Day 7 | 本戦オンロード2日目 | The 2nd Day of On-Road Event | ||
Day 8 | 本戦オンロード最終日 | The 3rd Day of On-Road Event |
2015年1月17日 ADSC本戦 Day 2
17(Sat).Jan.2015. Abu Dhabi Solar Challenge 2015 On-Road Event Day 2
本戦2日目、ソーラーカーは前日ゴールのマスダールシティの駐車場から、シャムス・ソーラーパワー・ステイションまでトレーラーで搬送され、シャムスを起点+中間点としてアブダビ国土を、ほぼ南北に往復する325kmのコースを走る。
スタッフは二手に分かれ、半数は05:00から行われるマスダールシティでのソーラーカー積み込みとシャムスへの搬送に付き合っているはずだ。 僕を含めて残り半数のスタッフはインスペクターカーに分乗してホテルからシャムスに直行する。スタートは10:00なのでそれまでに着けばよい。
この日、毎朝4時にセットしていたアラームに初めて起こされた。
06:00 朝食
06:30 ロビー集合 機材の積み込み等々の後
06:55 シャムスに向けてホテルを出発
「夕べ、GPSを見て作ったんだ。これを読んでナビしてくれ。」
とスティーブに手渡されたのは、シャムスまでの道順が書かれた小さなメモ。
「昨日の帰り道はヒートアップしてお互い疲れたな。
英語で話さなきゃならないのが、お前にとってストレスだってのは解っている。
俺は日本語は全く話せないからな。」
彼はそう言ってニヤっと笑った。
07:35 E22を西に向かう。
後発組スタッフは車4台に乗り込み車列を作って走る。僕たちの車両は2台目だ。E22は元々のルートの初日に走るはずだったアブダビの北岸の海岸線を通る幹線道路である。交通量は割と多い上に、延々と工事中である。確かにこのコースをオンロード・イベントに使うのは無理がある。僕は地元警察の介入理由に邪な疑念を挟んでしまった自分を恥じた。
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道を挟んで左右に、海と砂漠を対比する情景を思い浮かべていた想像は完全に裏切られた。海岸線までは少し距離がある上に、ほとんど起伏が無いので海は全く見えず、海岸側に見えるのは高圧送電線のタワーだけだ。
08:07 E11を出て、南下=内陸に向かうE45に入った。
これまで走ってきた道には必ず道路脇に椰子の木が植えられていたが・・・・・
「何もない!」
「Anywhere Nothing!]
ふたりが同時にこう呟いた。見えるのは砂と送電線だけだ。
「これがアブダビの本当の姿なんだな。」
遥か彼方で空と大地が交わっている。たまにすれ違うトラックを除けば、目にはいるのは砂漠、砂漠、砂漠・・・・・
08:27 マディーナット・ゼイド
E45が緩やかに左に曲がり、砂漠の中にある街:マディーナット・ゼイドに入った。Yas島のホテルを出てから137kmである。
車道をラクダが我が物顔に歩いている。
周囲に建物が増えてきた。近くには空軍の基地もあるはずだが見えないし、見えたとしても写真を撮るのはNGだ。
回りの様子に気を取られていると
「間違った。」
行き止まりだ。またまた道を間違えてしまったらしい。昨日、なんども道に迷ったのは、僕たちが特に方向音痴だという訳だけでは無さそうだ。
道路はいたるところ工事中で、地図すらあまりあてにならない。新しい道がどんどん作られている。道路を作り、電気を引き、道路脇に水を引いて木を植え、そして人が住む街を作る。アブダビはそういう手法で国土のほとんどを占める砂漠を緑化しようとしているのだろう。
08:55 なんとか元の道を探り当てて街に戻ることができた。
09:05 ガソリン補給
スタンドではプリンシピアチームのメンバーも伴走車にガソリン補給していた。
09:10 ガソリンスタンドを出る。・・・・目的地に向かうには一度砂漠に出なければならないが、今度はその道が解らなくて街中をウロウロ。
09:18 ようやくシャムスに向かうE45に乗ることが出来た。
09:30 シャムス・ソーラーパワーステイション到着。
ここは世界最大級の太陽熱発電所、その正門の前のスペースが仮設のソーラー・ヴィレッジである。今夜の宿となる男性用の300人用大テント(冷房がキンキンに入っている)、女性用の40人用大テント、他に男女別の礼拝所用テント、シャワールーム付きの手洗い(なんと、お湯が出る。)、HQのテント、それに各チームのソーラーカー格納用テントが15張り。男性宿泊用の大テントはバスケットコート2面が楽々取れそうな巨大サイズである。「立って半畳、寝て一畳」なんて感覚は、土地面積がありあまっているこの国の人には無い。
