The Place in the Sun

三文楽士の休日 2007鈴鹿編

FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP
DREAM CUP ソーラーカーレース鈴鹿2007

結尾(コーダ)が欠けた夏の奏鳴曲(ソナタ)
"A Summer Sonata without Coda"

*************************************************************************

§3.展開部 「チャレンジは燃えているか?」



2007年8月4日 土曜日

FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP DREAM CUP ソーラーカーレース鈴鹿2007
フリー走行、予選、ドリーム&チャレンジクラス8時間耐久第一ヒート

06:30 ホテルのロビーに集合。
   天候は曇り、車のフロントガラスにポツリポツリと雨滴が落ちる。

06:48 鈴鹿サーキットのピットに着。



06:55 同じピットの立命館大学チーム到着。
   ピット内は慌ただしく、殺気が満ちてくる。


コース下見バス この日はドライバー優先


07:10 ピットレーンでは再車検のブレーキテストが行われている



  ドリーム&チャレンジクラスのフリー走行は 7:45-8:15 の30分間と短い。


13-15ピットの4台が勢揃い


07:45- フリー走行


ピットレーンに並んで開始時間を待つ



スタートドライバー平尾は試走会に参加できなかったので、これが1年ぶりのドライブになる。


08:16 ピット二階からホームストレートを眺めていると、柏会メンバーがカウルを持ち上げてピットロードを歩いて来る 何事だ?


 なんと、後輪のロックリングが甘く、脱輪してしまったとのこと。自力で可変界磁式に改造したというミツバモーターの外周が荒々しく削り取られている。車体自体には致命的なダメージは無さそうだが、固定子側の界磁位置を変えるメカ部分は剥きだし、外観からは詳細を伺うことはできない。


08:27 そうこうしているウチに、今度は長野工業高校がレッカー車にて運ばれてきた。


 遠目にはトラブルの内容は解らない。試走会では今回の柏会と同様、後輪ロックリングが緩んで脱輪。外れたタイヤがボディの後輪周辺をぶち抜いてしまった。アッパーカウル付けてたらパネルが何枚も犠牲になっていただろう。朝は「そういう意味でツキは無くなっていないな。」と強気だったのだが。
今日は、なんとなく荒れそうな予感


08:30-09:00  エンジョイクラス フリー走行



09:15-10:05 ドリーム&チャレンジクラスの予選

09:43 柏会復活。

09:55 予選タイムアタック後は練習走行にあて、ピットに戻る

 芦屋大学2号車が、ずいぶんと張り切っている。最前列に2台並べる作戦か? ってところに紀北高校が割って入った。さらに、コースが空くのを待っていたエバラ・エコテック。でたあ! 3分55.2秒



 サンレイクは4分53秒056にて9番グリッド獲得。これまでになく荒れたフリー走行の反動か?、全体的には比較的おとなしめのタイム。

 予選の後は、本戦に備えてのタイヤ交換と、毎度毎度のアライメント調整。車体剛性が不足しているのか、少しずつ狂ってくるのだが、今回は、ステアリングボックス下の補強が効いて少しはマシかなあ・・・・・改善されているといいなあ・・・。

 サンレイク NEO のシャーシの基本部分は、かれこれ8年間使っていることになる。プリプレグを使って加熱硬化する大型設備を持てないサンレイクのFRP整形は、基本的に常温硬化の配合樹脂を用いたハンドレイアップ。希釈剤を用いずに、補強クロスに十分樹脂を含浸させるための低粘度を実現するには、低分子量のエポキシ化合物を使わざるを得ないのである。結果、硬化後の樹脂は硬脆くなってしまい劣化も速い。その上に継ぎ足し継ぎ足し小改造を繰り返している。接合部の強度はかなり心許ない。さらに、のべ走行距離は5000km超に達しているのである。


10:20 エンジョイクラス予選待ち行列



10:35 芦屋大学TIGAの運転手:野村氏が血相代えて我々のピットにやってきた。


 挨拶代わりの軽口も通用しないほどの真剣モード。I社製の特製タイヤがフリー走行でボロボロになり、急遽かわりのタイヤを探しているという。立命館大学チームの予備がつかえそうということで一安心(かな?)。2〜3周、分けて貰ってもいいいんじゃないか?。TIGAの順位は3周減らしても、おそらく変わらないが、混戦のチャレンジクラスはポジションによっては10着位分くらい変わるかもしれない。
10:50 陽が出た

