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三文楽士の休日 2004年夏の嵐編

 

FIA ALTERNATIVE ENERGIES CUP DREAM CUP ソーラーカーレース鈴鹿2004

 

21世紀最悪天候のソーラーカーレース

「潰えた夢(DREAM)」

 

A Solar-cars Race in a Typhoon

We Lost Our DREAM.

 

                                                          Satoshi Maeda@Team Sunlake

 

 

プロローグ 再会

 

2004年7月23日 金曜日 名古屋港

 

名古屋港湾岸道路

 

 4ヶ月前と同じ道を名古屋港に向かう。この日は5月29日にアテネでコンテナに積み込んだサンレイク号とのほぼ2ヶ月ぶりの対面である。

 

 チーム・サンレイクは、アテネオリンピックのプレイベントとして開催されたギリシャ初のソーラーカーレースPhaethon2004(ファエソン2004)に出場した。運送費用節約のため、サンレイク号は東海翔洋高校OBチームのファルコン号と共同で同じコンテナに積み込まれ、地球を半周する旅をしてきた。3月29日に 東海ファルコンチームとの共同積みこみ作業には5時間、アテネでの積みこみには3時間、次第に要領が良くなり、この日の積み下ろしに要した時間は1時間25分であった。

 

 

 Phaethon2004は波乱の連続で、なんとか完走はしたものの、サンレイク号は満身創痍の状態。ドリームカップ鈴鹿までは1週間しかない。サンレイクをチャレンジクラス4連覇に導いたNGM社のSCM-150型ホイールインモーターは、回転子の磁石が剥がれ、固定子のコイルも深く傷ついてしまった。修理には新品を購入するほどの費用がかかるだろう。ちなみにこのモーターは、並の乗用車より高価である。サンレイク号の後輪周りの部品は取り外され、その日のうちにソーラーカーの名医、太田鉄工所に運ばれ、モーター移植手術が開始された。新しく準備された心臓はMitsuba社製のホイールインモーターである。

 

2004年7月24日 土曜日 堅田

 

 サンレイクのボディも重傷を負っていた。ラリー最終日、オリンピック前の突貫工事に追われるアテネ市内の荒れた道路を走行中に、振動でボディ後部の内部構造材が座屈破壊してしまったのである。サンレイクのボディは背中の太陽電池パネルに損傷を与えないように慎重に裏返され、切開手術による構造材の修復とカーボンクロスとザイロンクロス重ね貼りによる補強が加えられた。ソーラーパネルを注意深く観察すると、かなりの枚数が割れている。アテネ市内での振動が余程きつかったんだろう。冷静に考えれば、あの時点では順位も何も関係なくなっていたので、あせる必要は全く無く、ゆっくり走ればよかったのだが、直前まで高速道路を走っていた勢いと、市内の車の流れがあまりに速かったのでついつい煽られて、そのままのスピードで突っ走ってしまったのだ。レース終盤の疲労の蓄積で冷静な思考能力が麻痺していたのだろう。

 

左:サンレイク秘密基地。社内でもその場所を知る人は極限られている。

右:仰向けに寝かされたサンレイク号。折れたボディを補強する緊急手術中。

 

2004年7月25日 日曜日 堅田

 

 午前中、太田鉄工を訪問。立命館大学チームが太田師匠の指導のもとでレースの準備中。Mitsubaモーターを取り付けるための後輪周りの部材の加工はすでに完了していた。

後輪ホイールに取り付けられたMitsuba M1508D()と壊れたNGMモーター()

 

 午後には、コントローラーを中心とする電気系の再配線も完了し、駐車場内を試走した。サンレイク号のアクセルは、ペダルではなく小さなボリュームツマミである。ドライバーが代わる代わる運転していたが、どうも感触がしっくり来ない様子。でもまあ、走れるだけでもヨシとしよう。唯一のプラス要因は軽くなったこと。(NGMモーターの重さには定評がある)

 DCブラシレスモーターは本体とコントローラが揃って一組。サンレイクのNGMモーター本体は壊れてしまったがコントローラーには、何の問題もない。僕たちとは逆に、本体は大丈夫だがコントローラの調子がよろしくない、という所もあるわけで、同じ滋賀県の企業内クラブチーム「バカボンズ」さんに使って頂くことになった。バカボンズはアモルファスシリコン太陽電池を使ったソーラーカーで鈴鹿に挑戦し続ける唯一のチームである。今回は二正面作戦で「湖上の風」号(バカボンズ)がリチウムイオン電池を搭載してドリームクラスに、そして新しく製作された「湖上の嵐」号(チーム名は便宜上オトーサンズ)がエンジョイクラスに出場する。

