The Place in the Sun

三文楽士の休日
2007泉大津(Team Asuka Debut)編

Eco Car Festa 2007 in IZUMIOHTSU PHOENIX
エコカーフェスタ2007in泉大津フェニックス

MAIDEN VOYAGE

MAIDEN BOYAGE INDEX

本編
 §1.プロローグ
 §2.雨を呼ぶ女
 §3.メイデン・ボヤージュ
 §4.エピローグ


§1.プロローグ


2007年9月30日(日曜日)

04:20 自宅を出る。



車の窓は濡れている。夜露ではない。

04:45 太田鉄工所着

 事務所には既に灯りがついていた。
 部屋にはいると、眠そうな顔をしたアスカを龍男氏と有彦氏がからかっていた。1時30分を過ぎても眠れないので、これはヤバイと自宅を抜け出し、事務所に入ってウトウトしてたところに、4時の目覚ましコールで覚醒。そのままメンバーが集まるのを待っていたらしい。

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 時計を12時間程もどそう。

2007年9月29日(土曜日)

16:00頃  太田鉄工所



 デビュー戦前日の打ち合わせ


   「会場に7時過ぎには入りたい。そのためには朝5時前に集合して出発だ。」
と宣言する龍男氏に、
   「私、朝弱いねん。」
   「だったら朝まで寝ずに起きていればいい。」
   「事務所の鍵、貸すから朝までここで待ってるか?」
と軽口を交わして別れたのが昨夕。まさかホントに実行するとは思っていなかった。

 アスカは ソーラーレーシングチーム「Team Asuka」 のエントラント兼ドライバー。私が知る限り、過去、日本ソーラーカー史上に女性エントラントのプライベートチームは存在しない。



ジムカーナ競技に出場するOtus S-Evenの積み込み作業



こちらはアスカがラリー競技に出るために借用した33−III号。既に出発準備OK


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 アスカと初めてであったのはドリームカップ・ソーラーカーレース鈴鹿20007のピット。サンレイクと立命館大学チームの合同ピットに応援に来てくださった太田鉄工所御一行様の一員。やけに明るいにぎやかな女の子だな、というのが率直な第一印象だった。


鈴鹿サーキットにて


 後日、太田鉄工所を訪ねた僕の目に入ったの真新しい(ソーラーカーとおぼしき)車両のシャーシだった。立命館大学のソーラーカーチームか、あるいは内燃機関チームが製作中のカートか?と思ったが、それにしては仕上げがきれいすぎる。???

 「これは 何?」   「秘密」

 そのときは、あっそう内緒なの。と、それ以上深くは追求しなかった。

 浜松ソーラーバイクの準備に再び太田鉄工所を訪ねると、奥の方で作業服の見慣れぬ人影が、外形を丸く切り抜いたアルミ板と格闘していた。誰か学生が来てるのかな?いやいや女の子だ。


アスカさん、作業中

 「ソーラーカー 作りたい!」

これが鈴鹿から帰ったきたアスカの第一声だったそうな。

 「作りたければ、作ればいい」(舞台は、ソーラーカー業界では泣く子も黙る太田鉄工所である)

 「アスカ一人でつくれるかなぁ?」
 「うーーーん、そりゃちょっと無理やろ」
 「じゃあ、どーしたらいい?」

アスカのソーラーカー製作奮闘記は、こんなやりとりから始まった。




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§2.雨を呼ぶ女


再び、2007年9月30日(日曜日)

05:00 トラック2台に二人ずつ乗り込み出発。



前日の天気図。日本列島の南海上に秋雨前線


 エコカーフェスタはレース&ラリーイベント企画会社「Two and Four」が主管するエコカーイベントである。第一回は2000年に滋賀県湖東町(現東近江市)のクレフィール湖東教習センターにて開催された。以後2002年をスキップし、会場を舞洲、神戸空港予定地、クレフィール湖東、備北ハイランドサーキットと変えながら開催され続けている。当初はソーラーカー中心のイベントであったが、EVカーや、ソーラーバイシクル競技も交えて開催され、最近ではWEMに中心が移っている。今年は大阪府南部、泉大津市の海岸線にある埋め立て地の多目的広場「泉大津フェニックス」にて開催される。少し南には関西国際空港、西には明石大橋が位置し、晴れていれば景観的にも良い場所であるはずだ。それを期待させる様に、前日までは秋晴れの良い天気が続いていたのだが、


当日はご覧の通り。高速道路の警報板には「雨 スリップ注意」の文字が躍る。時刻は05:23



大阪市北部通過中 時刻は05:50 雨はご覧の通り



06:09 阪和道への分岐



06:15 標識に泉大津の文字が見えてきた


 