ソーラーカーは既に到着しており、各チームともスタート前チェックと最後の太陽光充電に忙しい。
スタート前のブリーフィング
スタート進行
各チーム用の15張りのテントにはそれぞれのチームナンバーとチーム名が表示されている。オキナワチーム用のテントは空、結局この日のスタート時にオキナワチームの姿を見ることはできなかった。
10:00 レース開始
スタートは昨日の着順に PI、ミシガン大、パンチ、アロウ、SOCRAT、の順。昨日と同様、僕はスティーブが運転するインスペクター1号車に乗り込み、前から4番目の車両の後ろに付き、レース進行を監視する係である。
PI:Petroleum Institute
ミシガン大学
パンチ・パワートレイン
チーム・アロウ
10:04 アロウに続いて発車。
まずはE45を南に向かう。正面に太陽、眩しい。
10:25 アロウがパンチに追いつき、追い抜きにかかった。
10:30 道の脇に緑が増えてきた。
アブダビの内陸、サウジアラビアとの国境に近いところに東西100kmに渡って泉が点在するリワ・オアシス(Liwa Oasis)地帯に差し掛かっているのだ。
10:38 リワ・オアシスの中心、リワシティで進路を左:東に曲がりE90に入る。
パンチを追い抜いたアロウは既に視界から消え、かなり先に進んでしまった。
周囲はこれまでの比較的平坦な地形から一転して、まるで山岳地帯のように起伏が大きくなってきた。道路脇に等間隔に生えている椰子の木は人工的に植えられ、点滴水耕システムにより維持されているのだろうが、砂漠の中にも灌木か、草か、点々と緑が見えている。道脇には時折、街や学校が見える。地下水を利用してデイツ(ナツメヤシ)の栽培が昔から行われているらしい。
11:19 前方に比較的大きな街が見えてきた
リワ・オアシスの東端の街 ハミーム(Hameem) 今日の第一の折り返し地点である。
「もうしすぐラウンドアバウトがある。そこでUターンだ。」
「え? 曲がらないのか?同じ道を引き返すのか?」
「そうだ、同じ道へUターン・バックだ。」
まいった、この時点でスティーブが全く地図を見ていないということが明らかになった。帰り道で迷っていたら洒落にならない。
11:21 折り返し点は街の入り口のラウンドアバウト。
「いつもは助手席にワイフがいて、ナビしてくれるんだ。
俺は彼女の云うとおりにハンドルを切ればいいんだ。彼女は最高のナビゲーターさ。」
「そうかい。なるほど、よくわかったよ。」
こりゃ、ラリーブックから目を離す訳にはいかないなと、僕は覚悟を新たにした。
ラリーブックには出発点からの距離と道ばたにある目印が順に記載してあり、ラウンドアバウトでの出口の番号まで書いてある。ただし完璧ではないし、すべての目印(多くはパーキングエリア、ガソリンスタンド、交差点、Uターンポイント、ラウンドアバウト、目立つ建物が道路の左右どちらに見えるか等々)が書いてある訳でもない。最も頼りになるのが出発点からの距離なので、自動車の走行距離メーターと目印を対照しながら進むのが最も確実だ。
しかし、昨日も今日も、スタート時に距離計をゼロリセットするのを忘れており、余計な計算をしながらチェックしなければならない。スティーブが距離計を読み上げてくれるのはありがたいが、「three hundred and twenty one killo meter」を頭の中で「321km」に翻訳し、頭の中でゼロリセットし忘れた差分の「183km」を引いて、現在の走行距離「138km」を導き「one hundred and eighty three killo meter from start point」と返すのが、疲労した脳にはかなり辛い。たぶん、これって右脳と左脳を同時に使ってるんだろうな。
11:23 「ソーラーカーだ、写真を撮れ!」
スティーブが叫んだ。対向車線を走る東海大学チームとのすれちがい、その2分後にヒロシマ、さらにその3分後にアポロとプリンシピアが並んでいるところとすれ違った。第2グループも接戦になっている。
4位ポジションはパンチがキープ。我々もその後に付いて走る。これ、チームにすれば、ずっと監視されてみたいで、あまり気持ちよくは無いだろうな。
11:46 イリノイ大学チームとすれ違い