  壊れた本体の方は、というと、これまた需要はあるもので、南台湾工科大学に引き取られていった。ミツバ社が海外には販売しないという方針のため、海外チームはNGM使わざるを得ない。多少費用がかかろうとも修理をして使おうというところは多いそうだ。

 

 

ギリシャ帰国後、モーターに関わる諸問題につきましては、

OSU藤田先生、パンダサンチーム細川様はじめ関係の皆様には

大変お世話になりました。この場を借りまして厚く御礼申し上げます。

 

 

左:前輪平行度調整中

右:とりあえずシャーシだけで駐車場を試走。

 

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セクション1  嵐の前触れ

鈴鹿サーキット 競技者用入り口

 

2004年7月30日 金曜日 ドリームカップソーラーカーレース鈴鹿2004 車両検査

 

7:30 鈴鹿サーキットに一番乗り。 筆者の自宅はチームメンバー中、最も東よりなので、鈴鹿サーキットまで道程70km程である。サンレイク号を乗せたユニック車Takehara号はまだ到着していない。4番ピットはOSU、5番ピットがサンレイク、6番ピットは東海翔洋高校である。

 実は筆者は2002年、2003年と社用で車検日には鈴鹿入りできなかったので、今回は3年ぶり2回目の車検である。

 

7:45 Takehara号到着 Mitsubaモーターで軽量化された車両は4人で降ろすことができた。

 

8:00 受付開始。 車検開始は9:00〜だが、すでに5台近い列ができている

あっという間に車検待ちの長蛇の列が

 

 パンダサンチームの細川さん(監督兼ドライバー)、ドライバー体重測定の先頭集団に陣取っている。ここに早くから並ぶのは顔見知りのベテランばかりなので、皆、座り込んで雑談会と化している。

 車検待ちに並んでいる車両を見渡して、

 「みんな要領良くなったよなあ。昔は車検の朝なんて、みんなピットでトントンカチカチやってたり、あちこちでガリガリ、ギコギコとパーツを削り出す音が聞こえてたのになあ。(車検の)午後の部に間に合えばいいや、なんてね。だいたい俺自身がこんなところに並んでるなんて信じられないよ。」

 

 

8:30 書類を揃えたり、電装用の補助バッテリーを充電したりで、ようやく準備完了。車検に1番に並ぶのがサンレイクの伝統であったのだが今回は完全に出遅れて10番目くらい。順番待ちの筆者がAuroraチームに激写され、国際webデビューを飾ってしまった。

謎のソーラーカー?

一見、エンジョイクラスの車両のようだが、実はサンレイクのシャーシである。

雨対策に被せたスチレンボードを太陽電池に見立てれば、神戸スペシャル版。

 

ドライバーの体重チェック。鈴鹿レギュレーションでは、ドライバーの体重はバラストを使って70kgに調整される。サンレイクでは二人のドライバーの体重を揃え、バラストを共通化して車体に固定している。バラストには鉛のブロックを使っているのだが、なぜか、こいつが毎年のように少しずつ小さくなっていく。

 

車体サイズ、昨年までは幅180cm、長さ500cmだったのだが、今年から幅WSC出場実績のあるチームはWSCスペックでも出場OKということになり(Auroraルールと呼ばれている)、一方で、昨年までの1%の誤差を許容、という項が撤廃されていた。これは少なからず波紋を呼んだ。例年上位進出していた金沢工大の名車KITGoldenEagleがなんと3cmオーバーということで、そのままでは失格とのこと。非常に美しい仕上がりのボディだったのだが鼻先を3cm切り落とすことを条件に車検パスという厳しい結果になった。 

車検は進む。サイドブレーキ、ウインカー、ブレーキランプ前後左右の視野確認と安全審査は淡々と進む。並んでいる最中にもパラパラと雨が降ったり止んだり

 

 