06:30 泉大津フェニックスへの看板発見。幹線道にあったのはこの一枚だけ。


06:31 大きな工場を左右に見ながら進むと、どうやらここが目的地の仮設ゲート。


 中に入ると、何もない。 ともかく、だだっぴろい巨大な駐車場といった感じ。それらしきテントを目印に向かうと、ピット兼参加者駐車場を取り仕切っていたのは、


毎度お馴染みのこの方(注、2&4の社員ではありません)。
  「ウチのピット、どの辺かなあ?」
  「昨日引いた線が、昨夜からの雨で全部消えちゃって・・・・・」
と、トホホな様子でした。


一足先に到着していた立命館大学チーム。大学当局から
借用してきたという運動会用の大テントが目立つ。


早速、会場偵察中のアスカ


小降りの間にと、各チーム大急ぎでピット設営中。


 タイムテーブルでは、車両搬入は土曜日13:00からOK。15:00-17:00には試走時間も設けられていたのだが、ほとんどのチームが当日になってから搬入していた様だ。



会場全景(といっても画面に入りきらないが)。手前が周回コース(650m/周)、ピットの向こう側がエコカーの試乗コーナー


07:27 ちょっと早いが、受付の列に並ぶ。この頃には雨がポツリポツリと




 エントリーは「Team Asuka」と「Team Otus」の2チーム。Team Asuka のエントラント兼ドライバーのアスカ、龍男監督、Team Otus エントラント兼ドライバーの有彦氏、それに野次馬の僕を加えての総勢4人にソーラーカー2台(一台はEVとして出場)という、たいへん贅沢な布陣である。

 こういう状態は、普通は「人手不足」と云うのだが、
 既にお気づきかと思うが、「Team Asuka」のバックアップは「Shibata Family / Team Otus」である。今回、柴田氏は東南亜細亜外遊中とのことで残念ながら参加できず(大会当日の夕方に関空着らしい)。鈴鹿直後から着手したとはいえ、車両完成にはまだまだほど遠いアスカが名車「33−III号」を借用して参加するということになった次第。
 円熟の極みにあるベテランチームは、この人数で何とかしてしまうのである。立命館大学チームに毎度お手伝いいただくのであるが( EV-Racing 我楽多連 の皆さん、毎度おおきに )。



鈴鹿と異なり、2&4系イベントでは、受付が済むとゼッケンがもらえる。



08:00 車検開始。 台数が多く、予選開始時刻が早いエコノムーブ優先で、ソーラーカーはどうやら後回し状態になってる様子。

08:45 開会式代わりのドライバーズ・ブリーフィング

 「エコカーフェスタ」は2&4の前代表の岡波勉氏が、1999年を最後に中止された朝日ソーラーカーレース(TIサーキット英田にて開催されていた)の流れを継承して、2000年から主体的に開催しているエコカーイベントである。主な対象はソーラーカー、EVカー、エコノムーブ。初期にはソーラーバイシクルレースも併催、電動バイクも参加可能な「何でもEV」というのもあった。初心者でも参加しやすい敷居の低さが持ち味である。

 その岡波勉氏が昨年末に病に倒れ、今年3月に永眠された。氏の業績を偲び、ドライバーズブリーフィングの冒頭には、今大会のECOプロデューサー芦田隆(TGMY代表)の主導による黙祷が行われた。お天道様も一緒に追悼の涙雨。この頃が最も雨が激しかった。


08:45 大会本部前にてドライバーズ・ブリーフィング



09:20 エコノムーブ出走点検前に、大急ぎでソーラーカーの車検



担当オフィシャルが各ピットを回り、車両仕様、指示器系統とブレーキをチェックする

 33−III号も、Otus S-Even もお馴染みなのでチェックはスムーズ。
   「バッテリーチェック、この天候で中を見せて頂くのも偲びないのですが・・・。」
   「ん? 何も変えてへんで。前と一緒。」
   「はい、OK」
   「指示器大丈夫ですよね?」
   「公道ナンバー付いてるからねえ。」
   「ジムカーナじゃ使わないから、無くても良いんですけど一応・・・」
 他のチームじゃあ、こうはいかないので参考にはしないように。オフィシャルのT氏が手にしている登録書類は、雨に濡れ、既に単なる紙の固まりに化していた。


プレスのお姉さん、立命館大学チーム取材中


10:10 エコノムーブの予選Iが始まった。


静止画像で見ると芋虫競争みたいだが、実際の速度は40km/hrを超える。



お隣のピット、PROJECT MONO の「MONO-X」号も出走。

 ご覧の様にドライバーはほとんど仰向けに寝そべっている状態。前輪が車内に巻き込む水がコクピット内に溜まり、浅いバスタブに浸かっているに等しい状態。水抜き穴も明けてあるのだが、自分のお尻で蓋する格好になってしまっており、走行後のドライバー氏は、首筋からお尻までずぶ濡れになっていた。


