Solar Car Archaeology Research Institute

ソーラーカーの歴史 序論 最初のソーラーカー
The History of the Solar Car / The First Solar Car

8.ギネス最高速度を記録した最初の「純」ソーラーカー

 1984年、7月1日、ジョエル・デビッドソン氏とグレッグ・ジョハンソン氏(米国)により設計製作されたソーラーカー「サンランナー」は、米国カリフォルニア州ベルフラワーで 24.74MPH=39.6km/hr で走り、バッテリー無しの純粋にソーラー電力だけの走行のギネス世界記録を樹立した最初の純ソーラーカーであるとされている。

 ソリューションinソーラーエレクトリシティのウエッブサイトに、この記載がギネス世界記録樹立の20周年記念25周年記念の記事として書かれている。ギネスブックに記載されたのは1986年版からとされているが、筆者は未確認である。Google Book で検索した範囲では、1988年版と1990年版に以下の記載がある。
原文:Solar-Powered Vehicle The highest speed attained under IHPVA (International Human Powered Vehicle Association) rules by a solely solar-powered vehicle is 24.74 mph at Bellflower, Calif, on July 1, 1984 by Sunrunner, designed by Joel Davidson and Greg Johanson of Photovoltaic Power Systems.
 国際人力車両協会のルールの下で、最も高速の太陽動力車両は、1984年7月1日にカリフォルニア州ベルフラワーで単独で24.74MPH(39.6km/hr)を記録した「サンランナー」であり、その車両の光発電システムは Joel Davidson と Greg Johanson によって設計された。
なお、1993年度英国版、2005年度英国版のギネスブックの Solar Powerd Road Vehicle の項には GM「Sunraycer」 がバッテリー無しで記録した最高速度 78.37km/hrと、Star Micronics の 「Solar Star」によるバッテリー併用での最高速度135km/hrが記載されており、 *16)*17) 「サンランナー」に関する記載はない。ちなみにギネスブック日本語版(2005年度版)にはソーラーカーに関する記載すら無い。

 ジョエル・デビッドソン氏とグレッグ・ジョハンソン氏は1983〜1986年までの間に3台のソーラーカーを製作した。

初代1983年  屋根にパネルを載せた小型の3輪車。太陽電池35wattと非力であったため、主としてバッテリーで走る、厳密にはソーラーカーとは呼べない車両だった。



The first solar car, build by Joel Davidson and Greg Johanson, in 1983

二代目1984年  最初からギネス記録を狙って設計製作されたバッテリー無しの純ソーラーカー「Sunrunner」。この車両はギネス記録を樹立し、カナダのバンクーバーで開催された EXPO 86 にて紹介された。既に解体されているが、ソーラーパネルは、定置用として現在も稼働しているとのことである。



The second solar car "SUNRUNNER", build by Joel Davidson and Greg Johanson, in 1984

三代目1986年  カナダのバンクーバー開催の EXPO 86 での展示を目的として製作された、バッテリーを備えた、より実用的な車両である。1986年の夏には、チームメイトであるスコット氏が、このソーラーカーに乗って制限速度30MPHの道路を50MPH以上の速度で走り、警察に捕まり速度違反切符を切られた。世界で初めてスピード違反で捕まったという珍記録を物にしたソーラーカーである。



The third solar car, build by Joel Davidson and Greg Johanson, in 1986

ジョエル・デビッドソン氏

 ジョエル・デビッドソン氏は、PV業界で30年以上、建築業界では40年以上のキャリアを持ち、現在はカリフォルニアでソーラーシステム、ソーラー建築のコンサルタント業を行っている。彼の自宅は、米国で最も早い時期に建てられたソーラーハウスである。米国での太陽光発電のパイオニアの一人であることは確かだろう。このソーラーカーに関するエピソードは、彼の若い頃の武勇伝の一つである。ソーラーカーレースに出場した記録は、今の所みあたらない。

サンランナーによるギネス記録樹立

 彼等の奮闘ぶりは、ジョエル・デビッドソン氏のウェブサイト「ソリューションinソーラーエレクトリシティ」に詳しく掲載されている *8a)。以下、その部分の慨訳を示す。