難関 ブレーキテスト。時速30km以上での走行状態から決められた距離で停止しなければならない。一回目スピード不足で失敗、やりなおし。最近成功率が低いぞ。

続いて脱出テスト。走行状態から停止し、そこから、サイドブレーキを引いてから5点式シートベルトを外し、車から20秒以内に飛び出さなければならないのだが、これまた一回目 着地のポーズまで決めたつもりが20秒38と失敗。それだけならやり直せば済む話なのだが、なんとサイドブレーキ甘いので検査を受け直してこいとの異例の指示。

 

 サンレイクのサイドブレーキは、後輪に机の足用のゴムキャスターを押し当てる仕組みである。以前は自転車用のブレーキパッドを、自転車のブレーキと同じように車輪の側面に当てていたのだが利きが悪いため、タイヤの接地面に直接押し当てる仕掛けに改良した。進行方向にはゴムキャスターがタイヤにめり込む方向なので性能十分なのだが、ここに盲点があった。後ろに引っ張られるとズルズルと後ずさってしまうのである。とはいえ、鈴鹿サーキット内の勾配であれば十分車を停止しておけるだけの力はあるのだ。僕たちだって、万が一コース内で停止してしまったときに後ろにズルズル下がるようでは困るのだが、試験官氏の力は地球の引力よりも強く、これじゃあダメだという。最終的にはカブタイヤの空気圧調整とゴムキャスターに結束バンドを巻き付け、ブレーキ時にバンドをタイヤの溝にめり込ませる手法でなんとかパス。車検終了10番目くらいかな?ともあれなんとか午前中に終了した。

 

明日の天気が気になる。 午後は雨対策に費やされた。タイヤの選択には悩んだ末、後輪にはギリシャで大活躍したバイクのタイヤ、前輪にはレース用タイヤを装着した。昨年の雨の試走会で後輪をすべらせスピンした記憶が慎重策を選択させたのだが結果的には、この選択が誤りだったことを後に悟ることになる。電装系の防水は念には念を入れて行われた。直流100Vの大容量電池が一ショートでもしたら、えらいことになる。

 

 気になる立命館大学チームのヴィマーナであったが、車検自体は和気藹々とした雰囲気で進み無事合格。彼らは前夜祭もたっぷり楽しんだようだが、高齢化が進むサンレイクはこの日はじっくり休むことにし、失礼させていただいた。

立命館大学「ヴィマーナ」 あれ? どこかで見たことある???

 

昨年、エンジョイからチャレンジに昇格した堺市立工業高校科学部

初心者っぽい外観に惑わされてはいけない。車両ポテンシャルは極めて高い。

 

パンダサンチーム 今年はトライアシックダンディーに改名

 

芦屋大学Sky Ace TIGA TIGAはインドネシア語の「3」

「どうして3なんですかね?」なんてボケたアナウンスしないでねDJさん。

スカイエースの3代目の意味。後方には2代目が隠れてます。

 

 

Auroraチームの代表、デヴィッド・フューチェック氏が磨いているのは割れたキャノピー

28日の試走中にキャノピーが開き、後部の太陽電池パネルに激突して粉々に砕け散ったが、

地元企業の三重樹脂が29日に修復。なんとか車検に間に合った。

 

 

OSU 大阪産業大学 Model S’ 四輪車特有の存在感がある。

 

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セクション2 風に舞うソーラーカー

 

7月31日 ドリームカップソーラーカーレース鈴鹿2004 予選と第一ヒート

 

 台風に翻弄された一日。風が強く、何時雨が降り出してもおかしくないコンディションの中、予定は大幅に変更され、全体に約2時間遅れで実施された。 

 

10:00 フリー走行。 ドリームカップ鈴鹿2004は、ドリーム、チャレンジクラスでは、フリー走行中に完全に横転した車両が一台(バックストレート)、ホームストレートではボディーを吹き飛ばされた車両が一台。他にキャノピーが飛んだ車両が2台 という波乱の幕開けとなった。

シャッターを下ろし、強風から車体を守る

 

  当初、主催者側からはフリー走行中止が提案されていたが参加者からの強い要請で2時間遅れで実施されることとなった。この決定は 新しいMitsubaモーターのデータを全く持ち合わせていない僕たちにも歓迎すべきものであった。少しでも走ってデータを取りたい。しかしながら、あまりの強風に、データ取りどころの騒ぎではなかった。走行中の高橋は目の前を走る車のキャノピーが吹き飛ばされるのを目撃。風には強いサンレイクだが、追い風でキャノピーが煽られてバタバタ。空力重視のデザインとはいえ、それは前方からの空気の流れであって、後ろから煽られると、軽量化を極めているだけに吹き飛ばされそうになる。動揺した高橋は、あろうことかシケインでコースを間違えるという大失策までやらかす始末。結局、僕たちはフリー走行を行う意味は無いと判断し、この一周で切り上げることにした。

