三文楽士の休日

Phaethon2004

ギリシャ・ソーラーカーラリー道中記

 




*** 終章 ***




 

2004年 5月 28日 金曜日  ラリー第5LEG イテア〜アテネ 192.55km

 朝 07:20 ポツポツとスタート準備が始まる車両保管場所にて、港に向かって、即興で一曲トランペットを吹く。潮風が気持ちよい。


この日の一曲はなかなかの名曲であったが、即興の悲しさ、同じ曲は
二度と吹けないのである。 持って行ったのはマルカートのポケトラ


イテア港の車両保管場所にて朝食タイム。かなり大きな客船も出入りしている。

 

 いよいよ今日がラリー最終日。モーターの調子は良いが、今日は最後の難関ともなる急な登り坂を含んだ長距離コース。おまけに、最後の最後には、ラリー初日に止まってしまったアテネ市内の混雑した中を走らなければならない。 サンレイク出発予定時刻は08:30。 スタートラインにサンレイク号と並んで立ち、トランペットを構える。「何をする気だ?」とオフィシャル氏。「出発の信号ラッパを吹く」。 「よっしゃ、そこで構えていろ」。止められるかと思ったら、オフィシャル氏はポケットからデジカメを取り出した。

 

 天候はいまひとつさえず日差しは少し頼りない。09:00頃から登り道に入る。わずか13kmの間に標高638mまで登る難関であるが、トラブル無くクリア。田園地帯を通る一般道から 高速道路に入り、一路アテネに向かう。


行く手を山羊の親子が横切る! 赤く咲くのはケシの花。いたるところに自生

 

遅いトラックは追い抜いてしまう。
右側通行なので左車線が追い越し車線
工事中で車線減少! 一般車につぶされそう。クリス必死の交通整理

 

12:45 最後の上り坂。ここを超えるとアテネ市街に。高速道路を降りるとそこは、アテネ市内の混雑のまっただ中。左右から自動車やオートバイが合流してくるため気が気ではない、しかも、どの車もサンレイク号と併走し、皆が携帯電話のカメラで写真を撮り出す。なんと片手運転でカメラを構えて近づいてくるオートバイまで出現。道順もわかりにくく、先導のクリスも限界に近い。彼自身が危険に晒されている。サポートカー車内はサンレイク号に指示を出すトランシーバーに乗員全員が絶叫している状態。


 

高速道路を出て料金所を通るとゴールは間近だが、実はここからが本当の最後の難関であった。
無法地帯と云っても過言ではない混雑したアテネ市街地を乗り切らなくてはならない。
いかに混雑していたか写真で示したいが、残念ながら無い。写真を撮るどころではなかったのである。

 

路面状態が最も悪かったのは山間部でも地方都市でもなく、実はアテネ市内なのであった。
ここまでがんばってきたサンレイク号のボディであったが、アテネ市内走行中にかなりの
ダメージを受け、ボディ裏側には内部構造材の座屈破壊による横皺が入ってしまった。

 

 工事中のオリンピックスタジアムが見えてきた。ラリー初日に止まってしまったガソリンスタンドを横目に、誘導に従い、13時過ぎにスタート地点でもあった運動公園にようやく到着。

 

総走行距離 806.94km

長い長い旅が終わった。

 

見事な先導。エフハリストー。 ゴール直後

 

  ゴール地点では、BGM(なぜかDeep Purple)の中、ゴール順にフィニッシュゲートをくぐるセレモニー。ゲートをくぐる前に、お世話になったチームにお礼の挨拶。


 

 

 

 15:17 パトラ大チーム到着。サンレイクチームは整列し、最敬礼で出迎えた。感謝の気持ちを言葉でうまく伝えることができない僕たちは、行動で表現することに決定。これから、Japanese style で、祝福のセレモニーをする、と予告して、ニコスとドライバー氏を胴上げした。

 

パトラ大学のヘルメス号 ギリシャ国旗をはためかせ無事ゴール

 

