Nikkan Fanfare Trumpet Memorial

ニッカン・ファンファーレ・トランペット 保存会

航空自衛隊 航空中央音楽隊 資料館


航空自衛隊立川分屯基地(陸上自衛隊東立川駐屯地)正門


 東京都立川市にある航空自衛隊立川分屯基地内にある航空中央音楽隊庁舎内の資料室にNo.4F型ファンファーレトランペットが、東京オリンピックの正式なフラッグが装着された状態にて展示されている。*1)*2) 楽器本体は新品かと見紛う程であるが、フラッグの方は相応に経時変化しており年月の流れを感じさせる。


航空中央音楽隊資料室 展示の様子 楽器部分拡大


 航空自衛隊音楽隊の歴史は1958年、浜松基地での仮設立に始まる。1961年にはメンバーが立川に異動し、防衛庁長官直轄の「航空音楽隊」として正式に設立された。旧陸海軍軍楽隊の経験者を軸として戦後比較的早期に結成された警視庁音楽隊、陸上自衛隊、海上自衛隊の音楽隊からはやや時期が遅れている。*3) 当初は楽譜が読めるメンバーも少なく、陸上自衛隊音楽隊から指導員を迎えての活動開始で、練習場所にも不自由するような状態だったようだが、東京オリンピック式典演奏への参加が大きな契機となり、その後の発展へとつながっている。1982年に現在の名称「航空中央音楽隊」となり、現在は、「中央」とは別に、各方面隊にも専従の音楽隊が置かれている。1992年には、世界の優秀な軍楽隊に贈られる「スーザ賞」を受賞。1999年には自衛隊音楽隊として初めて、カナダ・ハリファックス市で開催された世界の軍楽隊の祭典「第20回ノバスコシア国際タットゥー」に参加するなど、空飛ぶ音楽隊として国内外で活躍している。

 東京オリンピック開会式には70人編成の航空自衛隊音楽隊として参加し、陸上自衛隊、海上自衛隊の各音楽隊、警察音楽隊、消防音楽隊と共に演奏行進による入場と続く式典演奏を行った。*4) また開会式に先立ち、八王子選手村分村の開村式、入村式にて奏楽を行った。*5) 当時の航空自衛隊の音楽隊は総員40名程度であったため、70名の「航空自衛隊音楽隊」編成にあたっては、広く航空自衛隊内から楽器演奏できるメンバーを特命で招集したとのことである。*6)

 展示されている楽器は、航空中央音楽隊の語り部的存在の渡邊准空尉殿(Tuba,Sousaphone)と広報担当の内田安年空曹長殿(harp)によれば、旧航空自衛隊音楽隊庁舎の片隅に「真っ黒になって放置されていた」物を、現在の庁舎建設(1990年代後半)の際にオーバーホールに出し、リラッカーしたものだという。型式製造番号 No4-17 とあり、レプリカではなく、正真正銘の「本物」である。音楽隊内でも本楽器に関する経緯は周知されておらず、雑誌取材時にレプリカと説明されるなど混乱があったようであるが、当会からの問い合わせを期に「本物」である旨が記述されたプレートが設置されることになった。

 ファンファーレ演奏に参加しなかった航空自衛隊の音楽隊に、なぜこの楽器があるのか?という疑問に対しては、渡邊准空尉殿から明快な回答を頂戴した。

 「ファンファーレトランペットは、式典演奏に参加した各隊に1本ずつ、記念に配布された。」

ということである。当会が把握している以外にも、未だ調査が及んでいない海上自衛隊や消防自衛隊にも保管されている可能性が高いということになる。


航空中央音楽隊資料室 展示の様子 角度を変えて



楽器中央部 ヘビーなピストンケーシングと左側に突き出た2番管 拡大



逆サイドから



刻印部(2番管右側)拡大



中央部を真横から 拡大



ベル側より



組織委員会から送られた感謝状、公式報告書など



感謝状 拡大



「本物」である旨記載されたプレート



航空中央音楽隊資料室 全景



航空中央音楽隊資料室 奥側から



楽器由来を解説頂いた渡邊准空尉殿と



航空中央音楽隊庁舎



航空中央音楽隊庁舎一階ロビーに掲示されている詩


 蛇足ながら、少々ややこしいので立川市の自衛隊事情を解説しておく。*3)
 東京都立川市には二つの防衛省施設
  ・東立川駐屯地(立川分屯地)
  ・立川駐屯地
 がある。
 東立川駐屯地は、防衛省技術研究本部・陸上自衛隊・航空自衛隊により共同使用されており、
 陸上自衛隊では東立川駐屯地、航空自衛隊では立川分屯基地と呼ばれている。
 航空自衛隊の航空中央音楽隊の拠点がこちらということになる。
 一方の立川駐屯地は立川駅の北西に位置し、昭和記念公園に隣接する。こちらの施設には陸上自衛隊の東部方面航空隊が駐屯している。


自衛隊東立川地区に駐屯する部隊。主に研究と情報収集を担当する部隊が入っている。



*1) 「楽器生活探検隊 外囿祥一郎」, バンドジャーナル別冊 ASOVIA! 管楽器パラダイス 2005 Winter,
   p.29, 音楽之友社, 2005.12.01.