アッパーを吹き飛ばされた車両がホームストレートに。

 

 続くエンジョイクラスでは、車ごとひっくり返った車体は無かったようだが、コース上には風で剥がれた太陽電池パネルが何枚も落ちていたらしい。太陽電池パネルを車体に貼り付けるのは意外に難しい。

   

ダッシュTV御一行様登場 「あれ? 今日はテレビカメラは無し?」 ところで右端の美人は誰だ??

 

13:00 予選開始

予選待ちの列。雨が降る前に走ってタイムを出しておかないと。

 

 例年、午前中に実施される予選は午後にずれ込んだ。ときおり突風が吹き、雨がぱらつく。予選開始5分前に恐る恐るシャッターを開けると、なんともう5台近くがピット出口に並んでいるではないか!。予選ドライバーは平澤、大ベテランとはいえ、Mitsuba搭載後はじめてのコース走行である。風も強いため安全を期し無難な線でまとめた。4分31秒、8位。

 財政難にあえぐサンレイクに予備のLiバッテリーは無い。そう、予備になるはずのバッテリーセットはパトラで失われていたのだ。予選を終えると直ぐにバッテリーの充電を行い本戦を待つ。

GIGASkyAcePJ2 後方はKIT GoldenEagle

 

 フリー走行、予選を通じて僅かに得られた走行データであったが、効率の悪さは明白であった。だが強風の影響か車両自体の問題化はこの時点では判断できなかった。

 数年前までは予選第1位 ポールポジションは チャレンジクラスのベテラン、サンレイクと同じく企業内クラブチームであるHATレーシングチーム(荏原製作所)の指定席だったのだが、今年は様子が違った、なんと4分の壁が破られた。芦屋大学のTIGA、ドライバーは自称「走る営業マン」野村氏である。

 

15:00 本戦 第1ヒート

 

  エンジョイクラス予選後、鈴鹿の雨は上がり、本戦第一ヒート開始時には路面は乾いていた。本戦予定は2時間遅れの15:00−19:00。 スタートドライバーは「ロケットスタート」高橋。スタート15分間、皆で車を8番グリッドにつけてコールに手を振る。ドライバーの緊張を和らげようと皆が軽口を飛ばす。いよいよ5分前、竹原の「さあ、そろそろ行こうか」の一言に高橋は一瞬寂しそうな表情を見せるが、キャノピーが閉じられ、白ガムでシールされる頃には勝負師の顔に変わっている。

 

 僕たちはコースを出て自分のピットに走る。秒読みが始まった(鈴鹿では必ず標準時で管理される。)。参加者全員がコース上の赤信号を見つめる。赤信号が消えた瞬間がスタートである。

 ところが、 赤信号が消えても、先頭集団はすぐには動かない。今回の天候では太陽光入力が期待できないため、ソーラーカーレース本来のソロソロスタートである。しかしながら例外が2台。赤信号が消えた瞬間にスタートを切ったのはサンレイクと荏原エコテックであった。レースオフィサーが「5番(サンレイク)動いた」と叫んだ。フライングだと誤解されたようだ。この一言が高橋の闘争本能の引き金を引いた。「フライングを取られたら取られたでしょうがない、行ってしまえ!」。同様にスタートを切ったものの、一瞬戸惑ってブレーキを踏んだ荏原エコテックをかわし、インサイドから先頭集団をごぼう抜きした高橋は見事なホールショット。その画像は翌朝の読売新聞の第1面トップを飾った。

 

  # フライングはしていません。念のため。

 

 一周目、トップで帰ってきたのは高崎さんが駆る再輝チームのENAX。高橋のスタートダッシュが火を付けてしまったようだ。途中で猛然と追い抜かれたとのこと。さらに、ENAXがパンダサンのトライシックダンディー(TriasicDandy)のドライバー冨高さんにも火を付けてしまったようで、第一ヒートの首位争いはこの二台となった。 

 

Aurora ドライバー交代

 

