Solar Car Archaeology Research Institute

ソーラーカーの歴史 序論 最初のソーラーカー
The History of the Solar Car / The First Solar Car

1. GM SUNMOBILE  サンモバイル

  William G Cobb (General Motors), USA, 1955.08.31.
  ウイリアム・コッブ(GM社)米国 1955年08月31日

 GM:General Motors 社の技術者 William G Cobb が、12個のセレン太陽電池を搭載し、そこから得られる電力でモーターを駆動するモデルカー「Sunmobile」を、同社が開催した大規模な展示会「パワーラマ( Powerama 」にて公開した。*1a) 大きさは15インチにすぎないため、人が乗ることはできず、ソーラーカーと呼べるかどうかについては意見が分かれるところであるが、太陽電池で自動車の形をした駆動体を実際に動かそうとし、その様子を公開したという意味では世界初の試みと云ってよい。



GM "Sunmobile" Solar mini car made by William G. Cobb, 1955

 このミニソーラーカーに関する記述は、多くの「今日は何の日?」的サイトや太陽電池関係のサイトに掲載されており *1b)*1c)*1d)*1e) 、4−6歳児向けの教材のネタにまで使われている。 *1f)



GM "Sunmobile" Solar mini car back side, 1955

パワーラマ展示会 *1g)*1h)*1i)*1j)*1k)

 パワーラマ展示会の主題はディーゼルエンジンの持つパワーの誇示であった。
 同展示会は以下の内容で開催された。
期間  1955年8月31日〜9月25日の26日間
会場  シカゴの湖岸のソルジャー・フィールドに設けられた特設会場
主催  General Motors 社
 タイトルの「Powerama」は勿論「Power」と「Panorama」を重ねた造語である。会場の広さは50万平方フィート。GMは展示会のためにの土地を強化舗装し、8マイルもの長さの送電線を引き、湖岸道路で分断された会場間の往来の確保に全長204フィート(60m)の永久橋まで架けた。パワーラマ展示会に要した費用は当時の7百万$。「虹色のディーゼルランド」と呼ばれた会場では、26日間の会期中は一週間に7日間(つまり、毎日休み無く)「ディーゼル・オペラ」とも呼ばれた大規模なアトラクションが行われた。アトラクションの内容は以下に示すように、今日のテーマパークを彷彿とさせる派手さであった。ライフ誌は最初の6日間で70万人の来場者があったと報じている。
・世界最大の50tonダンプカーの荷台に水を満たしたプール  ダイバーによる飛び込み、
・「もっとをパワーを」"More Power to You"というタイトルの約1時間の野外ミュージカル
 7000人収容のグランドスタンドから観劇、一日4回上演。内容は、
6頭の象とディーゼル・ブルドーザーの力比べ(もちろんディーゼルの勝ち)
高さ70フィートのクレーン車を使ったフランス曲芸師のアクロバット
35tonブルドーザーによるマンボ・ダンス、
ディーゼルトラクターと男女のダンサーによるスクェア・ダンス
二台の大型クレーン車でつり下げたネット上で大勢のショーガールがラインダンス
などなど、ラスベガスショーのようであったと記録されている。
展示されたのはアトラクションに使われた巨大ダンプカーやブルドーザー、トラクターなどに加えて、
・400人乗りの客車10両からなる流線型鉄道車両(従来の客車より軽くて価格は同じ)この列車については、いくつかの鉄道ファン(アメリカにも「鉄」はいる)のサイトに画像が掲載されている。
・63フィート長(19m)のシュリンプボート(海老漁船)
・油井
・綿くり機
・軍用潜水艦
 など、ディーゼルエンジンの特徴が活かせる中大型の産業機械、軍用機機が中心であった。