11:49 オレゴン大チームとすれ違い
12:00 再びリワ・シティで右折し、E90から別れてE45を北上するルートに乗る。直後にエコソーラーとすれ違った。
太陽を背に受け、北に向かう。
12:22 パンチチームのはるか前方にソーラーカーらしい車隊列
微かに見えるが遠すぎてどのチームかわからない。
12:30 スタート地点だったシャムスのソーラーパワーステイションを通過。
通り過ぎて、さらに北、今朝方通ってきた道をE11との分岐点まで北上する。
パンチチームの記録担当が奮闘中。先に走って、撮影ポイントで待ちかまえ、撮影が終わると車に飛び乗ってソーラーカーを追いかけ、追い越し、次の撮影ポイントまで先回りして待ちかまえる。何度も何度もこれを続けるわけだが、ソーラーカーは、ほぼ制限速度の上限目一杯で走っているので、そう簡単ではない。
12:40 ケンタッキーフライドチキンとピザハット
来るときには気が付かなかったが、道路の右(東側に)延々とコンクリートの構造物が続く。鉄道の線路にようにも見えるが、よく解らない。前方には引き続きパンチ、ソーラーカーが逃げ水に乗って道路の上を滑って行くようだ。
13:14 北の折り返し点。
E11への立体交差手前のラウンドアバウトでUターンバックして再び南を向き、シャムスのソーラーパワーステイションに向かう。今朝方「Anywhere Nothing!」と呟いた道だ。ここからマディーナット・ゼイドまで50km。今度は迷わずに行けるだろう。
しばらく「何もない」砂漠を走り続けると、道の脇に少しずつ緑が増えてくる。
13:42 マディーナット・ゼイドに入った。
「後ろからソーラーカーだ。」
13:43 SOCRATが、パンチに追いついてきたのだ。
SOCRATはそのまま追い越し車線に入り、二台のソーラーカーが並んで信号待ちをするレアな光景となった。
我々もパンチを追い抜いて4位ポジションに付いたSOCRATに続いてパンチを抜かねばならない。スティーブがトランシーバー(米国人は「Radio」と呼ぶ)を手にしてパンチのドライバーに呼びかける。
「こちらインスペクター1号車、今から貴殿を追い抜く。」
「了解、ノープロブレム」
13:47 SOCRATに続いてパンチを追い抜くと、
今度はすぐ前にNo.2ミシガンが現れた。SOCRATはそのままミシガンを抜いて行く。市街地は速度制限が60km程度なので、ここでの追い抜きはペナルティ覚悟の上なのだろう。
SOCRATに追い抜かせたミシガンが、追い越し車線に入った。走行レーンにはNo.30を付けた伴走車。その横からチラリと4輪ソーラーカーの姿が見えた。
「No.30はどのチームだった?」
「アロウだ。」
ゴール間近の市街地で大混戦である。
13:55 ミシガンがアロウを抜く。
ゴール目前だが、アロウは不調らしくそのまま道路脇に待避して止まっってしまった。僕たちはミシガンを追ってそのまま走り、
13:56 ゴール。
先にゴールしていたのはSOCRATとPI
SOCRAT のゴール時間は 13:52:19
2着のPIは 13:52:29
1着と2着の差は、僅か10秒。その一分半後に、
3着のミシガンは 13:54:01
僕たちのすぐ後ろに付いていた4着のパンチは 13:54:16
15秒差の3着と4着の間に、僕たちインスペクターカーが挟まっていたのだ。
14:07 少し遅れてアロウがゴール
5着のアロウは14:07:59
14:23 ヒロシマ
14:38 プリンシピア
14:35 アポロ
14:58 トーカイ
15:16 オンダ・ソラーレ
16:00 ZHAW(チューリッヒ)
16:21 オレゴン大
台湾「アポロ」チーム
「応急の前輪ハブの調子はどう?」
「マアマアだ。」
配られていたランチボックス:インディカ米のピラフの上にチキンの丸焼きが半身「デーン」と乗っているヤツを学生メンバーがしっかり確保してきている。このあたりの機動力は高雄応用科技大と東海大がダントツだ。
「アイ先生、そんなの今食べたら、ディナーが食べられ無くなっちゃうよ。」
「いやあ、ハラペコなんだ。ファーストフードさ。お前も一緒にどうだ。」
東海大チーム、調子悪かったトラッカーが復調し、ようやくまともに全部のセルから充電できるようになったとのことだが、どうもモーターの調子が良くないらしい(一番云いヤツを予戦で燃やしちゃったので)。スピードは出るがトルクが無い、高速セッティング風で、少々オーバーヒート気味らしい。
16:34 オキナワチームの車両がトレーラーで運ばれてきた。
