兵器を使っていないというだけなのだ。


「エンジョイって台数多いし、速度差ありすぎるから運転大変だねぇ」
「もう、こんなになっちゃって。三台くらい平気で重なっちゃうんだから。」

なんて話をしてます。



レース終盤、コース脇に止まって充電しながらチェッカーを待つ車両が増えてきた。


11:05 サンレイク応援ツアー御一行様到着


いつもはピットメンバーの鶴野が、今回はツアーコンダクター兼運転手。


11:20  エンジョイクラスにチェッカーが出た。

 優勝はオリンパスRS、2位がパンダサン、昨年優勝の長野県工科短大は3位。1〜3位がいずれも44周という素晴らしいレースだった。

「(ドリームカップ:優勝杯)は1億円でも売らない。」
(オリンパスRS監督の山本氏)


「(エンジョイクラスって)ドリームクラスより面白いねえ。小さい車の
  走らせ方、 解ってきたんで、来年はチャレンジクラスに出ようかな」
(細川氏)



11:40 インサイドツアー特別編

 水をかけてソーラーパネル冷やす理由を説明するの抜かしました。ごめんなさい。


画像提供 谷田部純氏


12:20 交代で食事


ピット内が学童保育の遠足みたいになってきた


車両保管後のエンジョイクラスの車両を避けながらピットレーンに押しだし、出走前点検


12:35

 グリッド着。今日は暑い。


グリッド初体験の二人を加えて記念撮影


13:00 スタート

13:10 マックススピード 右前を大破!?



 どうやらスパッツの外皮が剥がれてしまったらしい。してピットイン
 ピットレーンを走る速度は十分速かったので足回りは大丈夫そう。

14:20 インサイドツアー

14:43 サンレイク ドライバー交代


記録更新 49秒!!

レースキング先生に撮影いただいた分解写真



本日のドライバー交代


14時58分 立命館大学 EVレーシング



15時00分 堺市立工業高等学校科学部



15時02分 ポリテクカレッジ滋賀SPD



15時02分 チーム・キョンシー



15時24分 タブラジ・レーシング



15時24分 紀北工業高等学校



15時28分 金沢工業大学夢工房



15時30分 タブラジ・レーシング タイヤ交換中



15時36分 日向工業高等学校



15時37分 尼崎工業高等学校



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第2ヒート途中経過 15時23分

 上位との差は歴然と開いてしまっている。今年は初めて使う古河のバッテリー。僕たちは、まだそのバッテリーの底を見たことがない。どこまで保つか? が解らずに走り続けるのは少々怖いが、その心理を押し殺して後は淡々と走るのみ。


笑顔が疲れてるなあー。パソコン画面で残電力計算中の監督の表情は渋い


16:00 そろそろ、最後の逆転劇タイムの始まりなのだが

16:30 今年は去年とは配役が異なっていた。

 ラスト30分 バッテリー電圧低下が顕著になってきた。やはり第1ヒートで少々使いすぎてしまったようだ。コース上で止まるのだけは避けたい。頼みの綱は低速使用にチューンしてもらったモーター。最高速を落とした分、低速でのトルクは上がっているはずなので、登り坂では少しは有利なはず。


コース脇に停まって充電しながらチェッカータイムを待つ車両が増えてきた。

  「ウーーン 苦しいねえ。次 止まるかもしれん」
  「おお、なんとか登り切った」

苦しい会話だが、これが実態だ。

17:00 8時間のサバイバルゲームに終わりを告げるチェッカーフラッグが振られた。

 既に僕たちの関心は、無事にコントロールラインまで辿り着けるかどうか、という点に移っていた。「まだか?」「今、どの辺りを走っている?」。他チームの車両が次々とチェッカーを受ける中、プラットホームで長い時間が過ぎる。

17:04 「来るぞ」、「あれだ」

 こんなにプラットホームでサンレイク号を待ち遠しいと思った事はなかった。


待ちこがれたチェッカー


 最後の一周のラップタイムは停止寸前の7分38秒。 2007年の夏が終わった。

第0.5稿 2007.09.20.
第1.0稿 2007.10.05.
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§5.未完の結尾部 「終止形に導けない属和音」 へ

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