The Place in the Sun

三文楽士の休日

ABU DHABI SOLAR CHALLENGE 2015 and WORLD FUTURE ENERGY SUMMIT

ADSC2015 阿布達比太陽周走記/THE ARABIAN SOLAR RALLY ROAD




第5章 火を噴くサーキット
Section 5 Burning Yas Marina Circuit


Day 5   予選   Qualifying




2015年1月15日 ADSC予選

06:00  朝食
06:30  少し早めに出発



 昨日で車検が終わり(一部、残っているが)今日の予選からがレース日程になる。予選と云っても朝9時から17時までの8時間、予選における各チームの義務走行距離は250kmYMCは一周5km強なので47−8周だ。



 さらに、各ドライバーの義務周回数が10周。予選終了は17時。これ、ホントに予選かぁ? ソーラーカーレース鈴鹿のエンジョイクラス4時間耐久で、平均時速60km/hrで4時間走ると40周、これはそこそこ良い成績だ。それでも距離にすると240km。日本だったら立派なレースの規模だ。しかし本戦のラリーは一日当たり300-400kmを走らなければならない。Phaethon2004と同じで、このくらいを楽々こなせないソーラーカーは篩い落とされてしまうのだろう。

 

バッテリーボックスの封印



スティーブはバッテリー封印を終えるとイベントスタッフと公式写真撮影の準備



各チーム、あわただしく準備中

07:00  ドライバーミーティング

 見に行きたかったが忙しそうなのでパス。「スティーブ」が、「7:30までに五番ゲートを通ってトラック(コース)内にソーラーカーを移動するように(日本チームに)伝えろ。」



トラックに向かう各チーム



 海外慣れしている東海大チームは大丈夫だろう。オキナワチームがいないが、ソーラーカーも見あたらないので昨日できなかったダイナミックテストに云っているのだろう。

さて困った。

ヒロシマチームのガレージは無人でソーラーカーだけがポツンと残されている。周囲を見渡し「ヒーローシーマー」と呼び叫んで回るが誰も現れない。

07:35 ゲートはすでに締め切り時間を過ぎている。

他のチームは続々とソーラーカーをトラックに押し出しているが・・・・・そこに一台のバン。ヒロシマチームとペアリングするUAE大のメンバーだ。

 「君はヒロシマチームだったな、メンバーは何処にいる?」
 「知らない、今来たところだ。」
 「探してくれ、既に時間は過ぎている。」



 ヒロシマチームが戻ってきたのは数分後。全員がミーティングに出席していたようだ。
 「急げ!」
歩いている場合じゃないぞ。



15台のソーラーカーとメンバーがホームストレート上に揃った。



空にはWSC等でお馴染みの空撮機



ハンスとスティーブとカメラ(高所作業車の上)

08:30 かなりモタモタした配置と何度かのやり直しを経て・・・・・・



ようやく撮影終了。最前列はVIP、テクニカルチームは最後列



この時撮影したのが、この公式写真 拡大


 撮影が終わると即座に 「予選準備に入る グリッドに付け」・・・・・

 ところが、鈴鹿みたいにグリッドに番号が書いてないので、どこに行けばいいのか解らず右往左往。




09:00  ADSC予選 スタート。



 オキナワチームに様子をうかがっている間に予選がスタートした。鈴鹿本番さながらだった様子。



YMS ヤス・マリーナ・サーキットはご覧のように直線と鋭角のコーナーが組み合わさった多角形的なコース。ゆるやかなコーナーというのがほとんど無い。

 オキナワチームは昨日出来なかったダイナミックテストの途中で、写真撮影に行けと云われ、再びガレージへ。まだ何項目か残っているらしい。



予選開始 55分後


10:00 ヒロシマチーム

 塩川氏に「調子はどう?」と問うと「厳しいですねー・・・・・。」「え!? 何が?(どこか壊れた?)」
「いや、コーナーが。」

 そういうつもりで質問したんじゃない。大丈夫そうだな。事実、義務周回をクリアすると一番にピットインして、メンテ体制に入ったのが彼らだった。



ガレージビルの屋上からは、レースコースがヤス・マリーナ・ホテルの建物を通過するところが見える。



最終コーナーからホームストレートへ



同時刻、メディアセンターでは記者会見が行われていた。演者は
  Speakers
  Platinum Sponsor - ADNOC: Mr. Abdul Munim Al Kindy, Deputy Chairman (tbc)
  Host Sponsor Masdar: Dr Nawal Al Hosany, Director of Sustainability at Masdar
  Qualifying Venue Yas Marina Circuit: Al Tareq Al Ameri, CEO
  International Solarcar Federation - Hans Tholstrup, President



