The Place in the Sun

三文楽士の休日

FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP MYNAVI SOLAR CAR RACE SUZUKA 2014

2014鈴鹿編 「継承される夢」

2014 SUZUKA / THE GENOME OF THE DREAM CUP


§6 「光無き回廊の追複曲カノン

Section 6 "Canon, Corridor without our sun"


12:06  5時間耐久レースがスタートして6分経過。



ピットモニター 12:06:15

 8番グリッドからスタートしたSUNLAKEだが、1周回で15位まで順位を落としている。これは織り込み済み。太陽は見えず雨雲がすぐ近くまで迫っている。今日のレースが我慢大会になることは皆が理解している。5分/周前後の先頭集団も2週目からは6分前後に落としてくるだろう。

12:20 スタート直前にもトラぶった電話だが、どうも調子が悪い。

 「念のため、サインボードを作っておいて。」

12:23  すかさず製作

 

合板+コピー用紙+黒ガムテープ

 矢印の微妙な傾け具合で、秒/周回単位の加減速を指示する。これは長年一緒にレースをこなしてきた経験を持つピットクルーとドライバーとの間でしか成り立たない。

12:26  大阪工業大学チーム、早々にピットイン



ガムテープでキャノピーを補修している様子

 常時は着実なペースでラップを重ねる紀北工業高等学校だが、走りにムラが大きい。スタート3分後にもコース上でスローダウンする様子がモニターに映し出されていた。電気系統の接触不良だったようだ。

12:52  レース展開も落ち着いてきたので、スタンドに移動して暫し観戦と写真撮影。


 例年、芦屋大学の Sky Ace TIGA と 大阪産業大学の OSU model'S の二台がトップ争いを演じて会場を沸かせるところであるが、今年はそこに、静岡ソーラーカークラブが絡んで三巴の様相である。



静岡ソーラーカークラブ 「FALCON」

 車両は1995年、東海大学付属翔洋高等学校時代に製作された「FALCON」。1999年WSC、WSCC2001 in Malaysia、Phaethon2004 にも出場したヴィンテージカーだが、中身は最新装備に換装され、2012年の南アフリカ大会にチーム篠塚として出場している。レース開始一時間経過時点でTIGA,OSUを抑えて首位に。



大阪産業大学 「OSU model'S」



芦屋大学 「芦屋 Sly Ace TIGA」

13:00  路面がウェットに。


 13時前から雨はポツポツと落ちていた。本格的な降り方にはならないが、日照が無く、路面は次第にウェットになっていく。SUNLAKEの車体は全長5000mmに対してホイールベースは1800mmしかなく、しかもテールが1900mmと恐ろしく尻尾が長い。ソーラーカー・レース用のタイヤは排水用の溝がないスリックタイヤなので、濡れたアスファルト路面はスケートリンクに等しくなる。


13:20頃  高橋から入電。

 「1コーナーから滑り出し、スピンして2コーナーでコースアウトしてしまったが、自力でコースに復帰した。特に異常は感じないのでこのまま走行する。」
 電話の調子は益々悪化。ピット側の声がソーラーカーに届かない。ソーラーカー側の声は聞こえているのだが、一方通行で聞き返している間に会話できるエリアを通り過ぎてしまうのだ。監督からの次のパネル製作指示は・・・・・・・・・

13:40頃  声は聞こえている。



ここまで作ったところで電話が通じ、不要となった。
「声は聞こえているから、一方的にデータを読み上げてくれ。」


13:50頃  SUNLAKE デグナーカーブで本日2度目のスピン この頃から本格的な降り方になってきた。

13:54  エネマックス タイヤ交換



雨天用タイヤへの交換か?ピットインからアウトまで2分30秒ほど

13:56  Team MAXSPEED がピットイン。



ピットレーン上に8分近く停車した後、ピットに格納。何が起こった? 30分ほど停止

14:04  宮崎工業 ピットイン。そのままピット内に格納。



FALCON ピットイン

 MAXSPEEDのピット内格納とほぼ同時に FALCON がピットインし、ドライバー交代。

 首位は大阪産業大学 OSU model'S 。この路面状況では4輪が有利だ。3輪の芦屋大「TIGA」、静岡ソーラーカーチーム「FALCON」はペースを上げたくても上げられない。