 ディーゼル・エンジンは、1892年にドイツ人ラドルフ・ディーゼルによって発明された内燃機関である。圧縮されて高温になった空気中に燃料を噴出して自己発火させる点が、予め空気と混合した燃料に点火装置で火を付けるガソリンエンジンと異なり、軽油、重油などガソリンより安価な燃料油を使えるのが特徴である。
 第二次世界大戦以前、既に航空機や乗用車には内燃機関であるガソリンエンジンが使われており、ディーゼルエンジンはなかなか普及しなかった。大型の機器の動力は、石炭や重油のボイラーを使った外燃機関が支配的だったのである。ディーゼルエンジンが飛躍的に発展したのは第二次世界大戦期間中であった。GM社は大戦中に数千台の規模でディーゼルエンジンを搭載したトラック、トラクタ、発電所、機関車等を生産し、アメリカ海軍の艦船もディーゼルエンジンが支配的になった。戦後、そのメリットが認められたディーゼルエンジンは産業用の大型、中型機器の動力として広く使われるようになっていった。パワーラマ展示会が開催された1955年時点で米国の鉄道は85%近くがディーゼル機関車になっており、既に蒸気機関車は滅亡寸前だったのである。*1l)*1m)
 GM社は、この後ディーゼルエンジンを搭載したバスを量産し、GM社の新たな顧客となったバス会社は、かつての上客であった鉄道会社を窮地に追い込んでいくのであるが。
 パワーラマ展示会の出展物は250に及び、ディーゼルエンジンを用いた機器類だけではなく、
 ・米国海軍用の垂直離陸機
 ・85tonのアトミックキャノン(核弾頭を装填した砲弾、射出式核爆弾)
 ・艦対地ミサイル「レギュルス」(GE社開発のエンジンを搭載、GM社との関係は?)
といった軍事兵器など、GM社の技術の高さを誇示するための出展も行われていた。

「サンモバイル」は、この巨大なパワーラマ展示会中、最も小さな展示物であったが、未来の乗り物を指し示す物として評価された。GM社はこの後1987年の第一回WSCに向けて競技用ソーラーカー「Sunraycer」を開発・参加して優勝、翌年からは米国でサンレースを主催して学生達にソーラーカー製作を奨励、1990年代には電気自動車EV1の発売に至る。
が、やがて自らEV1を回収してスクラップにするのである。*1p)

「サンモバイル」は走ったか?

 さて、この「サンモバイル」は、走ったのであろうか? 原文では「 Thr light was converted by electricity that powered the small electric motor. A drive shaft was attached to the rear axle by pully.」「光は(12個のセレン太陽電池で)電気に変換され、小さな電気モーターを回した。ドライブシャフトはプーリーによって後輪の車軸に接続された。」とある。

 セレン製太陽電池は、当時はカメラの露出計として実用化されていた。使われているのは4cm□程度の正方形のセルである。かなり大きめではあるが屋内露出計用であれば頷けるサイズである。日本国内で1960年代に販売されていた露出計に、この程度の大きさのセレンセルが使われていた。セレンセルの特性値について、詳しいサイトは見当たらないが、幾つかのサイトの記述から、開放電圧 0.5V程度、変換効率 0.6% という数値を引っ張り出すことができた。これを元に試算してみると、

 太陽電池面積 4×4×12個=192平方cm
 変換効率 0.6% とすると、1000×0.6×0.01×0.0192=0.001152w

 1セルあたり開放電圧を 0.5V とすると、

 12直列で    6.0V×約2mA
  3直列4並列で 1.5V×約8mA

である。

 一方で、模型用小型モーターの方は、仮にプラモデル用の小型DCモーター:マブチ社で最も小さいマブチFA-130モーターを例に取ると 定格 1.5V 200mA 0.3w である。
 先のセレンセルの出力はモーター定格の3%程度にすぎない。無負荷であれば、なんとか車輪は回りそうだが、地面に置いて走ったかどうかは、相当怪しいと云わざるを得ない。事実、車輪を駆動するとは書いてあるが、太陽光で走った、という記述は見当たらない。



参考資料

*1a) Popular Mechanics 1955 Sep p.10
  http://books.google.co.jp/books?id=Z94DAAAAMBAJ&pg=PA10&lpg=PA10&dq=GM+Powerama+solar&source=bl&ots=yU2tSERZOd&sig=Fyc0qQ4sHFj5DW6PKogI8lzMHi0&hl=ja&ei=pLrPTMvpLYOsvgP50pjeBg&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=7&ved=0CC4Q6AEwBjgK#v=onepage&q&f=false
*1b) http://www.history.com/this-day-in-history/william-cobb-demonstrates-first-solar-powered-car
*1c) http://www.takepart.com/node/191435/actions?page=4
*1d) http://solar.calfinder.com/blog/products/old-school-solar-15-pioneers-peculiars-in-solar-history/
*1e) http://www.lockergnome.com/windows/2009/08/31/1955-first-solar-powered-car-demonstrated/
*1f) "August 31 First Solar-Powerd Vehicle", Read・Write・Respond using Historic Events, Jimmie Andelott and Dianna Buck, Teacher Created Resource,Inc., 2007.