 アブダビ国営石油公社の副会長、マスダール社の取締役、YMSのCEO、ISFのハンス・ソルストラップ氏ら、蒼々たるメンバーであるが、予選開始直後であり、おそらくチーム関係者はそれどころでは無かっただろう。

 

こちらは計時室



各チームから一名が、タイムの確認と記録のためにこの部屋に詰めている。



オンロード競技の安全担当であるハラドは地元警察と打ち合わせ中。

 彼はエジプト国籍だが、米国で学位を取り、米国の 国立事故解析センター
に勤務し、自動車の安全性に関するコンサルタントをしているという人物である。
テクニカルチームでアラブ語を操れるのは彼だけだ。




11:00 東海大がピットイン



 ブレーキにガタが出ているらしい。直線主体のWSCに特化された車体に、このサーキットは厳しい。



生神様、自らブレーキの修理である。



MPPTをバラして作業中。調子悪いのはメカだけでは無さそうで、こちらのほうが深刻そうだ。


 台湾チームのアイ先生が僕に
   「ミツバモーターを使っているんだが、ドライバーがコーナーごとに
    モーターが臭うというんだ。鈴鹿でそういうことあるか?」

   「いや、そう言う経験はないし、他チームから聴いたこともない。
    回生かけすぎて逆電流が流れすぎているんじゃないかな?」。

 三瀬氏にも確認すると「東海大もオーバーヒート気味」だという。

 YMCはコーナーというよりは曲がり角、交差点か?と思うようなクィックなカーブの連続。加減速の波が激しすぎるんだ。
「今日は予選だ。大事なのは明日からのオンロードだ。ここで車両を壊したら今日までの準備が無駄になってしまう。熱くなってはダメだ。クールダウンするんだ。モーターも、頭もだ。ソーラーカーレースでスタートポジションなんてたいした意味はない。」
 台湾チームの学生に、そう告げる自分の口調が、なんかスティーブに似てきたなあ。

12:00  正午 予選開始から3時間が過ぎた。

 東海大、あちこちダメそうで、まだゴソゴソしている。ちょっと重傷みたい。



 オキナワチームは車両をガレージ裏の日向に出してパネルのテストをしている。進捗はしているようだ。

12:25 再び 台湾、高雄応用技科大のアイ先生に声をかけられた。



   「前輪のスプロケットが壊れた。誰か相談できる人はいないか?」
あれあれ、パッと見るとディスクが歪んでいる。無理しちゃだめだって云ったのに。
   「ここが破断したんだ。」
厚さ5mm以上は厚さありそうなディスクの一部が破断している。

   「これって一般商品?」
   「いや、削り出しで作った。」

 UAE大の先生に相談すると「大学に戻れば工作機械はあるが、UAE大はここから100km以上も離れている。翌日からの本戦ラリーの折り返し地点がUAE大らしい。「PIはすぐ近くだ、そちらに相談する方が良い。」的確な指示だ。

 

 東海大メンバーにつきそってもらいPIのピットに行く。昨年鈴鹿に情報収集に来ていたPIの先生に再会。事情を話して高雄チームと相談して貰うと、さっそく電話して、学校に工作機械を使える人が居るかどうかを確かめてくれた。その前にスプロケットからベアリングを取り外さなければならない。

 シリアスな状況だが、アイ先生、学生に口で指示するだけで自分は滅多に手を出さない。

 # ただし、何故か? アッパー/ロアーの隙間を埋めるガムテープ貼りだけは先生の受け持ちらしい。

12:58 オキナワチームに新しい動き。

 騙し騙しだが電気系がフィックスされたらしい。ダイナミック試験のうち、ブレーキテストだけが未完了だったとのこと(途中で写真撮影のために並ばされた)で、ソーラーカーとメンバー全員がピットレーンを逆送して試験場(遥か遠いピットレーンの最上流)に向かい・・・・・・。