最初のソーラー車両

 2009年6月、 ジョエル・デビッドソンとグレッグジョハンソンは、バッテリーを使わない100%太陽動力のみのソーラーカーでのギネス世界記録樹立の25周年記念を迎えた。1986年に、その車両は引退して分解されたが、ソーラーアレイは家庭用オフグリッドとして発電し続けている。

 グレッグと僕(ジョエル・デビッドソン)は、太陽電池で走る玩具の電車を見て、ソーラーカーを作ってみようと考えた。最初に作ったのは、1/2馬力60voltの直流モーターを搭載した小型の三輪車だった。12volt20AHの小さなバッテリを5直列にしてモーターを駆動した。屋根にはアルコ・ソーラー製の35wattモジュールを載せた。太陽電池は非力で、バッテリーをちょぼちょぼとしか充電出来ず、ソーラーカーと呼んでよいか怪しげな代物だった。そいつは40mph(64km/h)まで出せたが、相当に危なっかしかった。30mph(48km/h)程度で走る分には、結構楽しい乗り物だった。快晴で太陽が真上から照りつけたとしたら、6mph(9.6km/h)くらいで巡航出来ただろう。

 ソーラーカーはバッテリーを充電するのに屋外に止めておく必要がある。物騒なのでチェーンロックをかけ、用心にハンドルまで外しておいたのだが、残念なことに、その初代ソーラーカーは、ある晩に盗まれてしまい、警察にも届け、懸賞金までかけたのだが、二度と戻ってこなかった。

 僕たちは凄く落ち込んだが、既に「ソーラー虫」に取り憑かれていた僕たちは新しい目標に向かって進むことにした。初代ソーラーカーの経験から、僕たちはバッテリー無しの純ソーラーカーが実現出来るはずだと考えていた。そして、その純ソーラーカーで世界記録を狙うことにしたのだ。
 僕たちは自転車競技の選手を交えて新ソーラーカ「サンランナー」の構想を練った。国際人力車両協会のメンバーも色々と助言してくれた。スポンサーも補助金も無いので製作は常に財布との相談しがらゆっくりと進められた。

 サンランナーのフレームには軽いクロム・モリブデン鋼を使うことにした。フレームが撓んでくれるのでサスペンションは不要だった。タイヤは競技用自転車と車椅子に使われている軽量の物にした。バッテリーは無しで、太陽電池だけがエネルギー源だ。
 ステアリングを簡素化するために旋回半径を大きめに設定した。街中を走れる必要はなく、砂漠の中にひかれたような直線道路さえ走れればいいのだ。最高速へのアタックは、そういう道で行うことになるだろう。街中にソーラーカーを持ち込んだりしたら、たちどころに野次馬が集まって交通麻痺になってしまい、とっても危険なことは前回のソーラーカーで経験済みだ。
 先のソーラーカーでは競技用自転車のディスクブレーキを使ったのだが、車重272kgもある車体の車輪をロックしてしまうぐらいに効き過ぎて、タイヤがバーストしてしまったことさえあった。なので今度は普通の自転車用のキャリパーブレーキで間に合わせることにした。
 パワートレインはいたってシンプルで、モーターシャフトからチェーンとスプロケットで車軸を駆動するだけのものだ。パワートレインの調子が良さそうだったので、モーターは以前のソーラーカーと同じ1/2馬力のモデルにした。
 電力源には、アルコ社製のソーラーモジュールを用い、メタル・フレームなしで24個の44wattの1×4フィート(305x1219mm)のモジュールを並べ、60voltになるように配線した。バックシートも配線も軽量化のために必要最低限さにした。

 こうして二代目ソーラーカー「サンランナー(プロトタイプ)」が出来上がった。しかし、最初の走行テストは散々だった。モーターの始動トルクが低くてなかなか発進出来ず、しかも5/8マイル(1km)連続して加速し続けても最高速度には到達しそうも無かった。僕たちは設計を見直さざるを得なかった。

 まずモーターを1馬力のモーターに交換した。チームメイトのブラッド・オメーラがDC−DCコンバータと抵抗式速度制御回路を作り、これによって発進がスムーズになった。さらに空気抵抗を最小化するために、ドライバーは寝そべる姿勢とした。