 管楽器パラダイスによる、航空自衛隊航空中音楽隊所属の著名なユーフォニアム奏者、外囿(ほかぞの)祥一郎氏へのインタビュー記事に、航空中央音楽隊の大坪隊長と外囿氏とが、当ファンファーレトランペットが展示されているブースの前で談笑している場面の画像が掲載されている。説明文には、
引用:
ここは航空自衛隊立川分屯地航空中央音楽隊の内部
ゆう 基地外の楽器●●ガイが基地内に入ってしまったわけである
標的は外囿祥一郎
世界が認めたユーフォニアムのスーパーソリスト
音楽隊庁舎の階段をトントントンとあがっていったら音楽隊の大坪隊長と談笑中の「標的」に遭遇
なんと1968年の東京オリンピックの際に戦後「自衛隊」として再スタートした陸海空の音楽隊が初めて合同演奏として高らかに吹奏したファンファーレトランペットのレプリカの前で、である。
引用以上(原文のまま)
 とある。「レプリカ」は明らかに錯誤であるが、先に述べたとおり、取材当時は隊内にも本楽器の由来を語れる人が少なかったとのことであるから、いたしかたない面もある。なお、冒頭部の品格に欠けた駄洒落、オリンピック開催年の誤記、自衛隊音楽隊が、あたかも旧日本軍音楽隊を引き継いでいるかのような記述、ファンファーレ演奏が陸海空自衛隊音楽隊の合同演奏であったという誤った記載(開会式の入場行進は合同演奏であったが、ファンファーレ演奏は、開会式前日に警察音楽隊、開会式では陸上自衛隊により演奏されており、合同演奏ではない。また東京オリンピック前年に東京にて開催された国際スポーツ大会においても合同演奏が行われているはずである(これについては調査中)。)等、記事としては甚だ不正確、不的確である。(しっかりしろ、音楽之友社)

*2) 立川ライオンズクラブ 第41期 4月幹事報告(2005/7〜2006/6)
  http://www.tachikawa-lions.com/pdf/k-4104.pdf
 立川ライオンズクラブ 第41期 4月幹事報告(2005/7〜2006/6)に同クラブが陸上自衛隊東立川駐屯地で開催した移動例会の報告があり、
引用:
東立川駐屯地司令○○○○一等陸佐の挨拶
航空中央音楽隊・演奏室・天井高く防音完璧
資料館・東京オリンピック使用トランペット他
ミキシングルーム 世界的有名な方がCD作製
航空中央自衛隊は、発足以来、東京・札幌オリンピック、皇太子殿下ご成婚パレード等参加
との説明付きで画像が掲載されている。

*3) 1958年、希望者を募って仮結成し、陸上自衛隊音楽隊から指導員を迎えてスタートを切った。結成時のメンバー30名中、楽譜が読めたのは10名ほど、当初は楽器経験者は専用の練習場所もなく苦労したとの記述がある。

*4) 「集火式」, 第18回オリンピック競技大会東京都報告書, p.26, 東京都発行, 1965.

*5) 「自衛隊の協力」, 第十八回オリンピック競技大会公式報告書, p.521-524, オリンピック東京大会組織委員会発行, 1966.

*6) 渡邊準空尉殿インタビュー
 東京オリンピック前には正規の音楽隊とは別に基地内で同好会的にバンド演奏を行っている隊員らがおり、式典演奏時にはそのような隊員の方々をかき集めて70名編成の音楽隊を編成したとのことであった。


本頁追加  2007.12.31.
改訂(管楽器パラダイス記事確認)  2008.01.06.
全面改定(航空中央音楽隊庁舎訪問取材内容追記)  2008.01.31.
誤記訂正  2008.03.05.
微改訂  2011.08.13.

関連リンク

立川ライオンズクラブ 第41期 4月幹事報告(2005/7〜2006/6)



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三文楽士の音楽室
2007.12.31