11:10 本日のお客様 この業界ではすっかり有名人



11:15- 交代で食事

 天気は晴れたり曇ったり。その度に一喜一憂。

11:35 柏会 予選タイムは出したものの 第一ヒートに向けて必死の復旧作業が続く。



12:10 出走前点検 OK

12:18 どうした山口大学、牽引されて戻ってきた。



12:23 太田鉄工所御一行様 御来場。 



12:40 グリッドに押し出し開始。


新婚の平尾夫人が付きそう。 みんな、こういう時があったよねえ。昔は



「地獄から戻ってきましたねぇ」
霊元導師キョンシーチームから柏会への祝福の一言。彼らが口にすると迫力がある。



空は薄曇りで、日差しは弱い



13:00 スタート

 昨年の「遠慮したらアカン、もっとガーーンと行け」×2 が効いたのか? 今回の平尾は高橋バリのロケットスタートを見せた。最初の一周は6位、ただし消費電力も突出した。3ラップ後には10位と順当なポジションをキープ。


13:50 ソーラーカーレースでは性能が近い車同士が接近すると抜くに抜かれず、抜かすに抜かされず、団子になってしまうことが多い。接近しすぎると、どうしてもブレーキングを伴う加減速を行わざるを得なくなり、無駄に消費電力があがってしまうのである。

 だから キョンシーとバカボンズには近づくな(おそらく、お互いがそう思っている)と注意したのに、モニターを見れば、その3台が仲良く団子になって走っているではないか。なんて仲が良いのだろう。


 ピット後方では恒例のウチワ作りが始まっている。しかもサンレイク関係者だけでなく立命館大学チームのメンバーやアイアンワーカー有彦氏まで動員されている。ゴッドネエサンの指令には逆らえないらしい。


江口倫郎さん登場 今年はWSC開催20周年ということで、
有名カーデザイン専門誌に投稿するとのこと。楽しみ。


14:20 インサイドツアー



 観戦に来て頂いたお客様へのサービスである。引率はレースキング先生と浜の女神様。詳しくはこちら:メン氏のブログから、2007年インサイドツアーの項へ


14:40 空は雲に覆われ、入力は少ない。どれくらい少ないかというと

 ピット2Fのミニソーラーカー工作コーナー。太陽光だけでは動いてくれないので照明用ライトでエネルギー供給しなければならないのだ。そう言うと身も蓋もないので「これはエネルギーの空間伝送の実験も兼ねている」ということでいかがでしょうか?レースキング先生。
本物のソーラーカーで、これしたら反則ですからご注意ください。



 第1ヒート中盤、ホームストレートで競り合う3台。手前がチャレンジクラス芦屋大学スカイエース2号車、先頭がチャレンジクラスから総合表彰台を狙う柏会「武蔵」、中央がドリームクラスの意地をかけて、それを阻止しようとする「東海FALCON」。
 ドリームカップ・ソーラーカーレース鈴鹿では、1ヒート中に1回以上のドライバー交代が義務づけられているため15時前後はピットが全体的に慌ただしくなってくる。特にトラブルでもない限り、レース本番中にドライバー以外のメンバーが目立てるのはこの時だけなのである。(もちろん実際には定常時のピットも結構忙しいのだが、なにせ、数字読んだり、計算したりという地味な忙しさなので。)

14:47 ご近所では、まず尼崎工業高等学校チーム、ドライバー交代



14:58 お隣ピットの堺市立工業高校科学部、ドライバー交代




15:00 レース開始から2時間経過

 先ほど、ホームストレートで競り合っていた柏会(隠れて見えないが)と東海FALCONが、ほぼ同時にドライバー交代。さらに手前はバカボンズの「スカラバイアス」、ピットロードを走っているのは名古屋工業大学。かなり過密してます。2時間ぴったりに拘らなくてもよさそうに思うのだが。
15:01 立命館大学 ドライバー交代



15:08 サンレイク ドライバー交代


1分05秒は おそらくチーム最短記録  (さらに、この記録は翌日更新されることになる)

