The Place in the Sun

三文楽士の休日

ABU DHABI SOLAR CHALLENGE 2015 and WORLD FUTURE ENERGY SUMMIT

ADSC2015 阿布達比周走記

ABU DHABI SOLAR CHALLENGE 2015 / THE ARABIAN SOLAR RALLY ROAD




序章 遥かなる砂漠の国へ
Prologue "To the Far Desert Land"


1973年07月20日 ( 20.JUL.1973. Dubay Air Port/United Arab Emirates)

 地平線まで続く荒涼とした大地を背景に、一機のジェット機がテレビに映し出されていた。アムステルダム発、羽田行きの日本航空のジェット機がハイジャックされ、アラブ首長国連邦のドバイ空港に着陸させられたのである。

   「ドバイって何処だ?」

 叔父が地図帳を持ち出し、中近東のページを広げて皆で探した。アラビア半島の東端にその地名はあった。まるで大地の果てだ。人が住んでいるのか?、どうして、そんなところに空港があるのだろう?

 「アラブ首長国連邦」という国の名前は、その地図帳には(まだ)載っていなかった。



On 23. July 1973, Japan Air Lines Flight 404 was hijacked by
Palestinian and Japanese terrorists. At that time the first time,
I heard the name of new country "United Arab Emirates".

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2004年05月21日 ドバイ国際空港 (21.MAY.2004 Dubay International Airport/United Arab Emirates)

 ギリシャに向かう途中、乗り継ぎのために立ち寄ったドバイ空港は、背景こそ砂漠の大地に違いはなかったが、空港の建物は豪華絢爛なビルに立て替えられており、空港内の世界屈指と言われる免税店には目がくらむような金細工のネックレスやジュエリー類が並べられていた。



May. 2004, on the flight to Greece (Phaethon2004),
we stayed for a short time in Dubai International Airport.
ドバイ空港 2004年5月撮影

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2014年03月01日 芦屋大学 (01./MAR.2014 Ashiya University /Japan)

 UAE:アラブ首長国連邦にてソーラーカーレースが計画されているという風聞は漠然と耳にしていたが、公的な場で明示されたのは、2014年3月01日に行われた、太陽エネルギー学会主催のソーラーカー、電気自動車製作講習会であった。この席で講習会の主催者兼演者の東海大、木村教授が、海外レース紹介としてSASC(南ア)とUAE(2015 United Solar Challenge)に触れたのである。総元締めであるアブダビの皇太子殿下が「100チーム集めて開催する」と豪語したらしい。



Professor Kimura (Tokai University) presented the planning of
"United Solar Challenge". コースと思われる太線は、UAEを
構成する全ての首長国を経由し、ほぼUAE全土を周回している。

2014年04月25日 (25.APR.2014 Letter from ISF Japan)

 ISF日本支部長の岩田氏からBBSに先行情報をいただいた。UAEで開催されるソーラーカーレースはISF公認。初回で準備不足もあり、まず大学20チームから開始、日本からは6−7チームの参加を希望しているとのこと。

2014年05月05日 (05.MAY.2014 "Abu Dhabi Solar Challenge" Press release)

 主催者による公式なプレスリリース。イベント名称は「Abu Dhabi Solar Challenge」に変更されていた。内容的には大義名分が前面に出ており、大会開催の意義は理解できるものの、参加者側の視点では内容がさっぱり解らない。それもそのはずで、この時点では細部はおろか、車両規則(レギュレーション)も、まだ固まっていなかった様子である。日本のソーラー関係者の間(少なくても僕たちの周辺)では、僕たち含め鈴鹿試走会の準備に焦りだしている時期でもあり、特に話題にされることは無かった。



2014年06月02日 鈴鹿試走会 (02.JUN.2014 Suzuka Circuit/Solar Car Tedt Drive Day)

 アブダビにあるPI(Petroleum Institute 石油資源大学、アブダビ国営石油公社の人材育成部門)ソーラーカープロジェクトの責任者である Dr. Fahad Almaskari 他、学生数名が試走会を視察。SUNLAKEブースにも立ち寄り整備中のSUNLAKE EVOLUTION の車体画像を撮影していった。ADSCを現実のイベントとして認識したのはこの時だ。