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§3.メイデン・ボヤージュ


10:50 ソーラーカーの試走タイム



 「ところで、33-III号、運転したことあるの?」
 「工場の前の駐車場でちょっと」 ・・・・・・・・・・一抹の不安。

 ソーラーカー部門の正式名称は『ソーラーカーフェスティバルin泉大津フェニックス』。耐久レースではなく、周回コースを目標タイムどおりに走る正確さを競う、いわゆる「公園ラリー形式」である。

   初期持ち点は100ポイント
   目標タイムの±1秒以内なら減点無し。
   目標タイムより早いと、1秒あたり1.0ポイント減点
   目標タイムより遅いと、1秒あたり0.5ポイント減点

 コースは周回650m。当日発表された目標タイムは2分45秒。 速度に換算すると 秒速3.94m、時速14.2km ほとんどママチャリなみの亀さんレースだ。

 試走時間は30分。めいっぱい使ってもせいぜい10周くらいしか練習できない。鬼監督がトランシーバー交信で細かく指示を出すが、ゆっくり走るのは結構難しい。時間計測を行っているコントロールライン手前で露骨に停まって時間調整するとペナルティが課せられるので、かなり手前からスピード調整していかなければならない。最初の数周は±10秒以上離れそうな勢いだったが、次第にコツを覚え、終了間際にはコントロールライン手前約50m間での加減速で調整ができるようになってきていた。若いと順応力が高い。



33-III号は、今時のソーラーカーには珍しくフルオープン
制作者のポリシーなのだが、この天候だと少々辛い。

え? あっ、はい。

「どんな場面でも常に自然を満喫するのがソーラーカー」だそうです。



11:20 アスカのソーラーカー試運転、無事終了



ピットでは応援の高橋父娘がお出迎え。お嬢さんは未来のソーラーカーレーサーか?
お父さんは、ソーラーカーレースのスタートを変えた男「Mr. Rocket Start」の異名を持つ。


11:30 エコノムーブ予選II開始。予選は30分づつ二回行われ、いずれか一方に出ればOK。一番良かったタイムが採用される。


 地面に寝そべっているに等しいポジションから見ると、まるで大海の上を滑っている様な視界。しかも水滴は付くわ、窓は曇るわ、車内は水浸しだわ・・・・・。パイロンで仕切られただけのコースは実に視認しにくい。路面に多少の目印は書いてあった様だが、既に「水面下」である


今宮工科高等学校チーム、コースを見失って迷子になってしまった



水しぶきを飛ばしながら予選は続く


12:00 ラリー本戦10分前


 ラリーは一周650mのコースを目標タイム2分45秒で20周する。単純計算で55分の長丁場。雨は小降りになってきているが、いつまたぶり返すかもしれない。レーシングスーツで頑張るというアスカに、大事をとって防水のウインドウブレイカー着用を勧めた。


快走中の33-III号

 予選などは無かったので、ラリー出走はゼッケン順。20秒間隔でコースインしてゆくのだが、3番目の和歌山大学チームがスタート時にトラぶってコースイン出来ず、ややペースが乱れて少し間延びしてしまい、最初にコースインした津工業とアスカが重なってしまった。


どうした和歌山大学、スタートできずコース脇で緊急メンテ


 ラリー本戦中、僕は計時係。周回毎にストップウオッチを取り替え、コントロールラインの手前から監督がストップウオッチを見ながら残り時間をトランシーバーでアスカに伝えるのである。
 コントロールラインを通過した瞬間に、次の周回の秒カウントを開始しなければならないので、ラインから離れるわけにはいかない。被写体のソーラーカーが射程に入った頃にはストップウオッチを入れ替える準備に大忙し、ということで本戦中の他のチームの写真はたくさんあるのだが、33-III号の写真はあまり撮れなかった。


監督の指示を取材中のDJさん

 やってる方は、時計と車両から目を離せないのでそれなりに忙しいのだが、見てる分には、かなり退屈なこのラリー競技(亀さんの速度で、しかも抜いたり抜かれたり、というシーンは基本的に無い。)それでも実況し続けるDJ、さすがプロ。鈴鹿の某DJさんよりボキャブラリー豊富です。


初本戦、無事終了



13:12 ピットに戻って笑顔のピースサイン



ラリー終了の10分後にはジムカーナ競技 雨は再び勢いを増してきた
ところで、道路交通法上、傘さしながら、自動車運転しても良いのかな?



