三文楽士の休日
FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP MYNAVI SOLAR CAR RACE SUZUKA 2014
2014鈴鹿編 「継承される夢」
2014 SUZUKA / THE GENOME OF THE DREAM CUP
§5 「押し殺された
車台 の叫び」Section 5 "Stifled cry of the chassis"
Amel Clown がチェッカーを受ける記念写真を撮れなかったのは、4時間耐久のチェッカータイムが5時間耐久のスタート前チェックと被っているからだが、その時間帯の僕たちは、それ以上に深刻なトラブルの渦に巻き込まれていた。訳を説明するには時計を2時間ほど戻さなければならない。
09:40 問題発覚
「ちょっと問題が・・・・。」
そう呼ばれて車体を見に行くと、透視眼の持ち主、竹原がシャーシの内層破壊を発見したところだった。昨日、バッテリーの締め付けが甘くてぐらついた左側のフラップ部である。僕自身も何度も確かめた箇所だったが迂闊にも見落としていた。
注意深く見ると、シャーシの壁とフラップを釣り下げる三角板との接合部がぐらついているのだ。この部分は40kgのバッテリーボックスの荷重に耐えるよう、ザイロンクロスとカーボンクロスを重ねて積層し、さらに三角版の縁に沿って、ザイロンを撚り合わせたロープを配置して引っ張り上げてある。そこがぐらつくと云うことはシャーシ壁内層の芯材がつぶれかけている可能性が高い。ザイロンロープは切れないため、最悪の場合、シャーシ壁がフラップごと、ごっそりとえぐり取られてしまう。
「ザイロンクロス、エポキシ、押さえ板とクランプ!!。」
10:10 緊急積層作業終了。
左:シャーシ壁との接合部が内層破壊している模様 中:ザイロンクロスと、急速硬化のエポキシ接着剤 右:緊急積層しクランプで押さえ込む |
製作後14年を経過し、総走行距離10000kmを越える車台(シャーシ)は、普通なら耐用年数を超えているところだろう。フラップ部が壊れたのは実は2回目、最初に壊れかけた際に、三角板を取り付け、ザイロンロープでの釣り下げ構造としたのだが、今回はその付加した部分が悲鳴をあげていたのだ。
緊急的にザイロンクロスを当布(アテヌノ)的に積層。しかし、急速硬化のエポキシは硬度が低いため、この対策は気休めに過ぎない。抜本的にはフラップに加わるバッテリーボックスの荷重を分散しなければならない。
「バッテリーボックスを荷造り用のベルトでシャーシから釣り下げよう。それしか方法は無い。」
試行錯誤の結果、フロントサスペンションのシャーシ固定部と、第二ロールバーの取り付け部にベルトを引っかければバッテリーボックスを釣り下げれることを確認した。比較的短時間で対策が取れたのは潜在意識下に車台の悲鳴が聞こえていたからかもしれない。
バッテリーボックスの釣り下げ搭載
10:40 スタート前チェック準備
本戦用バッテリーを組み上げて封印を受け、シャーシに取り付けた状態で最後のアライメント調整を行う。そろそろスタート前チェックの準備を始めなければならない。ここでの見落とし一つで、本戦を台無しにし、一年間の努力が無に帰すことだって少なくない。ピットが最も緊張する時間帯である。そこに、
10:44 レース事務局がフランス語と英語でかかれた書類をピットに持って現れた。
FIA派遣の試験官がドリームクラス、チャレンジクラスの参加者にもテクニカルパスポートの提出を要求したというのである(オリンピアクラスは、同クラス創設時から提出が義務づけられていた。)。テクニカル・パスポートはレーシングカーの車両スペックを記載した車検証のようなものであり、大凡の内容はソーラーカーレース鈴鹿の車検用紙と重複している。
FIA テクニカル・パスポート
エントラント経験者なら解って頂けるだろう。ソーラーカーレース鈴鹿がネット上で出来るようになってから、以前より却って煩雑になってしまっている、ということを。書面提出先が複数の所管に分かれているのは理解するとしても、同じ内容を何度も入力しなければならず、さらに似たような内容で自署が必要な書面や、手書きでないと提出できない書面が混在しており、およそ電子化されたシステムとは言い難いのである。
