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三文楽士の休日

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2010鈴鹿 予告編




ソーラー日記 夏の追い込み編

2010年6月29〜30日 滋賀県某所

 サンレイク号は試走会で、かなりのダメージを負ってしまった。特に深刻なのは後輪サスペンションの付け根である。



見慣れた後輪サスペンションであるが、

 

下側のAアーム(というか板だが)を外してみると

 通しボルトが曲がっていた。いったい車体がどう歪めば、このボルトが曲がるというのだ?



ボルトを留めていたあて板がグラグラしているので外してみると、


 シャーシ底面から立ち上がる壁面がグラグラだった。底面と壁面を接合しているカーボンクロスが界面剥離しており、ほとんど接着に寄与していない状態になっている。アルミ製のあて板自体は壁面にしっかりと張り付いていた。グラグラしていたのは壁そのものが壊れていたからだ。

 Aアームのシャーシ外側接合部がシッカリしていた分、後輪サスペンションが捩れるチカラが、全てこの内側の壁面の弱いところに加わり、表面のカーボンクロスが剥がれたのを引き金にして、おそらくは内装材までが砕けてしまっているのだ。試走会時に、もうしばらく走っていたら下Aアームの内側がもぎ取られていただろう。

 本質的には10年間使い続け、レースでの総走行距離8000km超に達している素人手作りシャーシの寿命が来ているのである。とはいえ鈴鹿本戦までの1ヶ月弱でシャーシ全体を作り直すほどのパワーはない。なんとか部分修理で乗り切るしかないのだが、最も入り組んだ部分だけにどう処置するかが悩ましい。そもそもが製作時に最も手を入れにくい部分で会ったが故に、積層が甘かったであろうことが、遠因とも推測されるのだ。

 被害はこの部分だけでは無い。これ以外に、
  ・右前輪の上Aアームが湾曲
  ・ボディカウル右後部表面にに亀裂
  ・ボディ前部の内骨格部材が一部破断

 なかなか楽しめるではないか。レースらしくなってきた。


 30日の夕刻にはトップガン氏から「Nunaチームにプロドライバー Carlo van Dam が参加」とスクープが飛んできた。「やってくれますねー。」などと戯けつつ、本人はメラメラ燃えているに違いない。


2010年7月01日 大阪市内某所 Team SUNSEALS 本拠

 早朝、Nunaドライバーのニュースを知ったHATレーシングの村山監督、外遊?先のロンドンから
  「知ってたら、「予選スペシャル」作ったのにーッ!」
 と歯ぎしりが聞こえてきた。今回はエコをテーマにした新車で参戦のようですが・・・・・余裕なのかしら?

 夕刻には、大阪湾に面する工業地域にある「太陽アザラシ」チームの本拠地にお邪魔した。


 作業場所は株式会社ササクラ本社に隣接したガレージ。「太陽アザラシ号は試走会時にオーバースピードでシケインに突っ込み、前輪部を大破してしまい、復旧作業の真っ直中であった。


 そちらはホイールが届かないと、どうにもならないので、この日はロールバーとキャノピーとの関係についての議論。ステンレス鋼のパイプを溶接して作られているロールバーの頑丈さは、そのシャーシへの取り付け方含めて鈴鹿参加チーム中で随一だろう。ただ、寸法がほんの少し大きすぎてキャノピーにぶつかるのである。


 もうひとつ、新たに発見された問題点は、脱出テスト対応。シャーシ開口部よりパネル面が内側にせり出しているので、脱出する際にパネルの上に手足を置いてしまいそうになるのだ。これはドライバーさんに特訓して頂くしかないかもしれない。



こちらは反省会の会場

2010年7月04日 滋賀県某所

 余所様の世話を焼いている暇があるのか?と問われると「無い」

 

この日は下準備。まずは試走中の他車との接触により割れ入った外殻の補修の養生。
 
 

左:メン君に手伝って貰っているのはカーボンクロスのトリミング。
右:シャーシの後輪付け根部分補強に使う押さえ治具


2010年7月09日

 オランダ領事館のサイトによれば、NUNA号は早々とこの日に来日、翌10ー11日には神戸のホテルで展示、13日には芦屋大学と共同で神戸市立青少年科学館で展示、14日には神戸、16日には奈良、17日は大阪工業大学、18日には祇園祭で白川通りを走り(!?)平安神宮へ、19日は大阪城、20−21日は大阪市役所、22日に鈴鹿入り、26日からは試走と盛りだくさんながら、調整には十分な時間を割いたスケジュール。これで優勝されたら面白くないねえ。