 改良したサンランナーは予想どおりの性能を示した。前方投影面積が小さいので風の抵抗はほとんど問題にならなかった。ソーラーアレイの先端と地面との間でドラッグが生じ、多少はスピードに影響が出たが目をつぶった。タイヤの空気圧を120ポンド/平方インチ(8.4kg/平方cm)まで上げたので、タイヤ接地面積は4平方インチ(25.8平方cm)にまで減ずることができ、転がり抵抗をかなり下げることができた。

 公式タイムを計る時がやってきた。

 国際人力車両協会がデュポン賞(人力で65mph=104.6km/hrに達した自転車に送られる予定)のために用意していた計時装置を借りることができた。最高速アタックは場所に選ばれたベルフラワーは、残念ながらロスアンジェルス近郊で最もスモッグが酷い地域で、さらに12mph(19.3km/hr)の向かい風が吹いている一方通行の道路だった。

   1984年7月1日
   カリフォルニア州ロスアンジェルス近郊のベルフラワー
   日照は70%程度

 ベストコンディションとは言い難かったが、サンランナーはメアリー・アン・レイノルズによって操縦され、最高速24.7 mph (39.8 km/h)を記録した。この記録は僕たちは砂漠での実験走行で出した40mphよりも随分と低い値だったが、ギネスブックの公式記録員が立ち会っていなかったのでしかたなかった。

 ギネスブックの1986年版には、世界の最も速い「純ソーラーカー」としてサンランナーが掲載された。1984〜1985にかけて、僕たちは他のチームの挑戦を受け入れたのだが、手を挙げるチームはいなかった。1986年には、数人の他の人々がソーラーカー活動を始めた。メルセデス・ベンツは大枚はたいてソーラーレーシングカーを作った。ソーラーカーは次第に人々の心を掴んでいった。

 サンランナーは、近場のエネルギー見本市や野外展示会で展示された。僕たちには、国際的なイベントに参加するゆとりが無かったが、テレビや映画がサンランナーを取り上げてくれた。カナダのバンクーバーで開催されたエキスポ86の主催者は、360度ドーム型スクリーンにサンランナーを投影して見せた。彼等はトラベルというテーマにサンランナーの展示がマッチすると考えたのだ(EXPO86のテーマは「Transportation and Communication」だった。)。

グレッグはEXPO86のために別のソーラーカーを作ろうという計画に飛びついた。僕たちの3代目のソーラーカーは、12個のアルコ製ソーラーモジュール、6つの深サイクルバッテリー、および2馬力の直巻モーターを装備した少々重装備のソーラーカーで、60mph(96km/hr)の速度で走ることができた。バッテリーにより航続距離は40マイル(64km)に達した。バッテリーの再充電には3日も掛かったが、それでもバッテリーはその車をパンチの効いた物にした。パンチが効いている証拠は、その3代目ソーラーカーがスピード違反で捕まって、反則切符を切られた世界初のソーラーカーになったことだ。

 ソーラーカーの未来はどうなるだろうか? グレッグは、何時の日か、ソーラーカーが実用化されると考えているが、僕はちょっと懐疑的だ。人々が大きくて重い車を求め続けるなら、それはソーラー動力車と反対の方向だ。ソーラーカーの実用化のためには、まず光発電の効率をずっと上げなければならないだろう。要するに、太陽電池パネルから、もっとパワーが取り出せないとダメだということだ。未開発のエネルギー源の開拓は今後も続いていくだろう。



