The Place in the Sun

三文楽士の休日

大英帝国見聞録
The Memoirs of Great Britain



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大英帝国見聞録 第四章 大英帝国太陽能車
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DAY 4 19.Mar.2014 vol.2 Clare College Old Court/Cambridge/UK
DAY 4 2014年03月19日 水曜日 (その2) ケンブリッジ、クレア・カレッジ・オールドコート

16:00

 まとめの総会の最後に、今晩のイベントのお知らせがアナウンスされた。明日開催される学術会議のプレイベントとして英国委員会主催の晩餐会が開かれるのである。会場は歴史あるクレアカレッジの大ホールである。クレアカレッジのパンフレットには、なんとも格調高そうなホールで正装した人々の食事風景が掲載されている。

 「服装は? ひょっとして正装?」

 「いやいや、これでOK」

と、議長氏が見せた画面には、議長氏自らがアロハ姿でおどける様子が映し出されていた。



17:30 Lensfield Hotel

 一度ホテルに戻り、重い鞄を置き、ネクタイを外して出発。時間があるので、グレート・セント・メアリ教会の尖塔に登ってみようと入ってみたが、既に公開時刻終了。夕暮れのトリニティ通りを少しブラブラしてからクレア・カレッジのオールドコートへ。



クレア・カレッジ・オールドコートの中庭。写真中央が地下バーへの入り口

18:30 Clare College Old Court (Under Ground)

 まず行くように案内されたのが、ここ。




 クレアカレッジ、オールドコートの建物の地下にある「バー」である。天井は低く、私でさえクビを竦めてしまう。バーの隣にはビリヤード場が見えた。



ビリヤード場

 ケンブリッジのカレッジ群は、南から流れてきたケム川が東に大きく湾曲している河畔に沿って建てられている。地面は堆積地で地下水位だって低くはないだろう。そういう場所に建てられた建物の地下室であるにもかかわらず、さほど湿気が高そうでもない。

19:30 Clare College Old Court Grand Hall

 そろそろ時間だ、ということで大ホールに移動すると既に満席に近い。標準化会議への出席者(50人)だけではなく、明日からの学術会議に参加する人たちも加わって、150人近い人数である。



Clare College Old Court Grand Hall

 ワインはカレッジのオリジナルブランド。古いカレッジは、自らの名前でワインを作る権利を有しているらしい。料理は・・・・・・・・申し訳ないが期待はずれ。

  

21:30 ボチボチと流れ解散的に人数が減ってきた。

 この日で標準化に関わる仕事は一通り終了、残り二日は学術会議と企業ツアーに参加して当技術分野の情報収集である。肩の荷が軽くなると、気になるのはCUERである。

 ケンブリッジ大学には2007年に結成されたソーラーカー・チームがあり、過去4回、WSC=豪州大陸縦断3000kmレースに出場しているのである。
 ・2008年に有名なMITのマンタ号に似た車両を作って英国の国内で試運転。
 ・2009年と2011年には前1輪、後ろ2輪と、Auroraに近いコンセプトのオリジナルの車両でWSCに出場。
 ・最も注目されたのは2013年で、非常に個性的なアプローチのソーラーカーで出場したのだが、本戦直前に事故を起こし、大事を取って棄権、という残念な結果。

 CUERチームには渡英前から何度かコンタクトを試みてきたが、返事は無し。

 前夜、米国委員とモータースポーツで盛り上がった勢を借りて、皆にその話をすると

 「議長に聞いてみたらどうだ」

との提案。議長氏は某技術ジャンルの大家ではあるが、この某技術ジャンルはソーラーカーとは全く無関係。さらに議長氏本人はケンブリッジ大学に所属している訳でもないし、そもそも僕自身は今回の会議が初対面、よって全く考えたことも無かったのだが・・・・話してみると、

 「解った。ケンブリッジ大学の人に話を通してやる。
  おお、彼がいい。おい、ちょっと話を聞いてやってくれないか。」

 と、いうことで呼ばれたのは、ケンブリッジ大学所属の研究センターの役員氏。ケンブリッジ大学における某技術ジャンルの代表的な研究者で、前職は某国際大企業の欧州研究機関のヘッド、という大物である。場違いにも程がある・・・・と思ったが、

 「(ソーラーカーチームの事は知っている)
  自分は直接関係はしていないが、なんとか繋いであげよう。」

思いもしなかった展開になってしまった。

この日はアドレナリン分泌が多かったのか、就寝時刻は23時頃。




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DAY 5 20.Mar.2014 Cambridge University Engineering Department
DAY 5 2014年03月20日 木曜日

05:00 Lensfield Hotel/Cambridge/UK

 起床。

 次第に目覚める時刻が遅くなってきた。体内時計が日本時間から解離しはじめた証拠であるが、残り日数が減ってきた状況では、あまり好ましくない。

09:00 Cambridge Coe Fen and Sheep's Green



通勤コースをケム川沿いの緑地に戻した。
右手の塀はFitzwilliam Museum と、続くケンブリッジ最古のカレッジ「Peter house」



クイーンズ・カレッジ隣のパンティング・ステイション



キングス・バックス

09:20 Clare College Memorial Court

 某技術分野の学術会議の場所は、同じガレスピーセンターのホール。開始時刻に会わせて少し遅めに出てきたのが失敗。会場は昨日までの3倍以上の人数で一杯で席を探すのにも苦労。

