渦に抗い続けた白い風もまた、呪術の罠を吹き抜けることは出来なかった。
ハッピーエンドなど、最初から期待はしていなかった。鈴鹿の魔物は、笑って去っていった者が二度と戻ってこないのを知っている。無念の渦の集積がこそが、執念の源であるのを知っている。挫折に屈する者は最初から魔物の掌上に乗ることなど出来はしない。
この後味の悪さこそが、ドリームカップの終幕に相応しかったのだ。夢の翼は飛び去ろうとも、僕たちの鈴鹿は無くなりはしない。名を変え、顔を変えてもなお、不敵に笑みを浮かべ、これからも僕たちを渦の中に誘い続けるのだ。
17:42
「君は何時位までここにいるんだい?」
「ソーラーカーを積み終えたら帰るよ。18時位かな。」
「そうか。帰る前に一曲聞かせてくれないか。」
第2ヒート前の「出陣式」が流れたのを気にしていた David が僕に声をかけてくれた。
最初は、オランダ国歌。国歌の中では最も古い16世紀に作られた優しい旋律にNUONチームの歌声が重なり、ピットロードに美しく響いた。続いてオーストラリア国歌とワルツイング・マチルダ。
「また聞けるとは思わなかった。」とダッシュの浦田さん。
天翔るソーラーカー宣教師 David Fewchuk が次に目指すのはアジア大陸
「俺たちは、今度は中国に行く。
中国でソーラーカーが立ちあがるのをこの目で見たいんだ。」
南米ブラジルから鈴鹿に直送された AURORA 101 は豪州に帰ることなく中国大陸に向かう。彼等の旅も終わることはない。David 次に会えるのは何時になるだろうか? ダーウィンで会えるといいな。
David Fewchuk 氏は、9月22日、滞在先の中国で心臓発作により永眠された。大変悲しく残念なことに、僕たちのこの願いは永久に叶わぬ事になってしまった。2010.09.25.
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22:05 滋賀県某所 サンレイク・ガレージ
基地に戻り、アンロードが終わったのは4時間後。当日中に片づけることが出来ることだけが僕たちに対する鈴鹿の優しさだ。夢の宴は終わり、翼は飛び去った。明日になれば、しがらみに縛られた「日常」が戻ってくる。でも、太陽は変わることなく、地上に光を届けてくれるだろう。
傷ついた獣は、再びガレージの扉が開け放たれる日まで、眠りにつく。
Een pagina van de zonnewagen geschiedenis was gesloten.
Maar we moeten blijven praten over deze geschiedenis.
2010鈴鹿本編 カーテンコール
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三文楽士の休日
FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP DREAM CUP SOLAR CAR RACE SUZUKA 2010
2010鈴鹿本編 エピローグ 夢宴の黄昏〜傷ついた獣たち
第一稿 2010.09.14.
追記 2010.09.25.
Copyright Satoshi Maeda@Team Sunlake
The Place in the Sun