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片側が固定された、金属製ないし植物由来の薄板を弾いて音を出す楽器。口琴、一部のスリットドラムも構造的にはラメラフォンに分離されるが、ここでは一般に「親指ピアノ」と呼ばれ、アフリカ大陸に広く分布する楽器について取り扱う。一般使われる「親指ピアノ」という名称は西洋人が付けた名前であって、親指以外の指を使う楽器、演奏形態も存在する。16世紀の伝道日誌に記述があり*1)、宣教師が欧州に持ち帰ったのがオルゴールの起源になった。*2)
ヒュートレイシー社が西洋音階に調律した楽器を「カリンバ」の商品名で製造販売しており、「親指ピアノ」という呼び方と共に、半ば一般名詞化しているが、実際には国、地域、民族ごとに呼び名は様々である。
国・地域 | 呼び名 *1)*3)*4) | 構造 |
エチオピア Ethiopia | トム Tom、トウムトウム Toum-toum | |
ウガンダ Uganda | サンザ Sanza | 箱胴 |
タンザニア Tanzania | リンバ Limba、マリンバ Mmalimba、 イリンバ Ilimba(大型)、チリンバ Chilimba(小型) | 箱胴 |
ザンビア Zambia | カリンバ Kalimba | 箱胴 |
ジンバブエ Zimbabwe | ムビラ Mbira、ンジャリ njari、 ニュンガニュンガ Nyunga-nyunga | 板胴 |
ボツワナ Botsuwana | デングー Dengu、ドンゴ Dongo | |
アンゴラ Angola | リケンベ Likembe、チタンジ Tyitanzi | 箱胴 |
コンゴ(ザイール) Congo(Zaire) | イケンベ Ikembe、リケンベ Likembe、エレケ Eleke チサンジ Chisanzi、キサンジ Kisanji、イサンジ issanji | |
カメルーン Cameroon | サンザ Sanza | 箱胴 |
ナイジェリア Nigeria | ウボ ubo | 瓢箪胴 |
アギディボ Agidigbo | 大型箱胴 | |
ガンビア Gambia | コネ Kone |
*1) 幸せの小箱, ロビン・ロイド, 1996 *2) カリンバ(ヒュー・トレイシー社)説明書 *3) 企画展図録「親指ピアノ」浜松楽器博物館 *4) http://www.asahi-net.or.jp/~xx3n-di/08-dengu/08301.html |
ラメラフォンを系統的に分類して整理された資料にはお目に掛かったことがない。構造的には板胴のみで共鳴器を持たない楽器(瓢箪、壺、缶などの上ないし中に入れる演奏する。)と、共鳴箱を持つ楽器に分類出来る。
アフリカのラメラフォンの中で最も太い金属キーを持つのがジンバブエのムビラである。演奏時には共鳴器として瓢箪、壺、空き缶などの上に置いて演奏する。太い鉄キーは、材料を鉄道線路の上に置き、列車に轢かせて鍛造して製作された物である。アフリカの鉄道であるから、一日に何本はおろか、数日に1本といった頻度でしか走っていない。そのため、線路近くに仮小屋を建て、一月近くかけての製作であったという。(良い子は絶対に真似をしてはいけません。)
この楽器についてより詳しくはムビラ・ジャンクション MBIRAJUNCTION へ。
沖縄にて営業していた民族楽器店BEにて購入。BEは、ニューヨークで楽器収集をしていた米国人男性と、日本人女性の夫婦により経営されていた(残念ながら過去形である)。商品の多くは米国人男性のコレクションの一部であったと思われる。2000年台前半、米国に移住するということで、インターネットオークションで行った在庫一掃セールを最後に営業を取りやめた。この彫像付きの楽器は、BEカリンバコレクションの最後の2台を譲り受けた物である。アフリカの何処かから、ニューヨークに渡り、沖縄を経て、遙々と安土にやってきたのである。
左側は板胴タイプ的な構造で板胴のエッジを立てることにより演奏者に音が跳ね返る構造になっている。右側は逆に裏板の箱胴的な構造となっている。産地は浜松市楽器博物館「親指ピアノ」企画展図録に掲載されたロビンロイド氏のコレクションとの形態比較による推定である。同図録では彫像を持つラメラフォンを、マコンデ美術と並ぶ美術品でもあると称えている
エスニックショップにて「カリンバ」「マリンバ」「イリンバ」等などの名称で置かれている事が多い。タンザニアでは総称としてリンバ、大型がイリンバ、小型がチリンバと呼ばれる。「リンバ」は楽器のキー(鍵盤)である。木琴の名であるマリンバも同語源であろう。
箱胴は紫檀に似た硬い木の板で組まれている。キーの原料は「傘の骨」とも聞いたが確証はない。キーに空き缶再利用の板金を巻き付けて、ビビリ音を出すサワリにしている。弾くのは左右外側のキーのみで内側のキーは共鳴弦的な役割である。
南アフリカのヒュートレイシー社製「カリンバ・トレブル」、シェイカー付き
ヒュー・トレイシー(Hugh Tracey 1903〜1977)はイギリス人。17歳のときに南ローデシア(現ジンバブエ)に移住し、タバコ農場で働き、やがて雇用者のカランガ人の音楽に興味を持ち、アフリカ音楽の研究を開始し、アフリカ音楽の研究に一生を捧げた。1950年代にアフリカ各地で彼が録音した資料は現在は第一級の研究資料とされている。南ローデシアは19世紀末にイギリスの南アフリカ会社により植民地化され、1924年にはイギリス直轄領となった。1950年代はアフリカ各地で独立の動きが盛んになった時期に重なり、地域によっては長く内戦が続いた。ヒュートレイシーの録音はそういった時代の最中に行われたのであった。想像してみて頂きたい、当時の録音機器は真空管式であり、電源は重い発電機と鉛バッテリーしかなかったのである。
ヒュートレイシーは1954年に南アフリカにアフリカ音楽の研究所を創立し、1960年代に西洋音階に調律した親指ピアノをザンビアでの名称の「カリンバ」の商標で製造販売を開始した。「カリンバ」には箱胴タイプと板胴タイプがあり、箱胴タイプには高音域用の「トレブル」、中音域用の「アルト」、板胴タイプには西洋音階の「セレステ」、五音階でサワリの付いた「アフリカン」、他にも子供用の小型やピックアップを内蔵したタイプなど様々なヴァリエーションが作られている。
本楽器は高音用の「カリンバ・トレブル」にシェイカーを付けた物である。カリンバにシェイカーを付け、楽器を振ることでリズムを刻みながらの演奏は、関西圏を中心に演奏活動している山田晴三氏が編み出した演奏スタイルである。今では本場アフリカに逆輸出されているらしい。シェイカーの固定は山田晴三氏に倣ってガムテープである。なお山田晴三氏が主に使用している楽器は「カリンバ・アルト」である。
動物の骨製の人形と一緒に売られていたので、アフリカ製だと思うのだが、素性は不明。表板と側板に幾何学模様の細かい彫刻が施されている。箱胴の楽器では、キーは左右対称に並べられていることが多いが、この楽器ではキーの長さ順に並べられていた。この楽器に似た様式の楽器を他に見たことがない。
1985年、米国サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフの露店で作者から購入。確か$30だった。キーは鈍く、音は今ひとつだが、細かい寄せ木細工の装飾が施されており、なかなかお洒落な楽器である。サワリになっているチェーンは後付。アラビア音階に調律してある。山田晴三氏とロビンロイド氏のサインに、さらに裏側で見えないが製作者のピッチャー氏のサインが入っている。