 約10分後、ピットロードにいるグレッグ(車検長)に無線で「オキナワ合格」の知らせが入った。

 ソーラーカーはピットロードを戻り、そのままトラックに向かうピット・トンネルを目指して走る。チームメンバーもソーラーカーを追って走ってくる。オキナワチームのソーラーカーが各チームのガレージ前に差し掛かったときにグレッグが叫んだ。

「Hei !! O-ki-na-wa into the first lap !!」

( おいみんな!、オキナワが 最初の周回に入るぞ!! )

 「 Oooooooooh !!! 」

 ガレージ全体から拍手喝采がわき起こった。



13:30 台湾チーム ピットアウト。

 古い部品を無理矢理組み合わせて前輪をセットアップしたようだ。このあたりの機動性は

   「PIはキャンセルした方がいいか?」
   「いや、今の古い部品は良くない、出来れば再加工した」

13:55 ドライバーの義務周回は10周。

 たとえトラブルが無くても、かなり頻繁にピットイン/ピットアウトが繰り返される。実際にはトラブルシューティングのためにピットレーンやガレージに長時間留まる車両も少なくない。



 イリノイ大学チームのピットアウトを見届けたロバートが叫んだ。

「 All cars are on the truck !! 」

 再びガレージから喝采が湧いた。
 予選開始から4時間弱。ようやく全ての参加車両が同時にトラックを走行している状態が実現したのだ。

 世界各地から集まった、国籍も言語も文化も異なる人たちだが、ここに居る全ての人が、自国から遠く離れた異国の地のレース会場にソーラーカーを運び込むまでが、如何に大変かを肌で知っている。三日間の車検期間は、その想いを確かめ合うのに十分な長さだ。だからこそ一緒に走りたい。その想いがサーキットに満ちている。



オレゴン大学チーム



PI



ヒロシマ・チームは順調な様子



SOCRATはガンガン飛ばしている。鋭角でホームストレートに入る最終コーナーのドリフト音が尋常ではない。



東海大チームはピットイン/ピットアウトを繰り返している。本調子じゃない雰囲気。



台湾チームは落ち着いてきた。


14:30 オキナワチーム、最初のドライバーが義務周回の10周を終え、二人目に交代。

 ところが最初のラップで止まってしまった。今度のドライバーはレース初参加でソーラーカー経験が全くないため、なぜ止まったのか、状況もよく解らない。



 牽引されて戻ってきた車両をチェックすると、バッテリー電圧が底を突いてしまいシャットダウンしまったとのこと。

   「ずっと作業していたんで、充電している時間が全くなかったんですよ。」

 まともなレース経験者が、かなり乏しいチーム構成なので、本来は平行して行えば良い作業も、一つ一つ順番に片付けていかなければならない。時間が限定されている状況で、これは結構つらい。

15:10 ヒロシマチーム 義務周回をクリア。

 さっさとガレージに車両を引き上げて、黙々と整備に入っている。このあたりの手さばきはベテランである。



16:00 東海大チームが再びガレージに戻っている。

 僕が、ピットレーンを離れ、スポンサーコーナーの様子を見に行っている間に牽引されて戻ってきたようだ。

 

 PIチームと競りあって過電流を流し、同時にBPSが作動してバッテリーのシャットダウンに至ったとのこと。
 ミツバモーターの主導線の被覆が真っ黒になり、手で触るとポロポロと黒い粉。かなり炭化が進んでいる。
 ここまで焦げたソーラーカー用モーターを見たのは初めて。

16:10 オキナワチーム

 誤って12V系に商用電圧を突っ込んでしまい、電気系がほとんどダウンしてしまったところから、なんとかトラックに出れるレベルにまでリペアした彼らだったが、予備パーツと借り物を組み合わせて作った即席システムの弱点が次々に露呈してきている。

 チーム・アロウ(オーストラリア)チームから借りていた予備バッテリーがヘタって電圧が低下し、制御用CPUが動かなくなってしまっていたとのこと。ミシガン大学が提供してくれたDC−DCコンバータに取り替え、主電源を充電中。