 後に知ることになったが、PIでは2013年04月にソーラーカー開発プロジェクト企画が立案され、同年08年に教員と学生による開発チームを結成、2014年02月には東海大学とソーラーカーの共同開発に関する協定を締結、03月末から断続的に共同作業が開始されていた。試走会時期を挟んだ5〜7月の約2ヶ月間には、PIのプロジェクトメンバー20名近くが日本に滞在してのテクニカルトレーニングと有力大学チームの見学などの真っ最中だった。
 加えてこの日、岩田氏から「レースのレポートを書く目的でADSCに参加しないか?」と打診いただいた。「???」自分の身の上に、何が起こっているのかを理解するのに数秒を要した。本業の方は何時クビになっても惜しくない頃合いになっているので会社を休むことに躊躇は無い。幸い、国際標準化の仕事の方も春秋に行われる節目の会議の間のやや閑な時期だ。が、本音を言えばソーラーカーを携え、競技者として参加したい。相手さえ見つかれば、大学チームと組んで名前を借りれば出来ないことはなかろう。レギュレーションはWSC、ASC,Suzukaのいずれかを満足していたらOKという、比較的ゆるい縛りにするつもりとのこと(結果的には、ほぼASCのレギュレーションが流用される形になった)。3輪OKなのは魅力だ。だが、今のチームは鈴鹿に参加するのが精一杯だ。ここは明日の日本を担う学生チームに、なるべくたくさん参加して頂こう。オイルマネーで豊かな国であるから経済的にはなんらか補助がなされるだろう。



2014年07月07日 (07.JUL. 2014 ADSC2015 Regulation first edition issued)

 車両規則書(レギュレーション)の第一版発行(その後改訂1.2版が08月24日にリリース)された。

2014年08月01-02日 ソーラーカーレース鈴鹿2014 (01-02.AUG.2014. Solar Car Race SUZUKA 2014)

 岩田氏には参加する方向で調整中である旨を表明、岩田氏からは車検でのアドバイザー、調整役的な立場を担当して欲しい旨依頼あり。米国、豪州、日本(鈴鹿)、同じソーラーカーではあるが、国が違えば文化が違い、ソーラーカーに対する考え方も同じでは無い。厳格さが要求されるレギュレーション(規則書)にまで記述を落とし込もうとすると、どうしても対立する部分が出てくるし、解釈のズレも生じてくる。それは、どこかの誰かの勘違いで引き受けることになってしまった国際標準化に関する仕事でも常時直面しているところだ。



 レースの方は、チャレンジクラス3位に入賞し、久々の表彰台に上がれたものの、ソーラーカーのシャーシに小手先では回復出来ないレベルの深いダメージを負ってしまった。活動継続にはシャーシの再製作に踏み切らねばならない。ADSCどころでは無く、チーム存続すら怪しいところだが・・・・ウチのチームの人たち、誰一人としてネガティブにならないんだよな。

2014年08月05日 競技長 Dan Eberle 氏が各チーム宛てに招待状を発送 (05.AUG.2014 Invitation from Mr. Dan Eberle)
 ソーラーカーレース鈴鹿が終わるのを待っていたのかのようにレース運営の実働部隊が動き出した。すでに規則書も発行されているはずだが手元にはない。細部は調整中でまだfixされていないようだ。

2014年08月29日 お台場 パナソニック (29.AUG.2014. Panasonic Show Room,Odaiba,Tokyo,Japan)

 東海大学が「アタカマ・ソーラー・チャレンジ」参戦の記者会見。主題は南米チリのアタカマ砂漠で開催されるソーラーカーレースへの参加に関する内容であったが、ADSC2015への参加も同時に宣言された。



Tokai University has press announced its participation in
Atacama Solar Challenge 2014 and Abudhabi Solar Challenge 2015.