 彼らの車は、なんと3ヶ月で仕上げたとのこと。正直に言って見てくれはかなり悪い。総重量も300kg近くあるという。サンレイク号の2倍以上の重さ。そもそも車検会場で動いたり、曲がったりしたときには周囲から拍手が沸いた。つまり、そのとき初めて動いたに等しいのである。 しかし、マスター直伝であろうメカニックは極めて頑健。電気系統も、他のチームのHPなどを詳細に研究して組み上げたようで、よく勉強している。なにより、初めて作ったソーラーカーが一般道を800km走りきったというのは素晴らしい、賞賛に値する結果である。


 


 トランポ輸送でグリファダの旧国際空港の格納庫に車を返し、20:00、借り物であるモーターを取り外す。どのようにお礼をすればよいのか迷う僕たちにエール大のデヴィッドは「モーター本体にはダメージは無いので、このままで返してくれれば良い。変形してしまったロックリングだけを新調し、取り付け用の専用工具をそろえてほしい。」とのこと。名門中の名門エール大学は太っ腹である。ありがたく好意を受けることにする。今は、単に後輪を取り付けるための部品と化してしまった壊れたNGMモーターを再びサンレイク号に装着し、明日の積みこみの下準備をして、ホテルに引き上げる。


グリファダの格納庫にて、エール大学チームに借用したNGMモーターの返還式

 

 21:00 近くのゴルフ場のクラブの庭を借り切っての表彰式とパーティ。お世話になったチームメンバーにサインを貰いに回る。先導ライダー達の席に引っ張り込まれた私は、イオアニスにワインの一気飲みを迫られる。おいおい、それはワイングラスではなく、ミネラルウオーター用の大きなグラスだろう。クリスも上機嫌。ライダー達と一緒に、もう一度、走れなかったサバスにも乾杯。イオアニスが携帯電話でサバスを呼び出してくれる。骨には異常はなく、今は家で安静にしているという。はやく元気になって欲しい。

 空きっ腹に、これだけ一度にワインを飲めば結果は容易に類推できるであろう。ここから先の記憶は、あまり残っていない。

 




2004年 5月 29日 土曜日 積みこみ

 午前中、オーガナイザー主催のアクロポリス見学ツアーが組まれているのだが、運送会社の手違いで、午後に到着するコンテナが、すでに格納庫に到着して待っているという。なんてこった。仕方がないのでツアー組と二手に分かれ、格納庫へ。行きと同様、東海大翔洋ファルコンと二階建てにしてのコンテナ収納。二度目なので、少しは要領が良くなっているとはいえ、たっぷり3時間以上かかった。昼食を済まし、車検があったザピオンで合流。思い思いに市内観光とお土産探し。私の目当ての民族楽器博物館は閉館中。土曜の午後は楽器屋も閉まっていてブズーキにもガラス越しで対面できただけ。ちょっとがっかり。

パルテノン神殿

 

ローマ時代のアゴラ遺跡の風の搭

 




2004年 5月 30日 日曜日 帰国の途に

 昨日のツアーに参加できなかったメンバーで、午前中に大急ぎでアクロポリスツアーを済ませ、空港へ。レンタカーを返して、後はおきまりの免税店でのお土産ショッピング。エミレーツ航空EK106便 アテネ発 16:05 行きと同じくキプロス経由で、ドバイでEK316便に乗り換え、関空には翌31日の17:00(日本時間)着の予定。ダッシュさんも見送り(取材)に来てくれる。

 

     こんなに、いろいろな国の人にお世話になったことは今までになかった。

     悔しい涙や、嬉しい涙をこんなに流したこともいままでには無かった。

 

     国も、民族も、言葉も様々な僕たちは、ギリシャの同じ道を、同じ風の中を、

同じ景色の中を、同じ太陽の力を使って共に走った。

 ソーラーカーを愛する人の心は皆同じだった。

 

いよいよ飛行機に搭乗、という時になって、あたりが急に暗くなった。

窓越しに空を見上げると雲が出て雨が降り出している。

 

大会中には一度も降らなかった雨が、飛行機の窓を濡らしている。

 




 

2004.06.06 初稿

2004.06.10 改訂第2.0版 画像付き

2004.06.21 改訂第3.0版 非公式HP原稿

2004.07.18 改訂第3.5版 

 

 

Satoshi Maeda@Team Sunlake

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