昨日、YMCをスタートしたが、途中で止まりマスダール・シティにトレーラー輸送。駐車場で徹夜で作業して、ついに飯塚氏ダウンで今は就寝中とのこと。
16:40 ソーラーパワーステイションの見学ツアー
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デイルがヴァンを運転、現地で働いている人が一緒に乗り込んで解説してくれた。二次元放物面鏡で太陽光を集光し、焦点を通パイプ内の水を熱して蒸気発電するとてつもなく大がかりな施設である。何より貴重な水は、巨大なコンデンサで冷却改修して再利用。
ズラリと並んだ太陽追尾式の二次元放物面鏡
集められた熱水はここで蒸気化されてタービンを回し
この巨大なコンデンサで(貴重な)液体の水に戻される。
17:29 エコソーラーがトレーラー輸送されてきた。
18:30 サンセットツアー
再生エネルギーオタクを自称するオキナワチーム専属ジャーナリストのアサクラさんにパワーステイションツアーを勧めたが、残念ながら店じまい。代わりに展望台に行くというので、ふたたびデイルのお世話になることにした。これは大正解。
ステイション内からは見えない、プラント全体を一望。
SOCRATとミシガンチームの学生メンバーが砂の上で追いかけっこをしている。
砂漠の地平線に沈む太陽
18:30 少しでもエネルギーを、と粘っていた充電タイムもそろそろ終了。
19:00 インスペクター達がテーブル席に集まってきた。
「サトシ、楽しんでいるか?」
とダンさん。
「もちろん。ソーラーカーレースは何時だって楽しいが今回は最高だ。」
「ガッハッハッハ、どうだ、次も来るか?」
「ウッ」と答えに詰まると、みんなに大笑いされた。
即答できなかったのは(次はソーラーカーと一緒に来たいな)と思ったからだ。
ダンさんにケータリングサービスの係員が耳打ちしにきた。
「準備OKか、よし、ディナーだ。
黄色いシャツを着てるメンバー(インスペクター)が一番だ、みんな付いてこい。」
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あっというまに長蛇の列。砂漠の露天での大宴会が始まった。
ビュッフェ形式だが、肉料理は係の人が切り分けて盛りつけてくれる。暗いので何がなにやらよく解らないが、大きな骨が剥き出しになっている。ワイルドだ。
一皿持って東海大チームのテーブルへ。
「ようやく、まともなメシにありつけましたね。」 とキムヒデ氏。
料理が無くなりはしないかと心配していると、
「客人をもてなす料理が足りなくなるってのは、この国の人には恥なんですよ。だから絶対に余るはず。」
などと話しているうちに学生メンバーが次々に料理を分捕ってきて、あっというまに一番豪勢なテーブルになった。自然と受け持ちが決まっているようでなかなかの連携プレイである。
「君たち、そういう能力を、ソーラーカーに使えよ。」 これは池上氏の一言。
続いて、オキナワチームのテーブルへ。飯塚氏も復活している。
「いやあ、昨夜は久しぶりに完徹しました。」
電子回路全滅に近いところから、まがりなりにも走れる状態まで持ち込む執念には敬服する。
「もう一巡、並びませんか?」ということで再び列へ。
肉料理のところまで行くと、最初は解らなかった肉の塊の正体が見えてきた。大皿の上にゴロンと大きな動物の頭蓋骨。
「これ『ヤギ』です。」
沖縄県民の見立てだから確実だとの保証付き。インディカ米を敷き詰めた上に、煮込んだ肉塊やハーブを載せて、盛りつけてあったのだ。ヤギの御カシラ付きである。
20:50
「サトシ、お楽しみのところ申し訳ないが、ミーティングだ。」
と、グレッグが呼びに来た。盛り上がっているディナー会場から少し離れたヴァンに集まり、今日のインスペクター会議。懐中電灯でオブザーバーメモを読みながら、昨日と同じ地味な細かい作業だ。
22:40 インスペクター会議終了
星空の大スペクタクルを期待したが、うっすら砂埃で霞んでいるのか、周囲が割に明るいからか、日本の田舎の夜空と良い勝負で少々期待はずれ。
今夜の宿は大テントである。
20150125 初稿(FB投稿)
2015年1月18日 ADSC本戦 Day 3 レース最終日 Day 8 本戦オンロード最終日 The 3nd Day of On-Road Event
18(Sun).Jan.2015. Abu Dhabi Solar Challenge 2015 On-Road Event Day 3