 明朝、台風直撃は必至で、午前中の充電は期待できないため、数周後には各チームともペースを落とし様子見の走りとなる。路面は乾き、風は午前中よりは和らいでいるが、依然として強風である。僕たちはMitsubaモーターの実力が解らないため、本戦といえどもテスト走行みたいな物である。華々しく走ったのは最初だけで、後は他のチームのラップタイムを睨みながら様子見の安全走行に徹した。太陽光入力が無ければ、ソーラーカーはただの電気自動車。バッテリー容量とエネルギー効率の勝負、高価なGaAs太陽電池もただのファッションになる。読めない明日の天候、何時降り出すかもしれない雨、各チームの駆け引きが続く。晴天用のタイヤは濡れた路面ではスケート靴と化す。タイヤ交換の苦手な僕たちは、雨が降り出す方に賭けて動輪に雨天用タイヤで望んだが、結果的にこの賭けは失敗だった。フリー走行〜予選時の低効率は風でもモーターでもなくタイヤ選択の失敗であることが第一ヒート終了時には明白となっていた。

柏会「武蔵」ドライバー交代

 

17:00 本戦は表向き15時から19時までの予定で開催されましたが、17時に雨がパラパラ降り出してレッドフラッグが出され中断という形で終了。これは対外的な発表であり、参加者には最初から17時で打ち切られることが予告されていた。一位の車両が入った時点で中断され、その後の車は、一周無駄に走ってピットに入れられることになるとのこと。僕たちはラップを調整し、その直前周にピットインし(一応、雨が降り出したので漏電対策のためです。お間違え無く)ピットでレース中断を迎えた。無駄な一周分のエネルギを得した勘定だ。(「頭脳プレイですねえ。」芦屋大の盛谷先生には、すぐに見破られました)。第1ヒートは結局2時間で21周回を走り9位。

  

左:レース中断を知らせるレッドフラッグ

右:一足先にピットに入り、飲み物で一息入れる高橋。

後方にはピット入り口で整列させられている車両列が見える。

 

 ドリーム首位は再輝チームのENAX、二位は一昨年のドリームクラス準優勝、昨年はモータートラブルで無念の涙を飲んだパンダサントライシックダンディー(Triasic (Triassic) Dandy)。「抑えろと指示してるのにいっちゃうんだよ」とパンダサン監督の細川さん、取材陣に取り囲まれた再輝チームの高崎さんは、バッテリーの残量を訊かれ、「俺は江戸っ子だから宵越しの電力は持たねえんだ」との名せりふを残した。

 チャレンジトップは、なんと立命館大学のヴィマーナである!。この結果は、チャレンジクラスの各チームに大きな動揺を与えたようだ。ヴィマーナのボディはチャレンジクラス4連覇時のサンレイクのボディそのものなのである。ボディにあわせてアルミフレームシャーシ作製して組み合わせてあるため、諸元は当時のサンレイクとほとんど同じ。しかもシャーシ製作の指導は太田鉄工所である。

  第一ヒート終了後のサンレイクピットには、ヴィマーナの前世を見抜いたチームからの「何かとんでもない秘策があるの?」との問い合わせが絶えなかった。秘策があったのか、何も考えていなかったのか、ただ目立ちたかっただけなのかは本人達に訊いて欲しい。ただ、読売新聞地方版に掲載された「立命館大学チーム第一ヒート、クラス首位」のニュースが、彼らの翌年の活動資金調達に有利に働いたのは事実。目立つと云うことは大切なんだ。

 

キャノピーが違うだけで、こうも印象が変わるものか!? 癒しのソーラーカー。

 

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セクション3 三畳紀の伊達男

雨に濡れる太陽電池パネル

 

8月1日(日曜日)ドリームカップソーラーカーレース鈴鹿2004 本戦第2ヒート

 

10:00 バッテリー保管解除。バッテリーは昨日のレース後に回収されて一晩の間厳重な監視に置かれる。もちろん不正な充電を防止するためである。バッテリー保管解除は10:00。各チームの健脚自慢がキャリアにバッテリーを積みこみ、保管庫出口に引かれたライン手前に並び、保管解除を秒読みしながら待つ。1秒でも早く太陽電池に接続して、少しでも電力を貯えなければならない。例年だと太陽電池の変換効率を上げるための冷却用氷水を準備して望むところであるが・・・・・。