慣熟歩行:まずはジムカーナコースを徒歩で回ってコースを覚えます。


 ジムカーナ競技は パイロンを立てて作られた曲がりくねったコースでのタイムを競う。コースは当日発表されるので、参加者全員がぶっつけ本番(音楽の初見演奏試験みたいな物ですね)。コース図を見ながら走るわけにはいかないので、まずは覚えなければならない。もちろん間違えたら失格、パイロンに接触するとペナルティタイムが加算されてしまう。二回の試技で短かった方のタイムが採用される。



13:31 いよいよ緊張の本番。「一寸まて、もう一度コース図見せてちょうだい。」



無事終了



今回はEV部門のみでソーラーカー部門が無かったため、ソーラーパネルを外した即席EVが3台参加。こちらは名古屋工業大学



三菱自動車ミラージュのEVコンバートカー。エコカーフェスタではお馴染み。

 EVコンバートすると、エンジンやトランスミッションを取り外しているにもかかわらず実はガソリン車より重くなります。もちろん増加分のほとんどは鉛バッテリー。助手席と後部座席の代わりに巨大なアルミ製棺桶(バッテリーボックス)が搭載されております。


即席EV2台目 和歌山大学、ラリーでの劣勢を挽回する鋭い走り

 先ほど、トラブルで定刻にラリー出走できなかった和歌山大学、なんとか応急処置して途中からラリーに参加したが、走れなかった最初の数周分の減点分はポイントにすると100ポイント超えちゃうので、持点は「零」。ジムカーナには、どうしても万全で出場したいという熱意がリーダーの怒号となり、冷たい雨の中、ピットは真っ赤に燃えていた。



即席EV3台目 津工業高等学校 


OtusS-Evenが出場したEV2カテゴリーは1台のみ。よって参加と同時にクラス優勝決定なのだが、短距離スプリントに特化して製作されたEV(実はソーラーカーでもあるのだが)の実力を見せておかねば、と果敢に攻め、一回目の試技では参加6大中の首位、二回目の試技では最初のカーブでスピンしながら立て直し、EV−1クラスの三菱に抜かれたものの、手作りカーの中ではトップのタイムをたたき出した。

エコカーフェスタ2007 締めくくりはメインイベントのWEM本戦。


グリッドで最後の調整中の各チーム



スタートライン側から撮影。傘を差している人はいなくなった



オフィシャルによるスタート直前画像撮影中



スタート、支給された小さなバッテリーだけを使い、1時間で何周できるかが競われる



車体が小さいのと、速い車両と遅い車両では倍以上の速度差があるのでご覧の様に4台重ねってしまうこともある。



トップでチェッカーを受けるTeam Bizon



本部席奥の人物は、大潟からかけつけたクリーンエナジーアライアンスの谷代表



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§4.エピローグ


16:30 表彰式

 当初のタイムスケジュールから30分遅れて表彰式が始まった。この悪天候の中でのスケジュール管理としては上出来だろう。まずは、前日から奮闘してくださった大会関係者に感謝。


Team Asuka クラス2位

 アスカのデビュー戦は、なんと96.0の高得点でクラス二位を獲得。プレゼンターは大会名誉会長の奥野信亮氏。現職の衆議院議員がこのような小規模なソーラーカーイベントの現場に現れるのは、先の参議院選挙で自民党が大敗した直後とはいえ、最近では異例の事態。奈良県選出の議員さんなのでわざわざ大阪まで名前を売りにきている訳でも無し。得票目当てではないというところを信じたい。もと日産勤務で現在も関連会社の経営者とのことで自動車関係に関心が深いのは確か。構図としては、アスカがやけに緊張しているのが面白い。



Team Otus



WEM Open Class



参加者記念撮影



記念撮影しているカメラマンさん達を記念撮影


 この後は、恒例のじゃんけん大会。スポンサー企業から提供されたバッテリー等々の争奪戦の後、最後の景品は、これまた恒例の「エコカーフェスタ」の看板(垂れ幕)。ソーラーカーのシートカバーに使いたい、というアスカに押されてチーム全員で参戦したがあえなく完敗、垂れ幕は東海大関係者さんの手に。



帰り道、湾岸道路から望むコンビナート群。
( 実はナビに頼りすぎて道を間違えた。 )




徹夜した上に、ほとんどうたた寝もしていないはずなのだが、まだ元気みたい。


MAIDEN BOYAGE
§5.プロフェシィ

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Copyright Satoshi Maeda@Solar Car Archaeolgy Research Institute
太陽能車考古学研究所
2007.10.21