その上、このタイミングで、またまた同じような内容の書類を書けと云うのか!?。
苛つく気持ちを精一杯抑えて書類を受け取り、「何を書きゃいいんですか?。」ペンを探しながらそう返した僕をなだめるように彼らは、
「出来れば本日中なんですが、10日以内に事務局に郵送して頂ければ良いです。書面の日本語訳は早急にお送りします。受け取りのサインだけお願いします。」よほど不機嫌に見えていたようだ。済みません。
FIA Alternative Energies Cup "Mynavi Solar Car Race SUZUKA 2014" 5-Hours Endurance
11:07 少し早いがスタート前チェックが始まった。
カウルとシャーシを延長ケーブルで繋ぎ、試験官にウインカーとブレーキランプ点灯を確認頂く
11:15 エンジョイクラス、車両保管
ピットロードには激戦を経てピットに戻ってきたエンジョイクラスのソーラーカー達が整列し、そこにさらにコース上で動けなくなった車両が運ばれてくる。この時間帯、僕たちは最後のアライメント調整に時間を割く。
11:20 エンジョイクラス、表彰式
11:40 ドリーム、チャレンジ、オリンピアクラス スタート進行
最後のチェックを経て、車体バッテリーをしっかり結びつけたシャーシにカウルを被せ固定しようとするが、なんてこった!、カウルが入らない。見落としていたがバッテリーケースを釣り下げているベルトと、カウルの背骨に当たる縦リブが干渉しているのである。シャーシ側の仕様を変えた際に、当然やっておくべきカウルとのフィッティング確認を怠っていたのである。
ベルトを結び方を見直している余裕はない。幸い縦リブの未補強部分を切り取ってギリギリ干渉を回避することができた。スタート直前にここまでドタバタしたのは初めてだ。
11:48 グリッド押し出し。
車両をスターティング・グリッドまで押して行く。
国際レーシングコースにソーラーカーを並べていく。僕が最も好きな時間である。この高揚感を得るためにソーラーカー作りを続けていると云っても過言ではない。
「通信テストをしておこう。一足先にピットに戻っている。」と監督。
SUNLAKEのレース中の通信は携帯電話のみだ。ドライバーは手袋装着が義務づけられているためスマートホンの操作は難しい。よって所謂ガラケー+ハンドフリーのヘッドセットである。監督からの電話に出た高橋が困惑した表情で、
「異様に声が小さい。これじゃあ走行中は聞こえない。」
昨日、ヘッドセットを壊してしまったため、このヘッドセットは新たに購入した新品だ。しかも今朝、ピットで試したときには異常はなかった。まだ、この上にトラブルが積み重なるのか? 電話が通じなければエネマネはお手上げだ。
11:55 スタート5分前
ギリギリのタイミングで高橋がヘッドセットに小さなボリュームツマミが付いているのを見つけ、一件落着(と思われた)。何回冷や汗をかけば済むのだろう。
12:00 五時間耐久レース 開始
まったく、ここまでスリリングに楽しませていただいたのは久しぶりだ。トラブルが無ければ面白くない。ドラマが無ければレースをする意味がない。ここから、さらに、ここまでのストーリーを全てを飲み込んだ「凝縮された5時間」が始まる。
2014鈴鹿 セクション6 「光無き回廊の追複曲(カノン)」 へ
SUZUKA2014 TOP へ 三文楽士の休日トップへ
********************************************************
三文楽士の休日
FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP MYNAVI SOLAR CAR RACE SUZUKA 2014
2014鈴鹿編 「継承される夢」
公開 2014.08.18.
微改訂 2014.08.21
Copyright Satoshi Maeda@Team Sunlake
The Place in the Sun