04:00 Shams
寒い。砂漠の夜の冷え込みは想像を超えていた。冬服を持って来なかったら風邪をひいていたところだ。宿泊所となった大テントの床には絨毯が敷き詰められていたが、そのすぐ下は砂。手作りの薄手のシュラフで持ちこたえらえられたのは、アルミ蒸着の断熱シートを上下に入れておいた効果がそれなりにあったからだろう。
寝住まいを直して再びウツラウツラ、
05:30 周囲のゴソゴソと、遠くから聞こえる微かな低い唸り声で目が覚めた。
コーランだ。昨夜も、そして今朝方も、礼拝所には常に灯りが点されていた。
暗がりの中で寝袋を畳み、荷造りしてテントの外に出た。Shamsは寝覚めの時を迎えていた。PIのテントからは電動工具の音が聞こてくる。
オレゴン州立大のメンバーが朝の充電場所を確保しようと右往左往している。昨日のゴールが遅かったため、十分にバッテリー回復のための充電時間が取れなかったのだろう。
やがて他のチームも動き出した。が、皆バラバラの方向だ。
「昨日、太陽はこっちに沈んだよなあ、だから夜明けはきっとこっちだ」
なんてやっている。スマホにはコンパスアプリも備わっているし、ソーラーパワーステイションのミラーの向きがどちらを向いていたかを思いだせばコンパスが無くとも、概略の方向は解るはずだ。
早くから起きていたダンさんが見かねて、
「ソーラーガイのくせに、日の出の方向もワカランのか?」
「東はこっちだ。さらに、今は1月だから太陽はそれよりも少し南よりから昇るんだ。」
と、直々の指導である。
今日のスタートは8時と早い。低高度の太陽からの日照が期待できそうなところを探して、各チームの陣取り合戦だ。
06:45 夜明け。
各チーム、ほぼ真横からの太陽光を受けるためにパネルを垂直に立て、フラッグや人が作る長い影を避けながら必死で充電する。
07:30 朝のチームミーティング
「いいか、今日は特別なメニューがある。『ラクダ飛び出し注意』の看板のところで5分ストップして、ソーラーカーとメンバーの写真を撮るんだ。いいか5分だぞ。」
豪州WSCでは『カンガルー注意』の看板と記念撮影するのが定番だ。それのアラブ版である。ADSCをWSCのような伝統あるイベントに育てたいダンさんの拘りだ。
08:05 2日目、4番目スタートのSOCRATに続き、インスペクターカー1号車発進
昨日のゴール順は、
SOCRAT、パンチ、PI、ミシガン大、アロウ だったが、SOCRATは22分のペナルティ。前に出るためにスピード違反しすぎたのだ。PIはさらにペナルティが大きく初日13分、二日目14分である。結果、2日目のトップはペナルティが僅か1分の パンチ、以下、ミシガン大、PI、SOCRATの順になり、1日目、2日目トータルでは、PI、パンチ、ミシガン、アロウ、SOCRATの順である。本来なら4番目にスタートするのはアロウだが、準備に手間取ったのか、後方からのスタートとなった。
上位の車両は、みなほぼ制限速度一杯で走っているので、追い抜くにはスピード違反せざるをえない。勝負はペナルティの多少で決まるのだ。
今日のコースはshamsから昨日と同じ道E45を通って南に向かい、リワ・シティで右(西)に曲がり、E90にてリワ・オアシスの西の端まで走り、そこから北に向きを変えてE15で海岸から20kmの距離にあるGhayathiまで北上、そこでUターンして同じ道をShamsまで戻るコースである。416kmをノンストップで走らなければならない。東京−京都間に相当する距離、鈴鹿サーキットなら70周である。
08:27 SOCRATがパンチに追いつき、追い抜いた。
本来、パンチの後ろを走るところだが、スティーブはSOCRATを追って、どんどん先に進んでしまう。あれっ?と思ったが運転は任せておこう。
昨日も通ったリワ・シティの分岐点を今日は西に曲がる。
しばらくは、オアシスの灌漑による緑が続くが・・・・・・
緑は次第に乏しくなってゆく。
08:59 ミシガン大がラクダ横断注意の看板前で写真を撮っているところに遭遇。
「よし、俺たちもここで写真を撮るぞ。」
と、スティーブが車を停めるが・・・・・・慌てていたので、
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カメラの設定を誤り露出オーバーである。痛恨のミス。
09:14 E90からE15へ、進路を北にとる。
砂漠、砂漠、砂漠
これまでの道では道路脇に高圧電線があったが、E15に入ってからは、ラクダよけの柵だけだ。
09:20 「車を停めて写真を撮ろう」とスティーブ。