15:14 ポリテクカレッジ滋賀SPDチーム、ドライバー交代。



 ドライバー交代を含む、レース中のピットインしての作業は危険と隣り合わせ(僕たちは身にしみてます。)。なので、同ピット内、近隣ピット間でドライバー交代が重ならないように譲り合って、約1ラップづつずらしているのであります。

15:51 雲がいよいよ厚くなる

16:06 ついにポツリと雨粒が落ちだした。

    雨対策は特にはしていない。1997年、土砂降りの雨の中で、水浸しになりながらのドライビング経験のある平澤監督は雨にはナイーブだ。

16:10 日照が極端に弱くなりコース脇に止まる車両が増えてきた。路面は完全にウエットに。





16:28 高雄応用科技大 タイヤ交換



 雨は次第に大粒になるが、西の空は明るい。通り雨だと確信する僕は「雨は必ず止む。ピットインは不要。」と宣言した。その直後、

16:29 プラットホームにて、ホームストレートを通り過ぎるサンレイクNEOを見送り、コントロールタワー側にあるオーロラヴィジョンを見上げていた竹原が声を上げた。

 第1コーナーをクリアした直後(実は、ここで既に滑っていたようだが)にコントロールを失ったサンレイクは、ここで痛恨のスピン。車両後方から第2コーナー脇のグラベルに突っ込んでしまったのだ。











 幸いオフィシャルによる牽引にて脱出できた。この豪快なスピンシーンは絵になったと見え、後日のTV放映でもしっかりと映し出されていた。

16:39 様子見しながら1周した後、細部点検のためにピットイン。スパッツは泥だらけになり、あちこちバリバリに割れているが大きな欠損はなく原型はしっかり保持している。メカニックにも特に異常は見られないが、後輪スパッツは大量のグラベルをすくいこんでいる。あまりに重そうだったので掻き出せるだけ掻き出して、そのままピットアウトさせた。

  


 ピットレーンには、後輪スパッツから落とされた大量のグラベルが・・・・・。同ピットの他のチームの皆さんまで動員してピットレーンの掃き掃除。お世話になりました。

 スピンしたのはサンレイクだけではなかった。同じ頃、柏会「武蔵」もコース内で華麗にターンしていた。

さらに!

16:58 第1ヒート残り2分というところで、シケインにてTIGAがスピン。横になりコースを完全にふさいでしまった。全員がモニターを中止する中、そこに後続の車が迫る。ピットエリア全体から悲痛な悲鳴があがった。




 これは今大会中最高のラッキーだったかもしれない。TIGAの後ろを走っていたのは名ドライバー中岡氏の駆る紀北ソーラーだった。最悪の事故は、なんとか避けることができた。(二枚目の画像に写っているのはさらにその後の車両です。紀北ソーラーは取り損ねました。悪しからず。)

17:00 大荒れの第一日目を締めくくるチェッカー。


江口倫郎さんに撮影していただいた1枚

17:10- 車両保管


拡大


 車両をピット前に並べて保管解除を待つ。コース上で停止してしまった車両を含め、全車がピットに戻り、所定の事後チェックが終わるまで車両に手を触れることは出来ない。沈みゆく太陽と時計を交互に見比べ、やきもきしながら時間が流れてゆく。


立命館大学ブラタリアスは牽引にて帰還





タブラヂチームは無念のレッカー移動。



チェックのカウボーイハットをかぶったチビッコ達が突然ピットレーンに現れた。


 鈴鹿市の井田川小学校4年生達がチビッコ新聞記者になり、レースを取材し、現地で編集製作した読売ジュニア新聞号外の特別配布だった。記事のメインは鈴鹿高専チームへのインタビュー。単なる伝聞ではなく素直で鋭い感想が添えてあるところが嬉しい。常に気を張りつめていなければならないレース中で、少し優しい気持ちを取り戻すことができる暖かい一時だった。

 さらに夕刻にはOSU:大阪産業大学と松下とによるオキシライド乾電池による最高速度をギネスブックに載せようというプロジェクトが、時速100km超を達成したとの便りが流れていた。ツインリンク茂木にて午後14時くらいの事だった様だ。拍手。