僕たちの太陽はどこに行ったんだ!?。

ずぶぬれになりながら、ヤケクソで凍水を噴霧する。

 

 時折激しさを増す雨にずぶ濡れになりながら、さらに強風に煽られて車体が吹き飛ばないように身体をはって車体を押さえながら、漏電の危険におびえながら、それでも少しでも電力を貯えようという涙ぐましい努力が続く。結局、午前中の充電時間内には約700W程度しか充電できなかった。

何が悲しゅうて、傘さしながら充電せなあかんねん。

 

 充電時間中にはエンジョイクラスの本戦が行われている。昨年からエンジョイ常勝だった堺市立工業高校がチャレンジにクラスアップしたため、このクラスは戦国時代に突入している。

 

  

 

左:コントロールタワー屋上の掲揚台。この強風と雨の中でエンジョイクラスの本戦が行われている。

充電時間と重なっているため、人数不足の僕たちはエンジョイクラスのレース観戦をしたことが無い。

中:「(電力)入ってますかあ?」「じぇんじぇんあきまへんわ」 

右:エンジョイ結果 1位 紀北、2位 熟年パワー炸裂 オトーサンズ「湖上の嵐」、3位 長野工業高校 

 

この髭のオジサンは? Phaethon2004オーガナイザーのネグカス氏。本大会の審判長でもあります。

 

13:00 本戦 第2ヒート。 午前中、ずぶぬれになったが、昼には雨がいったん上がり、天候の予想はさらに難しくなった。昨日、結果として雨が降らなかったので、天候は回復してくると読み、全輪ソーラーカー用タイヤで第2ヒートに望んだ。結果的に、再びこの選択は外れることとなったが、実際には、さらに大きな問題に直面することとなる。

 

左:第9グリッドからのスタート。すぐ後ろにヴィマーナ

右:サンレイク、ドライバー交代

 

 第二ヒートは前日順位順の第9グリッドからのスタート。日照が弱いため全体にペースは遅い。昨日からドライブし続けている高橋は次第にMitsubaモーターの特性を把握、電力消費は昨日より着実に改善されている。

 

15:00 2時間を過ぎると、バッテリーを使い果たして止まる車が増えてくる。サバイバルゲームの始まりである。天候は悪化の方向。太陽光充電は期待できないため、止まればそこでおしまいである。第一ヒート首位の再輝チームENAX、バーストしてピットイン。育英高専Salesioもピット前に停車したきり動かない。バッテリーを使い果たしたか?

 

左側、OSU、右側 金沢工業大学 同時にドライバー交代。

 

 上位争いはパンダサンのトライアシックダンディーに芦屋大TIGAOSU modsel S’Aurora、金沢工大GEに絞られてきたように見えた。サンレイクはこの時点で総合順位は6位。2時間過ぎにドライバー交代し、平澤がハンドルを握る。雨が降り出した。

 サンレイクは電池切れで車を止めたことがないのが自慢だ。僕たちはバッテリー残容量管理と日照によるエネルギー入力を予測し、全部を平均化して一定速度で時間いっぱい走りきり、ゴールと同時にエネルギーを使い果たすのが、ソーラーカーレースの最も美しい走り方だと信じている。スピードを競うカーレースを見慣れた人には、実に、おもしろくない走りだと思うだろう。しかし、ソーラーカーレースは短距離走ではなく、長距離走なのだ。マラソンと同様、他のチームの走り方に惑わされず、逆に他のチームに揺さぶりをかけ、駆け引きをながらレースを展開するのがソーラーカーレースの醍醐味だ。

 

左:東海大学付属翔洋高校 Falcon MPPTの調子が悪いようだ。

右:金沢工業大学 KIT GoldenEagle

 

 今日の午前中に充電できる電力量は僅かだろうと予想した僕たちは、昨日は順位を落として今日のためにエネルギーを温存した。計算上はペースを落としながらも最後まで走行可能だ。昨日からドッグファイトを続けている上位チームは必要以上にエネルギーを消費しているはずだ。なるべく加速減速をせずに一定速度で走るのが最もエネルギー消費の少ない走り方だと、誰もが解っているのだが、競り合いになるとどうしても細かな加速減速が必要になってくる。悪天候で太陽光入力が無ければ高効率のGaAs太陽電池も僕たちのシリコン太陽電池も互角なはずだ。 しかし、

 