 「もうすこしで出走できそう、たとえ数周でもいいから走っておきたい。」

 ところが、ピットレーンで灯火系を再チェックすると全く点灯しない。申し訳ないが、これは止めざるをえない。単純な配線ミスだったようだが、これでタイムアップ。

16:27  予選は最終盤。そこに、今度はPIが牽引されて戻って来るではないか・・・・・。

 バッテリー電圧が底に来ているのに飛ばしすぎて加熱し、やはりBPSが作動して止まってしまったらしい。



17:00 チェッカー

 義務周回後も、トレーニングや、データ収集のために走り続けていたソーラーカーが続々とピットに戻ってきた。皆、拍手で迎えている。





17:20  最後はエコソーラーチーム。全てのソーラーカーがガレージに戻った。




 オキナワはトータル11周なので義務走行距離には全く達していない、義務周回を回ったドライバーも一人だけだ。
 東海大とイリノイ大も義務周回は未達。加えてイリノイ大チームはドライバー二名が規定集回数に達していない。

17:40 「みんな、こっちに来てくれ。」

 グレッグがインスペクター達をHQ二階のテラスに呼ぶと、中に声が聞こえないようにドアを閉めた。どうやらこれが予選結果を審議するインスペクター会議のようだ。

 

 「イリノイと、トーカイは後で考えるとして、問題はオキナワだ。どうする?」

 総走行距離は義務周回数の1/4に過ぎず、さらに規定周回したドライバーが一人しかいない。この状態では、規則書をどう好意的に解釈しても予選をパスさせることは難しい。インスペクターの立場では規則書を曲げることできない。重苦しい議論は、
 「チームミーティング(結果発表)まで、あと3分しかないぞ。」
タイムリミットにより閉じられることになった。

 「解った。評決をとろう、オキナワは?」

 皆、残念そうにクビを横に振った。(サトシ、これでいいんだな?)と視線を送るグレッグに、僕はだまって頷いた。後は「陪審」の判断だ。

18:00 チームミーティング



「みんな、良くやった。」



 ダン氏が出場チームの健闘をたたえている。

 「これから呼び上げて順番に、これ(UAEのナンバープレート)を配る。この大きいのをソーラーカーのフロントに縛り付けろ。」

 見せているのはUAEの正規のナンバープレート。かなり大きい。

「????」

「冗談だ。こっちの小さいのをコクピット内の見えるところに取り付けてくれ。」

             

 ナンバープレートは、オキナワチーム含め、全チームに配布された。その後は明日からのオンロード競技の注意。加えて。「現在「青」で仮OKになっている項目は今夜中に「緑」にしておけ。明朝の本戦スタート前にインスペクターが見に行くからな。」



ラリーマップの配布とアップデイト



オンロード競技のスケジュール



オブザーバーに関する注意:オンロード競技中、各チームの伴走車にオブザーバー
と呼ばれる審判員が乗り込み、走行状況と違反をチェックし、記録する。



 ヒロシマチームのメンバー席、ナイーマさんの隣に座っていた女性に日本語で話しかけられた。アブダビ在住の日本人で同じUAE大学にお勤めとのこと。なんと一時期、彦根にお住まいだったとか(かなり近所)。地球は狭くなった。

20:00  メディアセンターにて、



オブザーバー・ミーティング



20:20 オキナワチームのガレージ

 「グレッグから車検は合格だが、予選失格とその理由を告げられた。でも最後に一言『ダンさんにアピールする手は残されているよ』と添えてくれた。」

 と、飯塚さん。実は僕も同じ事をグレッグから伝えられていた。

「裁定がどうなるか解らないけれど、とにかく明日は走るんだ、という前提で準備しておいてください。」

 まだ終わってはいない。

 その後、インスペクター会議を再会。議題は総規定周回義務に達していないトーカイと、個人別規定周回に達していないドライバーが二人いるイリノイのペナルティ。ケンケンガクガクやっているが議論はBGMの様に耳から耳に通り過ぎて行く。僕のソーラーカー人生で屈指の濃さだった一日の疲れで言語脳が麻痺状態だ。

22:00

 インスペクター会議が終わったのは22時過ぎ。

 今日も晩飯にはありつけなかった。少しは痩せるかな?





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初稿(BBS投稿)  2015.01.16-17.
公開  2015.06.09.
微改定  2015.06.12.


Copyright Satoshi Maeda@Solar Car Archaeolgy Research Institute
太陽能車考古学研究所
2006.01.01
Copyright Satoshi Maeda@Team Sunlake
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