砂丘に見とれていると遥か彼方にソーラーカー。ミシガンだ。
ミシガンを追って再び車に飛び乗る。時折ラクダの群れが見える以外はひたすら砂漠。
09:43 ミシガンがパンチに追いつき、追い抜いた。
僕たちもパンチを追い抜き ミシガンについて行く。
10:00 「ガスが半分だ。」
今日のゴールのShamsまで、まだ250km程度は走らなければならないし、さらに今夜はそこからYas島のホテルに戻らなければならない。
「近くに街はあるか?」
「無い。折り返し点が唯一の町だ。折り返しのランドアバウトは街の入り口。
ガソリンスタンドはさらにその先の街の中にある。」
「解った。時間を稼がなきゃならんな。少し飛ばすぜ。」
10:05 PIがラクダ看板で記念撮影しているところがミシガンが追い抜いた。
さらにミシガンは飛ばし・・・・・・
10:19 SOCRATに追いつき
SOCRATを追い抜いた。ミシガンが先頭で、僕たちはその後ろに付いていることになる。
10:27 ミシガンを追って 折り返し点の Ghayathi 入り口の大きなラウンドアバウトに入った。
ソーラーカーはここで折り返して同じ道を戻るが、僕たちはガソリン補給のために街中まで入らなければならない。Ghayathi の折り返し点のラウンドアバウトは三叉路だ。
「ラウンドアバウトの最初の出口を曲がってくれ。」
「いや、俺はこっちだと思う。」
彼はそう言って二番目の出口を曲がってしまった。90度違う方向だ。おいおい。
確かに最初の出口はいかにも細そうな道ではあった。しかし彼が選択した一見広い道は街の外周を四角く囲う道路だ。道路はすぐに市街の角のラウンドアバウトに差し掛かり、その後も成り行きで太そうな道を選んで進んでいくが、結局工事中で行き止まりだ。
「スティーブ、車を停めて僕の話を聞け。」
「いいか、最初のラウンドアバウトで間違えて、こちらの道に入ってしまったんだ。
この地図(Google Mapの写真)のとおり、今はこの行き止まりに止まっている。ここがさっきの二番目のラウンドアバウトだ。ほら、この方向にしか曲がれなかっただろう。」
彼は、ようやく「なるほど」と云う顔をした。
「ADNOC(ガソリンスタンド)はここだ。少し戻って、最初の交差点を左に曲がるんだ。」
Ghayathi はアブダビ首長国の西の端に近いベドウィン時代からあった古い町だ。村と呼んだ方がいいかもしれない。おそらく、その元々あった小さな市街を取り囲むように太い道路を配置して、市街地を広げようとしている工事の最中なのである。
「解った。お前の云うとおりに走ろう。左へターンだな?。」
10:38 ADNOCに到着して無事にガソリン補給。かなり時間をロスしてしまった。
Ghayathi の街を出て、復路、再び砂漠の道 E15 を戻る。
10:52 東海チーム ラクダ看板で撮影中
10:53 プリンシピアとすれ違い
10:56 アポロ
11:00 オンダソラーレ すぐ続いてヒロシマ
11:05 ラウンドアバウトに差し掛かった。
「左折だったな?」
「え???」
左折するのは、まだまだずうっと先のはずだ。
「違う、まっすぐだ。」
「いや、この道だ。道路サイドの柵が同じだろう。」
確かにそうだが、何かおかしい。しかし窓の外の景色は砂漠、砂漠、砂漠だ。
地図とラリーブックのチェックポイントと外の風景を見比べながら、なんとか現在位置を探ろうとするが、そもそも目印らしい目印が無いし、距離計はガソリンスタンド探しでウロウロした距離が加算されてしまい、あまり当てにならなず、さっぱり解らない。
僕は違和感を抱えたままモヤモヤしていた。自信ありげだったスティーブも、実はさほど確信はなかったようで少し無口になっている。交通量は極端に少なく、他に車は走っていない。しかし来るときも似たようなものだった。
前方に対向車が見えたときにスティーブが先に気が付いた。
「やっぱり間違えた。来るときに通った道は片側二車線だったが、この道は片側一車線の対面通行だ。」
やはり、幹線のE15から、マディーナット・ゼイドにショートカットする枝道に入ってしまっていたのだ。大あわてで戻る。ガソリンスタンド探しと合わせると、約25分以上のロスだ。
「すまん、俺が間違えた。」
「いや、これは50/50だ。僕にも責任がある。」
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11:17 「前からソーラーカーだ。写真を撮れ。」
とっさにカメラを上げてシャッターを押し、モニターを見て僕は仰天した。