 SUNLAKE はもっと悲惨だ。ラップは6分台後半まで落としているが、操舵が安定しないためか、低速の割に消費電力が落ちない。かといって、ペースを上げるとスピンするリスクが増す。

14:13  芦屋大学 芦屋 Sky Ace TIGA



ドライバー交代+タイヤ交換 58秒

14:15頃  SUNLAKE 第2コーナーにて本日3度目のスピン

 このスピンはドライバー交代後に自己申告(スピン慣れしたのか? 360度回って、何事も無かった様に再スタートしたとのこと)。でも一度コース上で停止してから再スタートすると、その周回は消費電力がガクっと増えるからピットにはバレバレ。少し前から回生電力用の積算計の表示が動かなくなったとのこと。致命傷ではないが、最後の電力帳尻合わせ時に迷うことになりそうだ。 困る。

14:22  五時間耐久レース、約半分が過ぎようとしている。



ピットモニター 14:22:14

 首位はOSU。唯一、5分前半/周にて周回している。オリンピアクラスは、芦屋大「QUAD」と名工大の新車「Horizon Z」が競り合っている。実際の所、HORIZON Z は、シルエットがそっくりなので遠くから見ると QUAD 見間違える。それもそのはず、芦屋大学の羽藤教授が製作指導し、カウル構造も同じ円錐形、さらにPVは、過去 QUAD に搭載されていたものらしい。



呉港高等学校 そのままピット内に格納

 ベースに元 Team G2 Create の「Blue Brit」の車台を使って製作されたカタマラン型のオリンピア車両に改造した新車である。武田理事長から「G2 Create から機材一式全部を譲り受けた」とは伺っていた。ソーラーカー本体はISF6000サイズのはずなので、そのままでは現在のソーラーカー競技には参加が難しい。とはいえ、それを非対称型に改造してしまうというのは大胆な発想である。この車体、さらにルーツを辿ると1996のWSCに出場し4位に入った三菱マテリアルチームの「チャレンジャー」である。



JTEKT Solar Car Team 「Tekton 262s」 ドライバー交代のみ

14:27  芦屋大学Bチーム



芦屋 Sky Ace QUAD ドライバー交代のみ

14:29  柏会は、きっちり半分の2時間30分に合わせてドライバー交代



交代所要時間 39秒

14:35  アステカ・レーシングチーム



ドライバー交代とタイヤ交換で1分40秒

14:34ー14:42  大阪工業大学、2回目のピットイン



ピットレーンに8分間以上停車。トラブルを抱えているようだ。

14:55  HALクラブ ドライバー交代



MITSUBAモーター全盛の時代に、東芝製モーターに拘る東芝社員主体のチームである。

14:59  TIGA タイヤ交換のみ

15:04  鈴鹿高専 ドライバー交代

 さて、僕たちもドライバー交代のタイミングを計らなければならない。スピン三回をくらって、高橋ドライバー、かなり精神的には疲れてきているはずである。同時にピットレーン停車中が実は魔の時間帯でもあることを身をもって知っている僕たちは、近隣ピットのチームとドライバー交代が重ならないように留意している。お隣の紀北工業高校チームに様子を伺いに行くと、交代予定の中岡先生、余裕しゃくしゃくで、おくつろぎ中である。