  The very first solar-powerd vehicle was introduced on August 31,1955, at General Motors Powerama in Chicago. There was only one problem - it was only 15-inch (38.1cm) sun mobile built by W.G.Cobb of General Motors. It had 12 photoelectric cells. Thr light was converted by electricity that powered the small electric motor. A drive shaft was attached to the rear axle by pully.
*1g) LIFE 1955年7月25日 p84-85  パワーラマ展示会開催予告「一億馬力のディーゼル」
*1h) LIFE 1955年9月26日 p73-75
  http://books.google.co.jp/books?id=uFYEAAAAMBAJ&pg=PA73&lpg=PA73&dq=Powerama+life+1955&source=bl&ots=yTH8XNsyiD&sig=DSwY1QusXuxxkiPV209G4I2-HpM&hl=ja&ei=DbzWTLCHHYqmcM3nwdQL&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=9&ved=0CEoQ6AEwCA#v=onepage&q&f=false
  p73 虹色のディーゼルランド 夜景
  p75 ディーゼルトラクターのダンスショー、軽量流線型のディーゼル機関車
  p76 ネットコーラス、車上のプール
*1i) 写真集 http://electrospark.blogspot.com/2009/11/gm-powerama-chicago-1955.html
*1j) http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,893090,00.html
  General Motors, whose car-studded Motoramas have become one of the brightest offerings in auto showmanship, decided last February to bring belated glamour to the plain-Jane diesel engine. Beside Soldier Field on Chicago's lake front, the company strung out eight miles of electrical conduits, laid 500,000 sq. ft. of reinforced paving, built a permanent, 204-ft.-long bridge over busy Lake Shore Drive. This week General Motors was ready to raise the curtain on "Powerama," a $7,000,000, 26-day, seven-day-a-week diesel opera.
  In rainbow-colored Dieseland, divers will splash into four feet of water in the world's biggest dump truck (50 tons), and the public will tramp around a host of diesel-propelled attractions ranging from an 85-ton atomic cannon to a 63-ft. shrimp boat.
  The star of the show: G.M.'s new, 10-car, 400-passenger Aerotrain, which is twice as light and less than half as expensive as conventional passenger cars. To make the diesel debut complete, the company has built a grandstand where 7,000 spectators can watch an hour-long musical (title: "More Power to You"), featuring a top-hatted elephant in a test of strength with a diesel bulldozer (the diesel wins), French acrobats performing from a 70-ft. crane, 35-ton bulldozers doing the mambo, girls posturing on a fishnet held aloft by two giant cranes.
*1k) http://viewlinerltd.blogspot.com/2008/12/1955-general-motors-powerama-exhibit.html
*1l) ディーゼルエンジン
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%AB%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3
*1m) ルドルフ・ディーゼル
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%AB
*1n) http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/30980/1/sk012003029.pdf
*1o) http://www.mabuchi-motor.co.jp/cgi-bin/catalog/catalog.cgi?CAT_ID=fa_130ra
*1p) 映画「誰が電気自動車を殺したか? 」Who Killed the Electric Car? 監督:クリスペイン
*1q) "Sun's light powers Tiny Car", Popular Science, vol.167, No.4, p56, Oct.1955.
  http://books.google.co.jp/books?id=LCYDAAAAMBAJ&pg=RA1-PA56&dq=Popular+Science+sunmobile+GM&hl=ja&ei=YkvhTMjtFIbCcabUvJcM&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=1&ved=0CC0Q6AEwAA#v=onepage&q&f=false
Sun's Light Powers Tiny Car
SUNLIGHT runs this 15-inch Sunmobile built by GM researchers. ... Is the Sunmobile a forerunner of full-size sun-powered cars? No, says GM. Even 100-percent-efficient cells could produce only 12 hp. for the average car.
 太陽光は、GM社の研究者が作ったこの15インチのサンモービルを走らせる。「サンモービルは、フルサイズの太陽動力車の予兆なのか?」「いや、違う」とGM社は云う。仮に変換効率100%の太陽電池ができたとしても、平均的サイズの車で得られる電力は12馬力くらいしかないからだ。

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第一稿   2006.01.01.
追記    2006.09.24.
追記    2006.10.14.
一部訂正  2007.08.07.
引用ウエブサイトについて更新  2010.10.05.
全面改定 2010.11.12.

Copyright Satoshi Maeda@Solar Car Archaeolgy Research Institute
太陽能車考古学研究所 2006.01.01