「スティーブ、見てくれ。ラクダ看板とソーラーカーが同時に写っているぞ。」
「ヒャッホーやったな。ミラクルショットだ。」
カメラは、相対速度200km/hr近くですれ違うインスペクター1号車と ZHAWチームのソーラーカー、2台が交差するポイントにラクダ看板が存在した劇レアな瞬間を捉えていたのだ。二人して道に迷いかけた先ほどの気まずい雰囲気は吹っ飛んだ。
11:32 スタックしちゃった? 取材チーム
11:34 パンチに追いつき、追い抜いた。
11:39 イリノイ大とすれ違い
11:49 オレゴン大、続いてエコソーラー。
11:50 SOCRATと並び、
SOCRATを追い抜いて、さらに先を急ぐ。
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12:00 リワオアシス地帯に戻ってきた。
E15 が E90 に合流する三叉路のラウンドアバウトに到達した。
定点でレース監視しているドクから情報収集。先頭集団はミシガン、PI、パンチ、SOCRAT、少し遅れてアロウが追っている。展開とのこと
ドクと話している間に抜いていったSOCRATが4位ポジションなので、その後に続いて走る。ようやくインスペクター1号車の定位置に付けたことになる。
12:09 SOCRATに続き、リワオアシス沿いの道、E90を東に向かって走る。
「後部座席のペーパーバッグを取ってくれ。ランチタイムだ。」
スティーブは昨夜の大テントでの宿泊を避け、Yas島のホテルに戻り、今朝方早くにShamsまで戻ってきたのである。二回目とはいえ、よく道に迷わなかったもんだ。ペーパーバッグの中身はホテル売店のサンドイッチである。
「ホテル売店のサンドイッチだな?」 「そうだ。 お前は何か持ってるのか?」
「ああ、用意してある。これで十分だ。」
「なんだ、それは?」
「サプリメント入りのクッキーさ。一本どうだ?」
「香りがフルーティーだな。」
僕の今日の朝食とランチはカロリーメイトのフルーツ味である。海外に出るときは何時も携帯してくるのだが、ホントに役に立ったのは初めてだ。
「なあスティーブ、僕が最初にこのイベントのスタッフやらないか?と誘われたとき、そのレターには『フライトはビジネスクラス、ホテルも食事も最高のを準備する』って書いてあったんだぜ。でも実際にはフライトはエコノミーで、ランチはこれだよ。」
「ハッハッハ、俺もダンに同じ事を云われて誘われたよ。でもまあ(ASCだって)何時だって似たようなもんだ。」
僕の体格では、エコノミーの小さな座席もさほど苦痛ではないし、そもそもアブダビのホテルライフや食事を楽しみに来たわけじゃない。僕はソーラーカーレースの運営を手伝いに来たんだ。それに、砂漠のど真ん中でカロリーメイトを囓るなんて、そう滅多にできることじゃない。これこそが最高のランチだ。
12:15 SOCRAT を追い抜き。
ランチで気が変わったのか、スティーブはスピードを速め、しばらく追走していた SOCRAT を追い抜いて、どんどんと車を進めてしまっう。が、まあ、運転は任せておこう。何度も道を間違った教訓を踏まえ、道路上の目印とラリーマップに集中しよう。
12:32 リワ・シティ
E45に分岐するラウンドアバウトで左折し北に向かうところだが、間違えて二つある大きなラウンドアバウトの手前側を曲がり、リワ・シティの街中に入ってしまった。すぐに間違いに気が付いた二人は、今回は意外に冷静だった。
「こちらに行けばショートカットして、目的の道路に入れるはずだ。」
アブダビでの土地感が少しだけ身に付いてきたのかもしれない。
12:57 マディーナット・ゼイドへの道案内
「スティーブ、後30km足らずでゴールだ。」
「何だと? マスダールシティまでは、まだ150km以上あるぞ。」
「???」
一瞬、スティーブが何を言っているのか理解できなかった。
「ちがう、今日のゴールはShamsのパワーステイションだ。ソーラーカーはゴールした後でトレーラーでマスダールシティに搬送されるんだ。」
「なんだ、そうだったのか。」
危ない危ない。ボケッとしていたら、ゴール地点を通り過ぎてしまうところだった。
13:11 道の脇の高圧鉄塔が混み合ってきた。
ラクダ横断注意の看板、そしてラクダレーストラック
13:12 パワーステイションへの表示板
13:14 ゴール
シャムズ・パワーステイションに到着した。
先に到着していたのはミシガンとPIの二台。パンチをどこで抜いちゃったのだろう?