2014年09月01日

 日本から7チームが仮エントリーし、さらに2チームが参加検討中と伝えられた。

 この頃に、飛び交っていたメールでは、僕の役割が「電気系の Chief Inspector 」になっており大汗をかいていた。Phaethon2004 にプレスパスで参加し、各チームに居候して一緒にラリーを回ったスロバキアのRuzinski教授に近い、気楽な立場をイメージしていたのである。世の中、それほど甘くは無かった。

 当方、ソーラーカーチームの一員である。毎年、国際格式のソーラーカーレース鈴鹿に参加しており、海外遠征経験も2回ある。しかし車検員をした経験は皆無だ。

 そのように正直に自己紹介したら Assistant Inspector に格下げになった。自分達の車両は比較的シンプルな鈴鹿チャレンジクラス。バッテリーはタフな鉛なのでバッテリー保護回路なんて付けていないし、キャパシタも搭載していない。ともかく、せめてWSCでは、どうやって検査しているのか位は、あらかじめ情報を仕入れておかなければならない。

 手元に届いた規則書の改訂1.2版を見ると、ASC (American Solar Challenge) のレギュレーションが基本になっているようだ。ASCは、北米大陸を縦断する3000-4000kmほどもある公道を使って行われる大規模なソーラーカーレースである。ADSCの競技内容がASCに比較的近いというのがASC準拠の規則が採用された根拠のようである。主旨は理解できるが専用サーキットで行われる鈴鹿の規則に比較すると、安全面に関係する要求がかなり厳い。



2014年09月07日

 仮エントリー7チーム中, 最も速く手を挙げていたチームが参加断念したという残念な知らせが入った。

2014年09月19日

 UAE現地で開催された説明会に、JICE:一般社団法人日本国際協力センター、EDO:日本アブダビ教育交流センターの現地駐在員、金森氏に参加頂いた。主催者側からの提示条件は以下の通り。
 参加費 3000 USD 免除
 車両運送の補助として、各チームに一律 14000 USD を支給

 海外チームは現地の大学なり企業とペアリングし、
 宿泊、食事、レース運営に必要な先導車、伴走車はペアリング相手が準備。
 ペアリングの意図は受け入れ側の教育と交流である。今回、地元UAEから参加するチームは1チームだけのようだが、主催国としては、将来的に地元から複数のチームが出るように誘導したいところだろう。海外有力チームとペアリングしての一緒にレースを体験するというのはペアリング相手側には最高の刺激になる。補助額 14000 USD については既に参加検討チームに内示されていた条件と同じで、根拠は二台一組でコンテナ格納+最小チーム員(6名)のエコノミー航空券とのこと。ソーラーカー二台一組でのコンテナ格納は僕たちも10年前に経験済みだ。ペアリング相手に依存するところが大きそうだが、極論すれば、ソーラーカーさえ準備すれば丸腰で参加できるケースだってあり得ると云うことである。



ペアリング説明会
 プレゼンしているのは、ADSC2015競技長の Dan Eberle氏
 立ち上がっている赤いシャツの人物はイタリア「Team Ondasolare」の
  Guiseppe Coia 氏(元 Team Futura、Suzuka、Phaethon2004にも参加)。

 説明会には、ADSC2015競技長の Dan Eberle氏(ASC) の他、Phaethon2004やSolar Car Race Suzukaにも参加経験のあるイタリアの Guiseppe Coia 氏(元 Team Futura)のプレゼンもあったようだ。

 10年前、ギリシャ開催のソーラーカーレース「Phaethon2004」に、僕たちは招待枠で参加することが出来たが、招待枠の恩恵は大会参加費の免除とメンバー8名分の宿泊費のみであり、車両のコンテナ運送と航空券は自分たちで工面した。WSCに参加しているチームは全てを自己負担して賄っているはずだ。それらに比べれば雲泥の好条件である。

2014年10月03日

 豪州の Aurora Team の参加検討が伝えられたが、最終の参加リストには名前が無かった。本当の理由はわからないが、Aurora Team の車両は、3輪が作るトラスに対して車体全体がフロートしている個性的かつ特殊な構造である。レギュレーションに合致させるのに難しい点があったのかもしれない。WSCにおける本場の顔とも云える車両が参加できないとなると、これは厳しい。一方で無理に合わせてまで出場しようとしないところは豪州気質なのかもしれない。実際、レギュレーションに準拠しない賞典外扱いでも、鈴鹿に参加し続けていたのが Aurora Team の気概だった。

2014年10月13日

 結果的に日本からの参加は東海大学、広島工業大学(静岡ソーラークラブとの混成チーム)、沖縄科学技術大学院大学(Team Okinawa)の三チームのみになったことが伝えられた。鈴鹿ドリームクラスの強豪達が参加しないのは寂しい。

 開催時期が日本の大学の試験期間と重なるのと、鈴鹿仕様のソーラーカーそのままでは参加できないところがネックだったのだろう。参加検討チームにレギュレーションが提示されたのが遅く、準備期間が少々短かったのはやむを得ない。第1回というのは、そういうものだ。