    「ウチは年寄りですから、あんまり長いこと乗せられへんのですわ。」

と、影の司令官:藪内先生。

    「いやあ、私んとこも事情は似たり寄ったりですよ。
     じゃあ、お先に失礼して15時ちょっと前くらいで。」

と、交渉成立したつもりが、作戦司令室では岡田参謀が平澤監督に

「高橋、今んとこすごく安定してるんで、もうちょい乗せといたらどうですか?」

なんて具申している。結局予告した周回より高橋は3回余計に回ることになった。

    「ピットインのサイン出したら、嬉しそうな顔でサムアップしとったで」

と竹原。よほど待ち遠しかったようだ。

15:07  TEAM SUNLAKEドライバー交代

 




高橋から平澤にドライバー交代 所要時間1分10秒

15:15  五時間耐久レースの3時間以上が経過した。



ピットモニター 15:15:27

 三浦愛ドライバーが駆る OSU model'S が TIGA と FALCON に2ラップ差を付けて独走、さらにその後ろに空力性能的に不利なオリンピアクラスの名古屋工大と芦屋大BチームQUADが追走する形。これが、Wet路面での3輪と4輪の差なのか。

 チャレンジクラスは、柏会、堺市立、紀北工業が並び、SUNLAKEは4番手につけているが、30分のピット作業で順位を落としたMAXSPEEDが雨天とは思えない勢いで追い上げてきている。太陽光発電が望めない状況=電気自動車状態では、バッテリーカーでのレース経験を積み上げたエコラン組が強い。

15:17  ポリテクカレッジ滋賀SPD



2回目のドライバー交代かと思われたが、
そのまましばらくピットで停車してしまった。



ドライバー交代を引き延ばした引け目か?、岡田参謀大活躍である。

 岡田参謀、SUNLAKEのピットの常連客としてVIP待遇であったのだが、一昨年からは完全にメンバーの歯車の中に組み込まれてしまった。元々鋭い観察眼の持ち主なので、手透きなところを探し出して役割に収まってくださるのでありがたい。しかも今回は、エネマネ用のパソコンのバックアップとして、お手製のスコアカードまで準備してきてくれているではないか。

15:22  紀北工業高等学校 ドライバー交代



名手:中岡氏に交代 所要時間1分10秒

15:29  大阪産業大学 ドライバー交代



三浦愛ドライバー、三時間半の長時間ドライブ



三浦愛→三浦純 所要時間45秒。タイヤ交換はせず。

15:32  まだもう一チーム残っていた。 堺市立堺高等学校 ドライバー交代



山岡→ピンクの大田 所要時間50秒

15:35  快調にペースを上げていた鈴鹿高専チームがシケインでコースアウト



右前輪がグラベルに埋没している。

15:37  残り時間が1時間20分ほどになった。



ピット・モニター 15:37:42

15:43  HALクラブが上り坂で車を停めてしまった。



光無き回廊を回り続けるソーラーカーが闇に捕まっていく。

15:59  残り1時間



ピットモニター 15:59:57

 残り1時間=鈴鹿の魔物が微笑む時間帯である。雨があがり、路面も乾きだした。各チームとも少しペースアップ気味になってきている。しかし僕たちのチカラの源である太陽は姿を隠したままだ。

 チャレンジクラスの1〜3位までは 柏会、紀北、堺市立が同一周回で並んでおり、3周回遅れで4位にSUNLAKE、5位のMAXSPEEDは猛烈に追い上げてきている。ドリームクラス、オリンピアクラスに比較してバッテリーが重く容量が小さいチャレンジクラスは、エネルギーが尽きた順に奈落に飲み込まれていくことになる。

16:09  平澤から緊急入電 「後輪が緩んだかもしれない」

 その瞬間、31番ピットは凍り付いた。魔物が最初に手を伸ばした相手は僕たちだったのか?