僕たちがゴールした後で
SOCRAT
東海大
東海大学チーム、本日4着である。怒濤の追い上げであるが・・・・あれ? 後輪スパッツがない。
「パンツ、どうしたの?」
「モーター冷やすのに脱いじゃった。」
13:35 パンチ
14:05 アロウ
14:11 アポロ
14:18 HIT ヒロシマ
14:27 オンダソラーレ
14:30 PIのゴールシーン、再撮影
1時間ほど前から近くのガールズスクールの女の子達がソーラーカーの見学にやってきた。みんなハッチャケていて、すごく可愛いのである。するとPIのソーラーカーが再びゴールポストへ向かった。何をするのかな?と見ていると、女の子達が旗を振ってPIソーラーカーのゴールに迎えるシーンを撮影しているのである。こういう演出には物凄く凝る。イメージの持つアピール力を心得ているのだ。
14:45 プリンシピア
オキナワチーム、今日はあまり走れなかったようだ。
15:00 レジストレーションから、長かった・・・・ホントに長かった車検を経て、予選、本戦オンロードイベント。
感慨に浸っていたいが、そんな余裕は与えて貰えなかった。
大テントの中でインスペクター・ミーティング開始 みな疲れているので座り込んだり、ゴロンと寝そべったり。
お弁当を済ませた女の子達が不思議そうにのぞき込みに来る。
総合成績は三日間のタイムとペナルティを集計しなければ決まらない。
女の子達が引き上げると、今度は男の子の一団がやってきた。学校は完全に男女別。大学でも講義は男女別々に行っているようだ
16:00 ミーティング終了 結果は後のお楽しみ。
広場にはソーラーカー運搬用のトレーラーが次々と入ってきている。ソーラーカーはここから、再びマスダールシティに運ばれる。チームメンバーもクタクタだろうが、もう一仕事して貰わなければならない。
16:30 ブラブラしているとゲイルにカメラを渡された。
「オブザーバーの集合写真を撮ってあげて。」
17:00 インスペクター達で、再び昨日の見晴台ツアー。
テクニカル・チームの中でも事務方は本当に忙しく、ブラブラしている暇もない。ようやく少しだけ観光する時間が取れたという感じである。
18:00 日が暮れると周囲は急に暗くなる。
HQを片付けているとダンさんとキャシーが道路脇の柵に貼ってあった長いバナーを取り外して持ってきた。別のメンバーが手際よく人数分に切り裂いて行く
「サトシ、君の分だ。」
記念にフラッグやパネル類を持ち替えるのはスタッフの特権らしい。
日没が近い。Yas島に帰ろう。もう一日、大仕事が残っている。帰り道、グレッグの運転する車と、スティーブと僕が乗った車で隊列を組んで走る。
アブダビに近づくまでは単調な道だ。しかし、その道路E11からYas島に行く道は、一昨日に迷って酷い目にあったところだ。グレッグが前にいるから大丈夫だろうと気を抜いていたら。
「オー、ヤツは間違えた。」とスティーブ。
グレッグがE11の出口から降り損ね、僕たちもそれに釣られてしまった。
「すまん」と無線でグレッグ。
「Yasレジャーロードを目指せ」「解った」
最後の最後まで、アブダビの道路には翻弄されっぱなしだ。
初稿(FB投稿) 2015.01.25-27.
Copyright Satoshi Maeda@Solar Car Archaeolgy Research Institute Copyright Satoshi Maeda@Team Sunlake
太陽能車考古学研究所
2006.01.01
The Place in the Sun