 3輪OKなので、WSCが4輪限定になった時のように、最初から作り直す必要までは無いが、鈴鹿仕様をASC準拠に合わせるには細部にかなり手を入れなければならない。設計に組み込んでなかったパーツを後付けで製作して組み付ける作業は、相当に面倒で手間がかかる上に、車体を重くしてしまう。実際、SUNLAKEの車両で参加することを仮想的にイメージしながら規則書を読み進めてきたが、かなり手強い。特に、贅肉を極限までそぎ落としているsuzukaのチャレンジクラスやエンジョイクラスの車両だと、かなりの後付部品(車内の可動部分のカバーなど)を付け加えなければならない。

 一方、台湾から高雄応用科技大の参加が決まったらしい。アイ先生がFBに投稿していた「OBを招集して開催された技術伝承会合」は、ADSC参加を念頭に置いた内容だったのだろう。

2014年10月24日

 技術コーディネーターの Gail から航空券が届いた。

2014年12月03日  参加チームリストが届いた。

No. Team Institution Country 
1 PI Solar Car Team Petroleum Institute UAE 
2 University of Michigan University of Michigan USA 
3 Nuon Solar Team Delft University of Technology The Netherlands - 
7 Fajir Prince Mohammed Bin Fahd University KSA - 
8 Punch Powertrain Solar Team Punch Solar Team VZW Belgium 
9 Team Ondasolare University of Bologna Italy 
10 NSIT Netaji Subhas Institute of Technology,
University of Delhi
India - 
12 Cambridge University Eco Racing Cambridge University UK - 
15 ZHAW Solar Energy Racers ZHAW (Zurich University of Applied Science) Switzerland 
17 ISU SCT Illinois State University USA 
25 SolarMobil Manipal Manipal Institute of Technology India - 
29 ECO SOLAR BREIZH Eco Solar Breizh/Mines ParisTech
/Ayyad University
France/Morocco 
30 Team Arrow Queensland University of Technology Australia 
32 Principia Solar Car Team Principia College USA 
34 SOCRAT Istanbul University Turkey 
55 Hiroshima Insutitute of Technology Hiroshima Institute of Technology Japan 
75 Tokai University Solar Car Team Tokai University Japan 
90 Team OKINAWA Solar Car Project STEM Okinawa Japan 
95 Apollo Solar Car Team National Kaohsiung University
of Applied Sciences
Taiwan 
       
256 OSU Solar Car Team Oregon State University USA  + 


 地元 UAE(アラブ首長国連邦)1チーム、米国3チーム、オランダ1チーム、KSA(サウジアラビア Kingdom of Saudi Arabia)1チーム、ベルギー1チーム、イタリア1チーム、インド2チーム、英国1チーム、スイス1チーム、フランス+モロッコ1チーム、オーストラリア1チーム、トルコ1チーム、台湾1チーム、日本3チーム、のべ15カ国、全19チームである。
注)最終的には、No.3 Nuon Solar Team、No.7 Fajir、No.10 NSIT、No.12 Cambridge University Eco Racing、No.25 SolarMobil Manipal、は欠場、No.256 Oregon State University がギリギリで参加。のべ11カ国、15チームとなった。


2014年12月14日  ADSCまで1ヶ月になった。

 先月末から、FBで参加予定チームがアブダビに向けてソーラーカーを送り出している様子がアップされるようになってきた。メールではスケジュールやレギュレーション解釈に関するやり取りが飛び交っている。当方はと言うと・・・・・・・・ガイドブック、地図、アラブ関連資料を入手したところで停滞している。そろそろ本腰を入れなければ。最も重要な準備は、本来は不在の間にやるべき仕事を、先に片付けておくことである。年末年始だが、一足先にイスラムの戒律を部分取りして禁酒生活に入らなければならないだろう。




第1章 産油国の憂い へ

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第1稿  2014.12.11.
予告編公開  2014.12.20.
追記修正  2014.12.26.
追記修正  2014.01.31.
微修正  2015.05.12.

Copyright Satoshi Maeda@Solar Car Archaeolgy Research Institute
太陽能車考古学研究所
2006.01.01
Copyright Satoshi Maeda@Team Sunlake
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