2010年7月10日 滋賀県某所

 モーターのオーバーホールをお願いしようとしている間にズルズルと日にちが経ち・・・・・結局「自分でヤレ」ということになってしまった。


 蓋を開けて、圧搾エアで吹けばいいだろうとのことなのだが、蓋を開けようとして立体知恵の輪状態に陥ってしまった。当チームのモーターは、お馴染みMITSUBA製であるが、回転方向をNGM社のモーターに合わせているいただいた関係で通常使用とは逆回転。しかも取り付けシャフトは太田鉄工所オリジナル。まず蓋を開けるところまで解体するのが難問題なのであった。

 

解体に着手して実際に蓋が開くまで、たっぷり1時間



この特大レンチも、このパーツの為だけに存在するのである

 本日の主題は、シャーシの後輪サスペンション下Aアーム付け根の補修。元々、取り付けられていた部分のカーボンクロスは、ほとんど層間剥離しておりボロボロ。浮いているところを剥がしていくと、どんどんと剥がれ内装材が剥き出しになり、その内装材も揉み砕かれてボロボロなのであった。

 

左: まずは内装材の補修。パテで埋めればよいのだが、今回はパテの代わりに、フィラー充填タイプの二液エポキシ接着材+カーボン短繊維を用いることにした。エポキシ樹脂を練り、そこにカーボンクロスを解して1cm程度にカットしたカーボンファイバーを十分に混ぜ込み、内装材が欠けた部分に詰め込んで行く。エポキシの硬化が始まる5分以内に手早くやらねばならない。固まるのを待ってからはみ出した部分をヤスリで削り落として整面する。

右: 積層するカーボンクロス7枚と、ザイロンクロス1枚を準備。ザイロンクロスは繊維が斜め方向に向くように配置する。バイアス方向に高弾性率エレメントが入ることにより捻りに強い構造になることを期待している。



まず常温硬化樹脂を含浸させたカーボンクロスを敷き、その上に
ザイロン、さらにその上にカーボンクロスを重ね合わせて行く。



最後はご覧のように予め用意しておいた押さえ治具と
クランプ、重り等を駆使してしっかりと面圧を加える。


2010年7月11日 滋賀県某所

 引き続き後輪サス付け根の補修。


 今度は見にくいが、昨日貼り込んだ部分の隣、ボックスになっている部分の内側の積層である。入り組んで手を入れて作業するのが難しいため、あらかじめその部分に嵌るようにカットした発泡スチロールブロックに、樹脂含浸したカーボンクロスを重ね合わせ、そのブロックごと本来貼りたい部分に押しつけて、固めてしまう手法をとった。


 こちらは、ボディカウルとシャーシ勘合部の前端部分。

2010年7月17日 滋賀県某所

 この日の作業は、ガレージから水を掻き出すことから始まった。


 梅雨明け末期の土砂降りの雨で、近畿各地で被害が相次いだ。こちらは14日午前、長野に向かう特急「しなの」車中から撮影した荒れ狂う木曽川である。


 問題の後輪サス付け根のカーボン張り込みはうまくいった。最低でも7層、重なり合う部分は最大14層分のカーボンクロス+ザイロン1層である。ここが壊れることは絶対にあるまい(その前に、別の所が壊れるはず)。



あて板代わりのアルミアングルのトリミング。フライス盤が無いのだ。(涙)


 シャーシのカーボン表面と当て板の間に隙間が出来ないよう、フィラー充填タイプの二液エポキシ樹脂でアルミアングルとあて板を張り付け、ボルトで仮締めしてエポキシの硬化を待つ。ここまで来れば一安心である。


2010年7月18日 滋賀県某所



3週間ぶりに後輪サスペンションの組み立て

 多少、ボルト取り付け孔の位置がずれたりしているのでアライメントに手こずったが、配線してモーターを回してみると、快調に回ってくれた。多少、サイドブレーキ用のディスクとブレーキパッドが摺っているが、調整できる範囲である。


 曲がってしまった前輪サスペンションのAアームの修理と、予備パーツが出来上がるのは来週。なのでセットアップが完了するのは大会1週間前になる。なんとかギリギリセーフで行けるはず。

 でも、毎年、このあたりから、さらに面白くなるのが常なのである・・・・・・・。



2010鈴鹿本編 プロローグ 牙をむく鈴鹿サーキット

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2010鈴鹿 予告編

第一稿  2010.07.17.
改訂   2010.08.20.

Copyright Satoshi Maeda@Team Sunlake
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