16:00 3時間が過ぎようかというときに平澤から「バッテリー電圧がおかしい、電池残量が少ないのではないか?」との連絡が入り、急遽ピットインしバッテリーチェックを行う。じわじわと電圧が落ちてくる鉛バッテリーと異なり、Liバッテリーは容量が無くなると突然、電圧が低下する。計算上は残っているはずの電力が実際にはほとんど残っていない。僕たちはギリシャでの過充電が、残されたバッテリーにもダメージを与えていたことを悟った。

車載電圧計はアテにならないため、ピットで再測定

 

 チャレンジクラスの柏会と堺市立は着実に周回数を上げている。ドリームクラスに参戦している意地だけが再びコースに戻る判断材料となったが、結果的にその一周には20分を要してしまうこととなった。

 

16:40 第2ヒート開始後3時間40分経過。土砂降りの雨の中、走っている車両は半分以下。Auroraがコース上でストップ。コースに戻って2周目に入った平澤は、柏会と堺市立に抜かれるのを承知の上で、コース上に故意に車を止め、最後の一絞りの電力を保つ。絶対に譲れない一線「チェッカーを受ける」ためのギリギリの判断である。OSUのペースが落ち、TIGAが2位に上がった。首位はパンダサンのトライアシックダンディー(Triasic (Triassic) Dandy)。

 

16:48 最後の駆け引きが続く。何人が気づいただろう。トライアシックダンディーがスピンしながらも体勢を立て直して微妙にペースをあげた。晴天用タイヤのまま走る濡れたサーキットコースはスケートリンクみたいなものだ。ここでのペースアップは自殺行為と紙一重。 

 

「細川さん、やる気だ!?」。

 

 チェッカーへのカウントダウンが始まった。そして正にチェッカーが振られようかという一瞬前にトライアシックダンディーがコントロールラインを通過。このまま一周すればTIGAに1周回差を付けての優勝が確定する。ペースコントロールの究極の技、ピットは歓喜と賞賛の渦。

 

  

トライアシックダンディーを迎える細川さんとサポートしたキョンシーチームメンバー

  

17:00 チェッカーフラッグを目指して平澤が再スタートを切る。後方から森口が乗るヴィマーナが追走。抜けるくせに並んで走ってくれる。サンレイクの残エネルギーはそこまで。総合8位。

ヴィマーナ(左)とサンレイク(右)

 

祝福の拍手に溢れるパンダサンチームのピット

「(初日に引っ張ってくれた)高崎さん(再輝チーム)のおかげです」と細川さん。

 

ギリシャで一緒だった南台湾大学のAy先生「99%来年鈴鹿に来る。」

彼もまた魔物に魅入られた一人。

(ソーラーカーを最初に魔物に例えたのはMaxSpeed)

 

バカボンズ「湖上の風」

ドリームに参戦した最初で最後のアモルファス太陽電池搭載ソーラーカー

こういうコダワリ。好きです。

 

 

今年のヒーロー

 

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エピローグ 嵐と共に過ぎ去った夏

 

 力尽きたSunleke帰り道は手押しによるピットレーン逆走。ギリシャでの過充電でのダメージでバッテリーの容量は85%程度になってしまっていたようだ。さらに今回、最後に無理に絞りきった結果の過放電。これで僕たちは NGMモーター、2003年版ドリームクラス用ボディ、全てのLiバッテリー、つまりギリシャ遠征のために用意した全ての物(DREAM)を失う結果となった。

 

 

 嵐を征したのは細川さん率いるプライベートチーム「パンダサン」のトライアシックダンディー。コツコツと自費+手作りで作り上げたSi単結晶太陽電池車が、GaAsやタンデムを搭載した車に勝ったのは、ドリームクラスの電力量に頼り切ることなく、車両の軽量化と走行抵抗低減を極めた努力の賜といえる。少なからぬ手作りプライベーターに、新たな「希望」と「目標」の火が灯った。

 

夏の嵐は過ぎ、再び目を覚ました魔物に取り憑かれた男達だけが残された。

 

We lost our DREAM.

To be continue, or not

 

 

初稿  2004.08.08

第2稿 2005.07.31

 

三文楽士の休日 2004年夏の嵐編

21世紀最悪天候のソーラーカーレース

「潰えた夢(DREAM)」

 

Satoshi Maeda@Team Sunlake

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