09:30 学術会議 基調講演がはじまった。

11:00 小休憩

 人数が一気に3倍に増えているので、お茶の時間も押し合いへし合いである。が、そんな中で昨日の役員氏が、わざわざ私を見つけ出し、

 「今、メールで連絡を取っている。時間は何時が良いか?」

 英国人は仕事が早い。

12:30 昼食



lunch time new menu

 四日目も同じ昼食を覚悟したが、アジアからの来客が多いのに気を使ったのか、珍しくお米料理。手頃な小さなカップで数種類のリゾットが提供された。



lunch time

15:30 午後のお茶の時間

 再び役員氏が私に、

 「チームリーダーに連絡がついた。
  今日の夕方17:30にケンブリッジ大学工学部のエントランスで待っていてくれ。」
 物凄く気を使っていただいて申し訳ない。感謝感謝である。

16:30 Clare College Memorial Court/Cambridge/UK

 学術会議終了。

 Coe Fen 緑地を通ってケンブリッジ大学工学部へ。


 場所は、私が宿泊しているレンズフィールドホテルから徒歩2−3分ほど、ケンブリッジ入り初日にバスでご一緒したメンバーが宿泊しているロイヤル・ケンブリッジ・ホテルとは隣接。ほとんど隣といっても良い距離である。
 約束の時刻までには多少時間があったので工学部内を歩いて一周してみた。ケンブリッジ大学の工学部(Engeneering Department)は、エネルギー・流体・摩擦工学、電気工学、機械工学、建築工学、生産技術工学、情報工学の6学部(Division)。ソーラーカー活動の拠点としては申し分ない。(化学系は別のDepartmentになる。) )



 建物の裏側に回ると「ソーラーカーの気配」がしてきた。


17:30 Department of Engineering/University of Cambridge/UK


 約束の時刻ピッタリに、エントランスに現れたのは CUER:Cambridge University Eco Racing Team のプロジェクトリーダーであるチャールズ・ヴィトリー(Charls Vitry)君。まだ19才だが。明日からパリに行くという忙しい中で時間を割いてくれた。


 彼らのソーラーカーは 前方投影面積を最小化したスリムな車体にし、あえて搭載量が半分に制限されてしまった化合物系太陽電池を使い、パネルを透明な車内に収め、太陽角度を追跡してパネルの傾きをコントロールし、最大電力を得ながら走るという独創的な設計だ。昨年のWSC:豪州縦断3000kmレースでは、その独特なスタイルが高い評価を得て、皆が結果を期待していたが、本戦前に横転してしまい、安全面の懸念から泣く泣く棄権、という残念な結果になった。



手前のボックスに収められているのは、オーストラリアでの横転事故で擦り切れてしまった太陽電池


 車体を、あえてスリムに、というコンセプト自体は平塚高校や細川さんチームの方が早かったと思う。いずれも鈴鹿では良い成績を残している。日本の両車両は重心を極力低い位置に置いているが、CUERチームの車体重心はかなり高そうだ。ドライバー位置も一番前にしており、バランスもあまり良く無さそうだ。

  

 シートの素材に目が止まった。黒と茶色の繊維を用いた混織りシートを補強材に用いたワンプライのFRPである。この組み合わせの混織クロスは滅多にお目にかかれない。ザイロンとカーボン繊維を用いたクロスで、テニスラケット、卓球ラケット、スピーカーコーン等に使われている。

  「これ、どうやって手に入れた?」
  「わからない。???」
 ヴィトリー君に「ソーラーカーで一番重いパーツは何だ?」と問うたら「バッテリー」という答えが返ってきた。これは正しくない。一番重いのは人体=ドライバーなのである。次回WSC用に現在設計中の新しい車体は、少し前輪幅を広くして重心を下げる工夫をしているそうだ。今度はきっと完走してくれるだろう。



 太陽位置トラッキングパネルの下は手作り感満載。後輪が剥き出し
なので、雨が降ったら中はバッテリーや制御系回路が収められている
後部室内がグショグショだ。もうちょっとナントカしよう。

19:00 Cambridge City Market

 一度ホテルに戻ったが、夕食を求めてシティセンターまで出てみた。ケンブリッジの夜は早い。イングリッシュ・バーは何処も一杯だし、一人でカウンターに座る気も起きない。夜の町の雰囲気を味わいながらブラブラ歩いていたら、パラパラと降っていた雨が、本格的に降り始めた。油断して折りたたみ傘はホテルに置いたままだ。なんとか、まだ市場で開いていた屋台で、ラムのケバブとチップスを購入し、濡れながらホテルに帰った。


 パトラで食べたラムのギロピタの味を思い出して、少し期待したが、味は期待はずれ。暖かければ、もう少しマシだったのだろうけれど。



大英帝国見聞録 第五章

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公開  2014.04.20.
Copyright Satoshi Maeda@Solar Car Archaeolgy Research Institute
太陽能車考古学研究所
2006.01.01