もちろん、後日(大阪某所にて)撮影した物です。悪しからず。

注) 2007年9月30日 松下電池、リチウムイオン電池工場の火災事故の直後にこのポスターは撤去された。
17:30 ようやく車両保管解除


 大急ぎで車両を、あらかじめ充電台を置いて確保しておいた充電場所に移動させる。まずはアッパーカウルを外してダメージのチェック。後輪だけでなく、前輪スパッツにも大量のグラベルが入り込んでいた。

 前輪サスカバーの上にもこれだけ跳ね上げられていた。スパッツの中身がどれほどのものか想像できるだろう。スパッツを外して持ち上げようとしたとたんグラベルの重みで折れ曲がってしまった。

こちらは後輪部分。かなり跳ね上げられている。



ほとんどバケツ一杯である。よく、これだけ抱えて走っていたものだ。



高橋が持たされているのはピットレーンに落ちたグラベルを履き集めた一袋。


18:10

 夕刻の充電タイムは18:30のバッテリー保管まで。明日のために少しでも長く粘るのが常だ。その間、手分けして泥だらけになったスパッツの水洗いを行う。隙間を軽量紙粘土で埋めていたのが災いし、水でふやけた紙粘土に砂利がめり込み、なかなかきれいになってくれない。スパッツ洗いに苦戦していると、まだまだ時間があるはずなのに充電組が引き上げてきてしまった。空は厚い雲に覆われ、入力がほとんど無い上に、ダメ押しの雨まで降ってきたのだ。

 その後は恒例のタイヤ交換と割れたスパッツの修理。

 サンレイクNEOのスパッツは、僕たちのチームの伝統である、
    ・発泡スチロール塊からの削り出しによる内型造形
    ・表面に補強繊維積層
    ・最後に内型を刳り抜く
 という一回限りの製法だ。軽く、かつ剛性の必要なスパッツは、基本的にはカーボン繊維クロスの1層積層だ。カーボン繊維は静加重に対する耐性は非常に高いが、耐衝撃性には難点がある。ホームストレートを駆け抜けた勢いを残したまま砂利に突っ込めば、ボロボロに砕け散ってしまっても不思議ではない。

 事実、相当にバリバリに割れているのであるが、ご覧通り、ほとんど原型は損なわれておらず、欠損部分も極めて少ない。下部開口部周辺の内側に、カーボンクロスに重ねて追加積層してあったザイロンクロスが砕けたカーボンコンポジットの破片をつなぎ止めていたのである。実は昨年、スパッツを製作した際に寸法を読み違え、できあがったスパッツが深すぎてタイヤリムが隠れてしまうことが判明、あわてて達磨落としの要領で深さを15mm切りつめ、継ぎ合わせ部分の補強のために開口部の周囲の内側にだけにザイロンクロスを追加積層しておいたのだ。

 と、云うことで割れたスパッツの補修は、応急的にはガムテープで十分なのだが、表面が濡れているでガムテープはくっつかない。しょうがないので、二液硬化型の接着剤に、1〜2cmに刻んだダイニーマ繊維を混ぜ、スパッツ内側から土壁補修の要領で塗りつけて対処した。



19:00 作業は続く



 タイヤに残されていた傷を見つけ、みんなで青くなった。まるでカミソリで切り裂いたように鋭く深い。スピンしたときに付いたに違いない。レース終了間際でなかったら、大変なことになっていただろう。

 タイヤ交換に手こずり 作業終了は19:55。


 花火見ながら夕飯代わりのお弁当のはずだったのだが、今年は花火は無し。写真に撮ったら花火に見えなくもないかな?と思って撮影してみたが、やっぱり観覧車は観覧車。

 隣のピットでは、タブラヂチームの謎のモータートラブルへの対応に、オジサンチームが総出で頭を抱えていたようだが、当方クタクタで先に失礼させて頂いた。


試走会にて、ドライバーとピットとの電話連絡がトラブったため、
万一に備えて急造したサインボード。幸い本番では使う必要が無く
なり、単に弁当注文用メモボードになり果ててしまった。    


明日の予報は曇り。果たしてレースは成立するのだろうか?


仮公開 2007.08.11.
第一稿 2007.09.09.
第二稿 2007.09.20.
第三稿 2007.10.06.

*************************************************************************

§4.再現部 「踊る大天気予報」 へ

SUZUKA2007 INDEX へ

三文楽士の休日HOME へ




Copyright Satoshi Maeda@Team Sunlake
三文楽士の休日 / The Place in the Sun