資料

*8a) http://www.solarsolar.com/suncar.html
*8b) "Solar The Fastest solar car", Popular Mechanics, vol162, No.6,p.134, Jun.1985.
  http://books.google.co.jp/books?id=y-QDAAAAMBAJ&pg=PA134&dq=Joel+Davidson+and+Greg+Johanson&hl=ja&ei=aZrfTKBpzKtx0qeFlww&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=3&ved=0CDEQ6AEwAg#
原文:Solar The Fastest solar car.
You wouldn't try getting onto the Santa Monica Freeway in the Sunrunner. But this sheet of textured glass on wheels is the fastest solar-powered car in the world. In its most recent run, the Sunrunner went 24.76 mph. Designers Greg Johanson and Joel Davidson of Solar Electrical Systems hope to do better this summer. Sunrunner is lined with 24 photovoltaic cells capable of producing 1 ,000 peak watts at 68 volts and 16 amps. These in no battery or electric strage device aboard. The one horsepower direct current motor drives a 10-speed gear and chain assembly. Sunrunner is five feet wide and 20 feet long. Its frame is constructed of 3/4-inch chrome tubing. It cost just over $14,000 to birld. 写真説明 With 24 photovoltaic cells, Sunrunner can hit nearly 25 mph
太陽、Fastestソーラーカー。  あなたはサンランナーでサンタモニカ・フリーウェイを走ろうなどとはしないだろう。しかし、この、車輪付きのテクスチャー・ガラス・シートは世界一速いソーラーカーなのだ。 最近の走行ではサンランナーは24.76mphを記録した。ソーラー電気システムの設計者であるグレッグ・ジョハンソンとジョエル・デビッドソンは、今年の夏がうまくいくことを願っている。 サンランナーはピーク電力1000wattを生み出す68volt、16Aの24個の光電池が接続されている。バッテリーなどの電力貯蔵用のデバイスは搭載されていない。1馬力の直流モーターが10段の変速機とチェーンによって駆動する。サンランナーは幅5フィート、長さ20フィートある。フレームは3/4インチのクロム管で構築されている。作るのに要したコストは1万4000ドル以上だった。
*8c) "PV Vehicles on the Move", David Godolphin, Solar age, International Solar Energy Society. American Section, vol.9, No.4, p11, 1984
  http://books.google.co.jp/books?id=dskqAQAAIAAJ&q=Joel+Davidson+and+Greg+Johanson&dq=Joel+Davidson+and+Greg+Johanson&hl=ja&ei=aZrfTKBpzKtx0qeFlww&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=5&ved=0CDgQ6AEwBA
Like the sight of the arc crackling between the sphere of the Van de Graaf generator and Mr. Wizard's wand, the sight of photovoltaic cells atop a quietly moving vehicle galvanizes the imagination. Joel Davidson and Greg Johanson. both longtime laborers in the PV vineyards, have developed a road- hugging photovoltaic-powered vehicle in which they hope to set a world solar-powered land speed record this summer.
ファン・デア・グラーフ発電機の球体電極間に火花が飛び散るかのように、あるいは魔法使いの棒のように、静かに動く乗り物の上の太陽電池はイマジネーションを電気にする。長い間、光発電畑で働いてきたジョエル・デビッドソンとグレッグ・ジョハンソンの二人は道路を抱きしめる光動力車両を開発した。それは今年の夏にその車両が光動力ランドのスピード記録を打ち立てることを望んでいる。
*8d) The Guinness book of records 1988, Alan Russell, Norris D. McWhirter, 1987.
Solar-powered The highest speed attained under IHPVA (International Human Powered Vehicle Association) rules by a solely solar-powered vehicle is 24.74 mph 39,81 km/h at Bellflower, California on 1 July 1984 by Sunrunner, designed by Joel Davidson and Greg Johanson of Photovoltaic Power Systems.
 国際人力車両協会のルールの下で、太陽動力で最も速いスピードは、カリフォルニア州のベルフラワーで、1984年7月1日に、ジョエル・デビッドソンとグレッグ・ジョハンソンが光発電系統を設計した純ソーラーカー「サンランナー」が到達した 24.74 mph 39,81 km/hでである。
*8e) Guinness book of world records 1990, Ross McWhirter, Norris McWhirter, 1990.
Solar-Powered Vehicle The highest speed attained under IHPVA (International Human Powered Vehicle Association) rules by a solely solar-powered vehicle is 24.74 mph at Bellflower, Calif, on July 1, 1984 by Sunrunner, designed by Joel Davidson and Greg Johanson of Photovoltaic Power Systems.
*8f) The Guinness Book of RECORDS 1993, Guinness Publishing


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第一稿   2006.01.01.
追記    2006.09.24.
追記    2006.10.14.
一部訂正  2007.08.07.
引用ウエブサイトについて更新  2010.10.05.
IRF社ソーラーカーについて全面改定  2010.10.06.
全面改定 2010.11.12.

Copyright Satoshi Maeda@Solar Car Archaeolgy Research Institute
太陽能車考古学研究所 2006.01.01