16:10  緊急メカチェック

 ピットレーンに停車させた車体の下に身体を滑り込ませる。スパッツの下から後輪を触るが、よく解らない。咄嗟にスパッツを引き下ろすと後輪のロックリングに手が届いた。

   「竹原さん、こっちに回って!」

 ロックリングが緩んでいる様子はない。カウルを開けると10分単位で時間を使ってしまう。平澤の感覚なら、他に異常があれば把握して僕たちに伝えているはずだ。

   「どうも無い、大丈夫や。」

 スピンを避けるために目一杯スピードを殺してコーナリングしていた様子でタイヤはほとんど摩耗していない。懸念されるのはシャーシ自体の剛性低下だが、それを今心配しても対処のしようがない。後は祈るだけ。ここまできたら、如何に最後まで止まらずに走りきるかが最も重要だ。

16:14  名古屋工業大学 ドライバー交代+タイヤ交換



所要時間1分50秒



平澤から入電  「堺市立、1コーナーで足がもげていた。」

 堺市立堺高等学校「SCIENCE 714」が、推定時刻16:07頃、右前輪サスペンションの下Aアームのロッドエンドを折損し、第一コーナーに沈んでしまった。「直前にシケインで2回転近い激しいスピンをしていた」との情報もありダメージを受けていたのかもしれない。普通に走っていて折れるとは思えない。

16:18  エネマックス、ピットイン



左前輪のみ交換。約2分

16:24  残り36分弱 



ピットモニター 16:24:31

 堺市立の周回とSUNLAKEが並んだところに、MAXSPEEDが追いつき、同一周回に3台が並んでいる。チャレンジ首位と2位には柏会と紀北工業が、こちらも同一周回で並んでいる。

   「16時半過ぎてドキドキしているの、久しぶりですね」

と、高橋。同感だ。

16:28  TIGA 追い上げ


 OSU model'S に2周回差を付けられていたTIGAだったが、乾いた路面に生気を取り戻し、立て続けにベストラップを更新しながら猛烈に追い上げている。トップガン野村の意地だ。

16:38  残り 21分



ピットモニター 16:38:39

 ピット・モニターに3台のソーラーカーが停止している様子が映し出された。



鈴鹿高専、MAXSPEED、東海大学熊本ソーラーカープロジェクトである。
(その後、鈴鹿高専は16:46、東海大熊本は16:53に再スタートを切った。)

16:47  残り 13分



ピットモニター 16:47:36

 柏会と紀北工業の順位が入れ替わり、さらに一周回差が付いている。???

16:52  S字カーブ



S字に2台のソーラーカーが止まっている。一台は柏会の「武蔵」、なんと電欠だ。

16:57  アステカ・レーシングチーム



4時間56分に最後の周回を記録したところでピット格納



ピットモニター  16:58:48

 ピット格納しながらも最後の一周を粘ったアステカ・レーシングチームが、柏会と総合順位を入れ替えている。

17:00  チェッカー


17:05   SUNLAKE EVOLUTION がホームストレートに帰ってきた。



チャレンジクラス3位、総合12位、実に12年ぶりの表彰台が確定した。

17:08  ピットロード





 総合優勝は大阪産業大学 model'S、2位が芦屋大学Aチーム Sky Ace TIGA、3位に静岡ソーラーカーチーム FALCON、この3台の組み合わせはPHAETHON2004のサーキットレースと同じである。

 チャレンジクラスは電装系トラブルに悩みながらも、結局最後までノンストップで走りきった紀北工業高校、二位に柏会。SUNLAKEはクラス3位に入ったが総合順位は12位。バッテリー勝負になると総体的に鉛は辛いが、その中で総合6位に食い込んでいる紀北工業高校の技術は素晴らしい。

 オリンピアクラス1位は芦屋大学Bチーム、2位に名古屋工業大学、この二台は兄弟車みたいなものだ。3位に入ったのは静岡自動車大学校を母体とする老舗チーム SAT'S 、総合でも9位に食い込んだ。同クラス4位、総合10位の大阪工業大学との差は僅か。


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FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP MYNAVI SOLAR CAR RACE SUZUKA 2014

2014鈴鹿編 「継承される夢」

公開  2014.08.18.
改訂  2014.08.19.
微改訂  2014.08.21

Copyright Satoshi Maeda@Team Sunlake
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